第51話 眩しすぎる
いやもう、びっくりしたんだよ。城代主任と神崎さんと一緒に設計フロアに戻って来ると、みんなが一斉にこっちを向いて拍手すんだよ。あたしと城代主任がギョッとしてたら、萌乃が「花ちゃん早く!」ってあたしの手を引っ張るんだよ。何故かみんな神崎さんに「やるなあ、神崎君」なんて声かけてて、何故か神崎さんもちょっと笑いながら軽く手を上げたりして。
何が何だかよくわからないままに萌乃に引っ張られて窓際まで行くと、さっきまであたしたちがいた試験場が見えて。そこに……
『花』の大きな文字が。
「あれ、神崎さんやんなぁ? みんなで見てたんよ。神崎さん、すっごいテクニックやったし~! もうみんな茫然自失って感じやったんよ~」
「どうですか、上手く文字になりましたか?」
あ、神崎さん。また音も無く後ろに立ってるし、この伊賀忍者め。
「こんな事して遊んでたの? さっき」
「試験場というのは大抵掘られる場所と相場が決まってますし、殺風景な感じがしますので、花を植えてみたいなと思いまして」
「なーんだ。花ちゃんの『花』やと思うとったのに~」
「それも無くはありませんが」
「きゃー! 嘘やん~、羨ましすぎー! 今度『萌』って書いてくださいよ~」
「画数が多すぎますよ」
てか無表情で語るな。嬉しく感じないじゃん。……でもちょっと嬉しい。いや、だいぶ嬉しい。チョー嬉しい。死ぬほど嬉しい。
あたしは子供の頃、この『花子』って名前が大嫌いだったんだよ。だってさ、山田に花子だよ? ネタか? この名前のおかげでどんだけバカにされたと思ってんだよ。
だけどさ、お父さんに文句言ったらさ、お父さんてばちょっと悲しそうな顔でこう言うんだよ。「花子って名前は嫌いか? お前が生まれた時、チューリップの花のように可愛らしい子だと思ったから付けた名前だったんだけどな」ってさ。
それであたし一遍に好きになったんだよ、この名前。バカにされても「あたしは花のように可愛いんだ」って思ったから悔しくなくなったんだよ。大好きになったんだよ。今は体型がチューリップだけど。
だからさ、神崎さんが『あたしたちのFB80』でこの字を書いてくれたの、なんか凄い嬉しいんだよ。
なんか嬉しくってさ、神崎さんを見たんだよ。厳密には見上げたんだけどさ。そしたらさ、伊賀忍者、なんか優しい目しちゃってさ、口角ちょっとだけ上げたんだよ。
あたしヤバい事にさ、その顔見たらクラッと来たんだよ。この人黙ってたらイケメンなんだもん。ドキッを通り越していきなりクラッだよ? その眩しすぎる微笑をこっちに向けながら、神崎さんはあたしに顔を寄せて、耳元で囁いたんだよ。
「メインパネルにバグがありましたよ」
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