第43話 逃げるんすか
「なあ神崎さん、今週末うちとお出かけせえへん?」
「やん、モエも!」
「あたしも行くわ~」
なんか凄い押しだよ。びっくりだよ。
「申し訳ありませんが、週末は溜まった洗濯物をどうにかしなければなりませんし、他にもいろいろ雑用がありまして」
「え? 神崎さん、毎朝早起きして洗濯し……」
「山田さん、何か仰いましたか?」
「い、いえ何も」
怖えーしっ! その目、やめんかいっ!
「そんなん土曜日にチャチャ~っとやっつけて、日曜日遊びに行こうや~」
「神崎さんクルマの運転メチャメチャ上手いって花ちゃんから聞いたで~」
「モエも助手席乗りたいわ~。そんでこう、手を……いや~ん」
「萌乃さん! ってか、いや~ん!」
「あん、もう沙紀やめて~な~、照れるやん」
自分たちの世界だよ。誰にも止めらんないよ。
と思ったら止めたヤツが居たんだよ。まさかまさかのガンタだよ。しかもなんだかさっきと雰囲気違うよ。
「神崎さんて、クルマの運転、上手いんすか」
「別にごく普通ですが」
「俺、花ちゃんに聞いてるんすけど」
「え? あたし? あ、うん、神崎さんメチャメチャ上手いよ」
「そうっすか」
「何? 何よ?」
どーしたガンタ? さっきと別人だよ。笑ってるよ。しかも挑戦的だよ。怖えーよ、こいつら。なんなんだよ?
「神崎さん、週末、俺と出かけませんか?」
今何と?
「えー? ガンタどうしたーーーー!」
「ガンタそっち系やったん?」
「信じられへーん!」
「まさかのBL!」
「ガンタと神崎さんのデートを激写!」
しかーし、みんなの大騒ぎを余所にガンタは何故か勝ち誇ったように笑ってんだよ、何なんだよマジで。キモいよ。
「僕と岩田君でお出かけですか?」
「鈴鹿、行った事無いっすか?」
「無い事もありませんが」
「マイカーランってのがあるんすよ。自分のクルマで国際レースのコースを走るんすけど、知ってます?」
「聞いたことはありますね」
「一緒に出ませんか?」
え? これって・・・挑戦状?
「岩田君は何に乗ってらっしゃるんですか?」
「GT-Rすけど」
「そうですか」
「神崎さんは?」
「レガシィ・ツーリングワゴンです」
「ワゴンすか?」
「そうです」
「1週間あれば足回り弄れますよ」
ガンタ、それは神崎さんに足回りを弄って参戦しろって言ってるか?
「君と勝負しろと言う事ですか?」
「レガシィもそこそこ走るんすよね」
「GT-Rでワゴンとやるんですか?」
「神崎さんフルチューンして、俺ノーマルに戻してもいいすけど」
「やめておきましょう」
「自信無いんすか?」
「いえ、岩田君がノーマルに戻す必要は全くありませんし、僕もチューンする気はありません」
「逃げるんすか」
「僕は人に恥をかかせる事を好みません」
うをう! 大きく出たよ神崎! ノーマルのワゴンでチューン済みのGT-Rに勝つ気かよ! ……って、ところでGT-Rって何?
てゆーか、『野生のカバ』とか『マタニティ』とか『料理作れない』とか、めっちゃ恥かかされてるんですけど! どの口がそのセリフ言ってるんですかっ!
「神崎さん、本気で言ってるんすか?」
「僕は大事な足であるクルマをそんな事に使えませんので。万一クラッシュでもしたら業務に支障が出ますし」
「でも俺」
「まあまあ……」
とここで親父さんが割り込んだ。
「ガンちゃん、勝負ってのは一人じゃあできねえ。相手がやらねえって言ってんだから、ここは諦めなはれ」
「……はい」
ガンタは親父さんの言う事は絶対に聞くらしい。
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