第41話 あの、山田さん!
そのあとはさ、三人娘の猛攻を見てる方がおかしくてさ。あたしはすっかり意気投合したヨッちゃんと一緒に大ウケで見てたのよ。神崎さんの攻防戦を。特に萌乃のアニメ声による怒涛の攻撃が凄まじいのよ。
「神崎さん、休みの日は何してはるんですかぁ?」
「音楽を聞きながら読書です」
「誰とか聴かはんの~?」
「ショスタコーヴィチやシベリウスですね。ブラームスも好みです」
「それってクラシックちゃうのん?」
「そうですが」
「歌は~?」
「パヴァロッティはよく聴きますね」
「何なん、それ~?」
「は? 世界三大テノールをご存知ないんですか?」
「???」
「なあ、ちょっと萌乃黙ってて。あんなー神崎さん、読書って何読んではんの?」
「いろいろ何でも選り好みしませんよ。スタンダールからクリスティまで」
それを聞いてヨッちゃんがコソコソと耳打ちしてくる。
「あの3人、絶対ついてってへんで。クリスピーなんて絶対読んでへんし、パパラッチとかショタコンビーチとか絶対知らんわ」
「あたしも知らんけど、絶対誰もついてって無いよね」
そこに思いがけない人が割り込んで来る。城代主任だ。
「私、ショスタコーヴィチ好きよ。しつこいとか重たいとか言われるけど、そこがまたゴージャスでいいじゃない?」
「城代主任もそう思われますか? 僕もです」
「でも神崎さんはブラームスって感じだわ」
「ええ、ブラームスが一番好きですよ」
ううう、三人娘の城代主任を見る目が怖い。でも城代主任は余裕の笑顔だ、それもまた怖い。
「それにしても神崎さんがスタンダールなんてちょっと意外ね」
「そうですか?」
「神崎さんは何の恋なのかしら?」
「城代主任は?」
「趣味の恋かしらね」
「僕は情熱の恋ですよ」
「素敵ね」
チョイ待ち、何の話をしてるんだ? 恋って何だ? 一体何のネタだ? てゆーか神崎、あんたに『情熱の恋』って言葉が似合わな過ぎるぞ。そこツッコめよ、城代主任!
「神崎さんはきっと愛する人を幸せにするのね」
「僕は神崎でしかありませんから」
「同じ事よ」
完全に二人の世界じゃん。なんでこれで話通じてんのよ? しかしこれでめげるよーな三人娘では無い。
「そう言えば神崎さん、お弁当手作りなんやんね~。今日花ちゃんのお弁当見せて貰ったわ~」
「うんうん、美味しそうやったし~」
「花ちゃん羨ましい~」
「チョイ待ちいや、花ちゃん、神崎さんに作って貰ろてん?」
そこ食いつくとこかよヨッちゃん?
「そーだけど……」
「ええええ~? 神崎さん、俺にも作ってくれへん?」
そっちかよ。
「あ、meにも」
浅井! お前もかー!
「アホ言わんといて。花ちゃんはお隣同士やから、ついでに作ってあげてるだけやん、なんでヨッちゃんや浅井さんの分まで神崎さんが作らなあかんの? それやったらうちも作って貰うし!」
「ひじき入り豆腐ハンバーグ美味しそうやったよね~?」
「うん! オクラのピクルスも~!」
「カボチャのサラダも美味しそうやったし」
3人が騒いでいると、またまた城代主任だ。
「あら? 神崎さんの方は豆腐ハンバーグ無かったわよ? ねえ?」
「ええ、あれは山田さんの方だけです」
「ちょっと、なんで城代主任が神崎さんのお弁当の中身知ってはるんですか?」
「今日は神崎さんと二人でお弁当食べたからに決まってるでしょ?」
「えー? 二人っきりですか~!?」
「そうだけど」
3人の城代主任を見る目がメッチャ怖えーし! しかも城代主任余裕だし! 浅井さんの神崎さんを見る目も恨めしそうだし!
「神崎さん優しいのね。花ちゃんの為だけに朝からひじき入りの豆腐ハンバーグ作ってあげるなんて。あ、そっか、そうやって幸せにするのね」
「花ちゃんの為、だけに?」「だけに?」「だけに?」
げつ、余計なことゆーなよ。3人の目が怖いじゃん。
「何なん? 花ちゃん、ほんまは神崎さんと付き合うてはんの?」
「違うって」
「まあまあ……」
親父さんが間に入る。まさに箸休めと言った感じだ。
「神崎君、モテるねぇ。本社でもモテんのかい?」
「とんでもありません。つまらない男の代名詞です」
「ねえねえ神崎さん、ほんなら今度の週末、一緒にどっか遊びに行かへん? あたしとー」
「やん、うちと!」
「モエも!」
「あ、俺も!」
「ヨッちゃん誘ってへんし!」
「じゃあmeは城代さんとどこかへ出かけようかな」
「私は別に浅井君と出かける気は無いけど」
もう止まらねーよ、コイツら。……と、その時。
「あの、山田さん。俺と付き合って下さい!」
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