第39話 三羽烏

「うわー、これ全部神崎さんが作らはったん?」

「そうですけど」

「これも? これも? こっちのも?」

「はい~」

「山田さん、羨ましいわぁ」


 もともと3人しかいない女子がここに勢揃いしてる。


「な、山田さん、あたし恵美でいーし。山田さん名前なんてゆーん?」

「花子です」

「山田花子さん?」

「そーなんですよ」

「やだー、お笑い芸人みたい~!」

「動物園のカバみたいって言われるかと思ってドキドキしましたけど~あははっ」

「ほんなら花ちゃんね。うち萌乃な~。タメ語でええよ~」

「うちは沙紀って呼んで」

「えーと、恵美ちゃんと萌乃ちゃんと沙紀ちゃんね」

「そーそー」

「ちゃん付けんていいし」

「ってゆーか動物園のカバって~! 自虐系?」

「うん、もうあたしどーやっても痩せらんないし、カバでいーし」

「でも巨乳やん?」


 低めの声でシャキシャキ喋る恵美ちゃんは、背が高くてスマートだけど胸は絶壁。


「あたしは胸が巨乳なんじゃなくて、体全部が巨大なんだよね」

「モエもダイエットしてんねんけど、なかなか痩せられへんよね~?」


 この甘ったる~いアニメ声のまったり口調は萌乃ちゃん。あたしと同じチビで、ちょい太目。でもあたしに言わせりゃダイエットの必要なんて全く無いから。


「それより早よう見せて~」


 大盛り上がりの元気印、沙紀ちゃんは中肉中背。とにかくハイテンション。


「あたしもまだ中身知らないんだけどさ」


 そう言いながらお弁当箱を開けると、3人の、いや、あたしも入れて4人の歓声が部屋にこだまする。


「すっごーい! 何これー!」

「豆腐のハンバーグ? ひじき入っとるやん」

「これ筍の土佐煮やんな?」

「ピリ辛蒟蒻もあるわ~」

「このカリフラワーとオクラとマイクロトマトは何なん?」

「ピクルスやん!」

「カボチャのサラダ美味しそう~! レーズン入ってるし!」

「リンゴもウサギさんになってるし、かわい~!」


 食べていいすか?


「なぁ、毎日神崎さん作ってくれはるん?」

「さぁ? 昨日と今日は作ってくれたけど」

「そやけど、こんな手ぇの込んだ物、朝から作らはる人やん? 毎日作ってくれそうやわ~」

「花ちゃん神崎さんの隣に住んではんの?」

「うん、とっ、隣だけど」


 何どもってんだ、あたし。てか食べるよ?


「ほんなら夕食とか一緒に食べれらるんちゃうの?」

「あーうん、昨日は一緒に食べた」

「えええ! 神崎さんの手料理?」

「うん、あたし、何にも作れないもん」

「いいなー」


 ヤバいよ、あんまり深く追求しないでよ。ゴルゴ神崎がどこかであたしにレーザーポインタ当てて照準セットしてるよ……。


「昨日は何やったん?」

「スパゲティとカルパッチョ」

「えええええ~! いいなぁ!」

「神崎さん31歳だっけ? カッコええなぁ~」

「ほんま、ちょーイケメン! それに料理も上手なんてありえへんわ~」


 そーそー、しかも毒舌。


「神崎さんとドライブとかしたいわー」

「いややわ~、そんなん照れるやん。モエ助手席やん、きゃー!」

「きゃーきゃー!!」

「いきなり『萌乃さん』とかって手ぇ握られたらどないすんの~」

「いや~ん! 悶絶~!」


 萌乃、カレーパン片手にジタバタしてる。ああ、なんか3人の食事が数日前までのあたしの昼食そのまんまだ。カレーパンにカツサンド、唐揚げ弁当、焼きそばパン、ミルクティに野菜ジュース、プリン、毎日食べてたわー。今もうこれ食べられんわ。


「あたし、東京からここまで神崎さんの助手席でグーグー寝て来たよ?」

「えーマジでー!」

「うん、すんごい運転上手だった」

「いいな~!」

「ずるーい!」

「手ぇ握られたぁ?」

「いや、手じゃなくて蹄だと思われてるし」

「なーなー、彼、独りもんやんね? 彼女とかおらへんやんね?」

「居る訳ないじゃん、あのチョー毒舌に」

「毒舌なん?」

「だってあたし野生のカバ扱いだよ?」

「えー、いいなー、モエ毒舌吐かれたい~!」

「今夜の飲み会で3人で囲めば毒舌の10や20吐いて貰えるよ」

「じゃ、囲も!」

「うん、決まり! あたし神崎さんの右」

「あ、恵美ずるーい、ほんならモエ左ね」

「あーもう、恵美も萌乃もずるいしー、ほんならうち正面!」

「城代主任が参戦して来たらどーする?」

「入れてやんないしー!」


 彼女たちは今頃城代主任と神崎さんが二人っきりでお弁当食べてるなんて思ってないんだろうなぁ。黙っとこーっと……。


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