第38話 二人きり?
「山田さん、このメインコントロールバルブの仕様なんですが」
来た! 早速来たよ、恐怖の神崎個別指導が!
「油圧ユニットね、私も聞いておきましょう」
城代主任まで来ちゃったよ。
「実はね、ここまで来ちゃってるから言うの躊躇しちゃうんだけど……バケットの形状を変えようかって話が出ていて」
「今からですか?」
「そうなの。作業効率から考えてね、このバケット容量を10%増やそうかって。そうするとバケットシリンダにかかる圧力が変わるでしょ? その場合のリミットはどれくらいに設定したらいいかしらね」
「それはバケットの形状によっても変わると思いますので、デザイナーも交えて話した方がいいですね」
「神崎さん、CAD描ける?」
「勿論です」
「じゃあ話が早いわね」
って、途中からあたし話に参加してないよ。何だかなぁ。てか、城代主任って関西弁じゃないなぁ?
なんて思ってたらお昼のチャイムが鳴って、恐怖の神崎個別指導を免れた。
「山田さん、今日みんなでお弁当食べるんだってね、恵美ちゃんから聞いたけど」
「はい、何か今日はみんな食堂に行かないとかで……」
ドキドキしながら神崎さんをチラ見したけど、神崎さんは全く顔色一つ変えない。
「神崎さんは? 今日もお弁当?」
「ええ、そうですが」
「じゃあ、神崎さん、私と一緒に食べない? またお弁当のアイディアを盗みたいんだけど」
「僕のなんてアイディアと呼べるような代物ではありませんが、それで宜しければ」
「じゃ、また昨日のところで」
って、さりげーに城代主任てば、神崎さんと昼食の約束してるよ。二人っきりかい? 城代主任、神崎さんの毒舌にやられなきゃいいけど。知らんよあたしは。
「山田さーん、ちょっとお昼買いに行ってくるから、ここで待っててねー!」
「はーい」
あれが恵美ちゃんかな? 何でもいいや、そのうち覚えるし。
「山田さん」
うっ! 神崎さん!
「はい……」
「朝急いでいたものですから、僕の方にまとめて入れて来てしまいました。これ、山田さんの分のドレッシングです」
「あ、どーも……」
ってか、ドレッシングも手作りかい。こんな入れ物よく見つけて来るよね……。
神崎さんからドレッシングを手渡される時、彼の手があたしの手に触れた。冷たい手だ。手が冷たい人は心があったかいって言うけど……。
「ダイエットを考えてオイルカットにしてみました」
あんた毒舌だよっ!
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