第37話 遅刻する!
朝あたしが大号泣しちゃったもんだからさ、なんかもう時間無くてヤバかったのよ。それでもちゃんとお弁当作ってくれる神崎さんは凄すぎなんだけどさ。
でも、どう考えてもヤバいよ、時間無いよ。遅刻だよ。そう思ってたらさ、神崎さんが落ち着き払ってこう言うのよ。
「山田さん、今日は時間が無いので裏道を使います」
「裏道って却って遠いんじゃないの?」
「ええ、距離はありますけど、時間的には早い筈です」
「はあ……」
「シートベルトしましたね?」
とか言いながらエンジン掛けてるよ。なんかいつもと雰囲気違うよ?
「ほんの少しの間ですから頑張ってください」
「え? 何を?」
と言う間もなく、神崎さんの黒いワゴンはすーっと動き出した。
嘘でしょー! これワゴン車じゃないのー? 何だこの加速はー! ここが山奥なのをいいことに、神崎さん、道路交通法無視してないかー?
もう熊とか猪くらいしか出ないような道路を有り得ないスピードでかっ飛ばしてる。見つかったら罰金ヤバいって。つーかあたしの腹筋ヤバいって。てーか、タイヤロックして横滑りすんのやめよーよ! めっちゃ楽しいじゃんっ!
「きゃは~~~!」
「怖いですか?」
「たのし~~~!」
「それは結構」
「これ運転ミスったらどーなる?」
「仲良く心中です」
って、涼しい顔でシフトチェンジを繰り返してる。ちょーっとちょっと、こんな山道でそれアリかい? てかマジで運転うめーよ!
「ねーこれ、ワゴン車だよね!」
「はい」
「なんかすごーい! ラリー走ってるみたい~!」
「ラリー経験者ですか?」
「んなわけないっしょ! モノの例え!」
「そうですか」
「神崎さんあんの?」
「あります」
「え? マジ?」
「すいません、サバ読みました。実は国際C級ライセンス持ってます」
「わかんないしー、てかそれ逆サバ?」
「あまり喋ると、舌噛みますよ」
「ふんがっふっふ」
で、あっという間に会社に着いた。これなら毎日こっちの道から行った方がいいじゃん。しかも毎朝楽しいし!
「シート買い替えよーよ」
「クルマのですか?」
「うん、フィガロに」
「レカロですか?」
「そーかも」
で、部屋に入るなり城代主任がこっちに来たんだよ。
「あ、おはようございます」
「おはようございます、山田さん、神崎さん」
「おはようございます」
てか笑顔作れ神崎。
「ちょっと神崎さん、悪いけどすぐミーティングしたいの。私物を置いたら仕様書持ってあっちの作業机の方に来て貰える?」
「はい、すぐ行きます」
神崎さんは1分と待たせずに仕様書を持って行った。なんかあたしはぼんやりとそれを眺めてて、他の女の子に声をかけられた。
「山田さんおはよ~」
「あ、おはよーございます」
「ねえ、昨日神崎さんと城代主任と一緒にお昼食べたんやって?」
「あ、はい~。チューリップのとこで」
「聞いたで~、神崎さんの手作り弁当やって?」
「えー? 城代主任から聞いたんですか?」
「うんうん! なんやエラいゴージャスやったって言うてはったわ。今日の城代主任のお弁当、神崎さんのを参考にしたって言うてはったし。今日も神崎さんの手作り弁当?」
「まあ、そうなんですけどー」
そこに他の女の子も参加してきた。
「ええなぁ、モエも神崎弁当見たいわ~。あ、そうや、あたしお昼何か買ってくるし、一緒に食べよ? 神崎弁当拝まして貰いたいわ~」
「ほならうちもそうする。一緒に食べよな?」
「ええ、まあ」
神崎さんに叱られるかな? でもしょうがないよね、言いふらしたの、あたしじゃないもん。城代主任だもん。
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