第33話 怒ってる?
「城代主任、綺麗な人だし優しいし、なんか素敵だな~」
「そうですね」
いやあんた、全然そうだと思ってないよね、今の言い方。
「お花も綺麗だったし。神崎さん、お花の事も詳しいんですねー」
「山田さん」
「はい?」
「僕が何故ネモフィラの話を始めたか全くお判りになってないんですか?」
「ほえ?」
神崎さんは「はぁ~っ」とこれ見よがしに溜息をつくんだよ。
「僕が作った夕食を一緒に食べた話をなさったでしょう?」
「はい! 美味しかったし~! もー幸せ~! 今夜も作ってくれるんですか~?」
「あのですね」
え? 何か怒ってる?
「夕食を外で一緒に取るなら判ります。でも僕の手料理を夜に食べると言う事は、一緒に住んでると言ってるようなものじゃないですか」
「うん、そう言おうとしたら、神崎さんがお花の話……」
「あのですね」
「は、はいっ!」
怖えーよ。
「きっと城代主任の事ですから、一緒に派遣された僕たちが、会社から隣同士の部屋をあてがわれたので、夕食だけ一緒に取ったとそのように考えて下さるでしょう。普通の思考回路を持った常識人ならそう思う筈です。間違っても同じ部屋に住んでいるなんて思う訳がありませんから。それをあなたはわざわざ自分から『一緒の部屋に住んでいる』と言おうとしましたよね? 何故そんな常識を逸脱したような事をしようとなさるんですか」
「あ、ダメですか?」
「僕が良くてもあなたの方がダメな筈です。いいですか、山田さんは嫁入り前の独身女性で、特定のお付き合いなさってる男性もいらっしゃらないんですよ」
あんただってそーだろが。
「そんな立場の女性が、恋人でも婚約者でも無い全く無関係の独身の男性と一緒に住んでいるなんて、一般常識で考えて有り得ない事なんですよ。僕と特別な関係だと思われてもいいんですか?」
それは困るかもしれない。女子社員達の嫉妬とヤキモチとじぇらしい(同じか)の対象になりかねない。そうなると、折角今日一日かけて築き上げたあたしの居場所は、一瞬にして音を立てて崩れ去ってしまうじゃないか。
「それは、やっぱまずいかな……」
「山田さん、発言する前に一呼吸おいて、その言葉を言っていいものかどうか良く考えてから口にした方がいいですよ」
人の事言えないっしょ? 誰よ、野生のカバって言ったの。誰よ、マタニティって言ったの。でも実際困るのはあたしだから何も言えないし。
「とにかく気を付けて下さい。本来ならお弁当もあなたが作って、ついでに僕も分けて貰ったくらいにしておいた方が良かったんですが、もう城代主任にバレましたから仕方ありません。明日の歓迎会では羽目を外さないようにして下さいね」
「はーい・・・」
何だかあたしはバケツを持って廊下に立たされてる子供みたいにシュンとしてしまった。
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