第26話 お風呂で反省会
お湯に浸かってぼんやりと昨日からの事を考えた。
昨日の朝はまだ、あれが神崎さんだとは知らなくて、総務の兄ちゃんだと信じてて、駅まで送ってくれると思ってたんだよね。それからはジェットコースターのように時間が過ぎてさ。とにかく全部神崎さんに引っ張って貰ってたじゃん。
何やらせても完璧でさ、お風呂だってちゃんとバスタオルとか昼間干した奴をあたしが昼寝してる間に全部取り込んで畳んで片付けてくれてて、あたしが使う分だけちゃんと準備しといてくれてさ。ここにもシャンプーもコンディショナーもボディソープも完璧に準備されてるし、脱衣所にはバスマットも敷いてあったしさ。
なんか腹立つほどなんでも出来ちゃってさ。そんで『山田さんほど隙だらけな人は見たことがありません』とかさ、『野生のカバってそのまんまじゃないですか』とかさ、『仕事のミスを減らしていただければ』とかさ、シレッと攻撃してくるしさ、しかもそれがわざとじゃなさそうだしさ。だけど、いちいちご尤もだからなんにも言えないじゃん。
つまりさ。神崎さんが人並み以上にできるのは置いといてもさ、あたし自身がなんにもできない人って事じゃん? あたし、お母さんのお手伝い、なーんにもしなかったからなぁ。マンガ読んでゲラゲラ笑って、アニメ見てウルウルして、テストの前だけちょっと勉強して、あとはゲームして、休みの日は友達と遊びに行って、自分を磨くような事って、ほんっと何もしてなかったなぁ。
神崎さん、凄いな。クルマの運転も上手かったし、建設用車両は一通り運転できるって言ってたし。掃除も上手いし洗濯も主婦の技知ってるし、ロールケーキも綺麗に切ってた。あたしがボケーッとしてる間に布団も干してくれたし、お風呂も洗って入れといてくれた。大体さ、これレンタルしてくれてなかったら、テーブルも冷蔵庫も洗濯機も無かったんだよ? これ思いつくことが凄いよ。
しかもカーテン一つ選ぶにも、部屋を決めるにも、防犯上の事まで心配してくれてさ。細かい事まで気を遣って、妹さんにまでリサーチしてくれてるしさ。
その上更に、今何か夕ご飯作ってくれてるんだよね。チョ~いい匂いしてた。そう言えばお弁当も作ってくれるって言ってたし。あたし、『できない』って理由で何にもしないのはちょっと申し訳ないかな。少しでも何かできるようになった方がいいよね。せめて『四角い畳を丸く掃くって言葉、ご存知ですか?』って言わせないくらいにはなった方がいいよね?
なんかちょっとだけやる気出てきた。つっても、三日坊主どころか、お風呂上がった瞬間に「もういいや」ってなっちゃう可能性も大だけど、「よし、やるぞ!」って思った時だけでも逃さないようにしよう。神崎さんだって男の人なのにあれだけできるんだから、あたしにできない筈はない! 花嫁修業のつもりで(ちょっと遅いけど)頑張ろう。・・・でも、明日からね。今日は疲れたからもう無理。
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