第25話 野生の……
なんかね、あたし、えらい疲れて寝ちゃったみたいなんだよ。神崎さんの部屋から戻って、そのままグデーってベッドにひっくり返ったら気持ち良くってさ。いい感じに西日も当たってあったかくてさ。そんで西側の窓も南側のベランダのテラス窓も全開にしたまま、グーグー寝てたんだよ。目が覚めたらもう6時でさ、ちょっと寒くなって目が覚めたって訳なんだよ。
目が覚めたら急に神崎さんが気になっちゃって、下に下りて行ったのよ。……てゆーかさ。階段下りる途中で、なんて言うのかね、あたしの胃壁を刺激する香りが漂ってくんのよ。何これ、何の香りなのよ?
「あ、山田さん。お風呂沸かしておきましたけど、どうされます? 人によっては、自分が入った後にそのお湯に他の男性が入るのを嫌がる女性が居ると聞いたものですから」
「あたしそーゆーの、ぜーんぜん気にしませんから大丈夫です。サルと一緒に温泉入れる人ですから、ってゆーかサルと一緒に入った事あるし」
「いえ、いっそサルの方がいいと言う話も聞いてますので」
「ねえ……神崎さん、そういう女性心理って誰から聞くの?」
「妹ですが」
「妹さん居るの?」
「はい、29歳独身の妹が」
「あたしと同い年じゃん!」
「恐らく同じくらいだろうと思って、妹に聞いてみたんです。そうしましたら『えー? 私の後に彼氏でもないような男が入るのー? サイテー! 変態だったら匂いとか嗅がれてそう! そんならサルと入った方がマシ!』と派手に嫌がられましたので」
「はあ……そうなんですか。てか神崎さんおいくつですか?」
「31です」
「へー。彼女居ないんですよね?」
「はい。それが何か」
「いや、別に」
イケメンなのにね。何でもできるし。頭いいし。気も利くし。でもやっぱその物言いだよね。あと笑顔ないのも損してるよ……。
「あたし、先でも後でもいいんで、手の空いてる人から入ればいいですよ。もうホント、あたしは神崎さんの妹さんとは別の種類の生き物だと思って貰っていいですから。野生のカバと一緒に住んでるくらいのつもりでいいですから」
「野生のカバはあまりにも……見たまんまじゃないですか」
おい、神崎マジで死にたいか。
「僕はしばらく手が離せないので、宜しければ山田さん先にどうぞ」
「何やってるんですか?」
「夕食を作っています」
「は?」
「ですから夕食を」
いや、まあ、そのエプロンは似合ってるよ。あんた何着てもカッコいいよ。多分、作業着でもイケてると思うよ。しかしだ。20代の女の子(と言うには薹が立ってるか)が居るこの部屋で、あたしに『風呂どうぞ』と言って自分は夕食をいそいそと作ってるあんたは何者なんだい? 執事か? 執事なのか?
「今晩は山田さんの事を考えましてヘルシーメニューにしてますからご安心を」
そういう問題じゃなくて。
「何か? リクエストがありましたか?」
「いえ、そういう事じゃなくて。ご飯作らせちゃってすいません」
「僕は毎日自分で作ってますから、一人分も二人分も同じです」
「そうですか……じゃ、あの、先にお風呂入って来ます」
「はい、ごゆっくり」
なんかこう、しっくりこないまま、それでもあたし的にはすっごいラッキーな事なんだよな~とか思いつつ。あたしはお風呂に向かったのだ。
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