第24話 新婚夫婦みたいだよ

 家に帰ると時計は3時を回ってて、あたしは神崎さんに言われるまま自分の荷物を片付けることにした。

 スーツケース一つだけの荷物。はぁ……。あたし、ホントに何にも考えてなかったんだな。仕事用のスーツが3着、普段着少々とパジャマ用のスウェットと下着と、メイク道具くらい。他はなーんにも持って来なかった。これじゃ確かにホテル住まいの装備だよね。

 一人で来てたらどうなってたんだろう? カーテンも無いこの部屋で周りを気にしながら着替えてたかな。ご飯食べてても丸見えだよね。神崎さんなんか防犯まで考えてカーテンの色決めてたのにさ。確かにこの色なら、男か女かわからんわ。

 ベランダを開けてみるとすぐ山が見える。角部屋だから南向きのベランダが取れたんだ。ベランダにレンタルの布団が干してある。知らぬ間に神崎さんが干してくれてたんだ。左を見ると神崎さんの部屋のベランダと繋がってる。ベランダでお互いの部屋を行き来できちゃうじゃん。行かんけど。まあ、神崎さんもこんなデブがいる部屋なんか覗きに来ないだろうしね。

 つーかさ、スーツケースの中身出して洋服ダンスに吊るしたら、もう殆ど終わったよ。

 そう言えばさ、神崎さんて、キッチン用品とか大量に持ち込んでたけど、自分の荷物ってあった? なんか、神崎さんの私物って、あのパソコンくらいしか見た記憶ないんだけど。

 なんて思ってたら、部屋のドアがノックされた。あたしが「どーぞ」って声をかけたら、静かにドアを開けて神崎さんがチラッと部屋の中を覗いて言った。


「布団をそろそろ入れないといけないと思いまして。布団カバーもお持ちしましたから。ご自分でできますか? 僕が入れましょうか?」

「あ、あの、一緒にやりましょう。あたし布団カバーやりますから。神崎さん布団入れて貰えます?」

「わかりました。ここはベランダが繋がっているのでこういう時便利ですね」


 そう言いながら彼は部屋に入って来ると、布団を軽く払って中に運び込む。あたしはそれに布団カバーをかけて……これもオフホワイトにグレーのチェックのカバー。いつの間にこんなの買ったんだ?


「山田さん、僕の部屋の布団にもカバーお願いできますか? 山田さんのベッドは僕が仕込んでおきますから」

「あ、はいはい」

 

 力仕事やってくれるんだ、どう見てもあたしの方が力持ちなのに。なんて思いながら、ベランダ伝いに神崎さんの部屋に入る。……この部屋、あたしの部屋より何も無い。てゆーか、まだ自分の荷物に手を付ける余裕が無いんだろうな。

 さて、神崎さんの布団カバーは……こっちはグレーにオフホワイトのチェックだよ。お揃いだよ! またオフホワイトとグレーだよ! どこまでもコーディネイトしてくるよ。まるで新婚夫婦だよ。まあいいか、この際『珍獣・神崎さん』と新婚夫婦ごっこでも楽しむか。いや、楽しくは無いな。何せ個別指導だし……。

 なんて、またバカな事を一人で考えながらカバーをかけていたら、あたしの部屋の布団が終わった神崎さんがこっちに入ってきた。


「すみません、僕のまでやらせてしまって」

「いえ、あたしのもやって貰いましたから。ところで……布団カバー、お揃いなんですね。スリッパもマグカップも全部色揃えて」

「あ、気づいて貰えましたか? いろんな色にしてしまうとどれがあなたのでどれが僕のわからなくなってしまうので。あなたがスリッパを選んだ時に、全部決まったんです。あなたの物をオフホワイト、僕の物をグレイにしておけば間違いありませんから。布団カバーを洗った後で、間違って僕のをあなたの布団にセットして、なんか男臭かったりしたら嫌でしょう?」

「あ、そこまで考えてなかったです」

「山田さんに気持ちよく生活して貰いたいですから」

「神崎さん、実は凄くいい人なんですね。そんなに気を遣って貰わなくても大丈夫ですよ」

「いえ、気持ちのいい私生活で、仕事上のミスを減らしていただきたいので」


 いきなり攻撃してくるかよ。油断したよ。めっちゃいい人じゃんとかマジで思ったよ。結局そこかよ……。


「じゃ、あとは僕が自分でやりますから」

「あ、はい。お手伝いする事があったら呼んでください」

「はい、ありがとうございます」


 あたしは再びベランダ側から自分の部屋に戻った。

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