第22話 156です

 あたしがカーテンフックを付けている間にも、神崎さんはマットやら水きりカゴやらを黙々とセットして、どんどん人の住む部屋に近付いて行ったわけよ。洗い物も手際よくてさ、買って来た食器類なんかもあっという間に綺麗に洗って、鍋やフライパンやヤカンも片付いて、お風呂洗剤とかシャンプーとか洗濯石鹸とか歯ブラシに至るまで、あたしの脳から完全に抜け落ちていたモノたちも神崎さんによって完璧に整えられていったわけよ。凄くない? 神崎さん。


「フックの付いたものからカーテンセットして行きますんで、終わった物はこちらに下さい」

「あ、はい、これ終わってます。そこのテラス用です」

「ありがとうございます」


 テラス用のカーテンを持った神崎さんは普通にカーテンを付け始める……んだけど、それ、230センチだよ? あんた一体何センチよ?


「あのー……神崎さんて身長何センチですか?」

「182ですが。何か?」

「背、高いし、腕も長いですね」

「ええ、こういう時に重宝します。踏み台が要りませんから」


 あんたは要らないだろうけどさ、あたしは届かないところがいっぱいあんのよ。踏み台ないと困るんだよ。


「高い所には極力ものを置かないようにしましょう。山田さん、155センチくらいですか?」

「156ですっ!」

「ではなるべく190センチ以下の所に収納しましょう」


 このあたしの1センチのこだわりを華麗にスルーする訳だね君は。 


「ところで山田さん、2階の部屋ですが、どちらを山田さんがお使いになるか決めましたか?」

「うーん、どっちでもいいです」

「では僕が玄関側の部屋を使います。山田さんは奥の方をお使いください」

「何か理由があるんですか?」

「外から良く見える玄関側の部屋の中に、女性の持ち物が見えるとそこに女性が住んでいるというのが判ってしまいます。防犯上、良く見える方の部屋に男性の物が見えた方が安全ですから」


 すげーよ。マジすげーよ。そういうこと考えてるあんたすげーよ。あたしゃ『朝日が眩しいかな』とか『西日キツイかな』とか、そんな事しか頭に無かったよ。


「では2階のカーテンを付けに行きましょう。山田さんはご自分の荷物を持って上がってください。ついでにベッドや机の位置の微調整もしましょう」


 こうして『あたしたち』の家はあっさり二人がすぐに住める家になってしまったのだ。あたし一人じゃこうはいかなかっただろう。ありがとう神崎さん!

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