第21話 それ私物ですか?

 で、言葉通り神崎さんがバタバタやってんのなんか全く気にせず、あたしはフツーに唐揚げとかエビフライとかガッツイてた訳で。神崎さんはリビング正面のテラス窓を全開にして、すぐ目の前にあるクルマの後ろのドアを開けて、そこからあたしがガンガン食べてるこの部屋にいろんなものを運び始めたのだ。

 まずはさっき買ったばかりのカーテン、布団カバー、トイレのブラシとか洗面器やバスマットとかっていうサニタリー用品、それにキッチンマットや物干し竿、シャンプー、石鹸、台所用洗剤にスポンジたわし、45リットルのビニール袋に、三角コーナー、こういうことに気付くって、普段どんだけ主夫してんのよ?

 それにさ、買ったものだけじゃないんだよ、驚くのはこれからさ。神崎さんが自宅から持って来たものが……なんていうか有り得ない。段ボールに詰めてきたものが出て来る度にあたしはいちいち驚いたんだよ。

 まずヤカン。これ、発想に無かった。けど、これ無いとコーヒーも飲めないじゃん。次に出てきたのがフライパンと中華鍋。普通の鍋は片手鍋が2つと両手鍋が2つ。こんなにどーすんのよ、あたし料理しないよ? ボウルにザルに、調味料入れが中身入ったままどーんとワンセット。

 そして忘れてたあたしもどうかと思うけど、炊飯器! 五合炊きの圧力釜。さらにオーブントースター。使い込まれた檜のまな板に包丁セット。フードプロセッサまであるよ。

 そんだけじゃないんだよ、お玉やフライ返しまで持参してんだよ? 流石に菜箸は買ってたみたいだけどさ。ってゆーかいつの間にそんなの買ったのよ?

 そんなのをどんどんキッチンにセットして綺麗に並べてんのよ。


「あの……ご飯終わったんですけど、あたし何したらいいですか?」

「ああ、すみません、バタバタして。食べた気がしなかったでしょう?」

「いえ、あたしはジャングルの奥地でワニの食事を見ながらでも食べられますから」

「そうですか、それは良かった。では済みませんが、さっきホームセンターで買って来たものを全部袋から出して、値札なんか外したりして貰えますか。鋏はこれを使って下さい。あ、ごみはこの袋に。こっちは燃えるごみでこっちは不燃ごみです。お弁当のトレイは洗って不燃ごみにしますので、シンクに置いといてください。後で僕が片付けます。それと食器類はシールを剥がしてシンク横に積んでください。後で僕が洗います。そこまで終わったら報告して貰えますか。次の指示を出しますから」

「あ、はいわかりました」


 なんかもうフツーに一緒に仕事してる感じだよ。って思ってたら、お風呂の方でピーピー何かが鳴ってる。


「あ、タオルの洗濯が終わりましたね。僕が物干し竿をセットしますので、ハンガーとピンチを最優先で開けて下さい。これが乾かないと今晩のお風呂の時に困りますから」

「はい! 急ぎます!」


 神崎さんは当たり前のように物干し竿をビニール袋から出して雑巾で綺麗に拭いている。それをリビングの大きなテラス窓のすぐ外にある、竿を引っ掛けるフックに渡すと何か人の住んでる家っぽくなった。

 彼は当たり前のように洗濯かごを持って洗面所に行くと、洗濯したばかりのタオルをかごに山盛りにして持って来る。でも驚くのはこれからなのよ。彼はダイニングテーブルを綺麗に拭くと、洗ったタオルを伸ばしてそこに置き、手でアイロンをかけるようにしてんのよ。そうやってどんどん洗い立てのタオルを重ねて手アイロンしてんの。10枚も重ねたら、重みできっちり伸びて綺麗になってんのよ。綺麗に伸びたタオルを1枚ずつ干していくとね、これがなんと、もんの凄くピシッとアイロンかけたみたいな仕上がりで干せるのよ。神崎さんはそうやって20枚のタオルをきっちり綺麗に干して、バスタオルまでやっつけて、満足そうにしてんのよ。


「どうされました? 何か問題でもありましたか?」


 ぼんやりと神崎さんを眺めていたら、いきなり声をかけられたのよ。


「あ、いえ……凄いなって。タオルってそうやって干すと、こんなに綺麗になるんだって……びっくりしました」

「ああ、これですか。乾いてから伸ばすよりずっと楽ですし、綺麗になりますから。後で苦労するか先に苦労するかの違いですから、同じ苦労なら効果が大きい方を選択したに過ぎません。この時間に干す事ができたので、お風呂までには乾きますよ。ところでカーテン、出しました?」

「はい」

「じゃあカーテンフックを付けて下さい。掛けちゃいますから」

「はーい……」


 神崎さんの女子力の高さと手際の良さに唖然としたあたしだったわけなんだけど、これはほんの序の口に過ぎなかったのだ


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