第20話 幕の内だけかい

 一通りの買い物を済ませるとお昼になってしまったので、たまたま見つけたお弁当屋さんでお弁当とお茶を買って、あたし達は家に帰った。

 てかさ、この『家に帰った』って響きがさ、『あたしは』ならいいんだよ。でも『あたし達は』なんだよ。なんか家族っぽいじゃん。つーか同棲? 同棲だよこれ。冷静に考えたらこれ同棲だよ。あのハゲ、何考えてんだよ。バーコードも同罪だよ。


「やる事は山ほどありますが、お弁当が冷めてしまいますから先に食べてしまいましょう。それから本気出して仕事やっつけましょう」

「はい。あたしもうお腹減って動けません」

「そうだろうと思いました」


 神崎さんは今買って来たばかりのおしぼりを固く絞るとさっさとテーブルを拭き、買ったばかりのマグカップを綺麗に洗ってペットボトルのお茶を注ぎながらあたしの方に声をかけてくる。


「山田さん、お弁当出して貰えますか?」

「あ、はい」

「電子レンジもセットしてありますから、もし冷めていたら使って下さい」

「はい」


 このマグカップがさ、オフホワイトとチャコールグレイなんだよ。お揃いなんだよ。スリッパに合わせてんだよ。どこまでもコーディネイトしてくるんだよ。どこまでも果てしなくセンス良いんだよ。いちいち癇に障るんだよ。 

 かと思えば、神崎さん何やってんだ?買ってきたばかりの20本ほどのタオルとバスタオルを洗濯機に放り込んでから戻ってきた。


「さ、食べましょうか」

「はい、いただきます」

「いただきます」


 神崎さん、きちんと手を合わせてるよ。きっと実家はお寺さんだよ。浄土真宗だよ。で、彼が食べてるのはいろんなものがちょっとずつ入った幕の内弁当。これだけ。足りるかー!

 あたしはミックスフライ弁当とミニ天丼とミニ牛丼とサラダとヨーグルト。この人と一緒にご飯食べるの、すっごい気が引ける。あたしテーブル上で神崎さんの4倍以上の面積取ってるもん。

 でもそんなあたしの気持ちを知ってか知らずか、彼は例によってこう言うのだ。


「山田さん、何を食べる時も、本当に幸せそうに食べますね」


 いいのいいの、この人はあたしがご飯食べるの眺める趣味があんの。そう思うことにしたの。もう神崎さんの前でどんだけ食べても恥ずかしくないし。ってゆーかこれから毎日一緒に生活するのに、今だけ取り繕ったって仕方ないし。あたしはたくさん食べる人なのよ。

 なんて思っていたら、神崎さんがあたしのカップにお茶を注いでくれながら、申し訳なさそうに切り出した。


「山田さん、僕だけ先に食べ終わってしまって申し訳ないんですが、ゆっくり食べていただいて結構ですから、急がなくていいのでごゆっくりどうぞ。ちょっと僕は先にクルマの荷物を運び込ませて貰いますね」

「はい、あたしの事はお気遣いなく」

「すみません、食事中に少々ドタバタしますが」

「大丈夫ですよ」


 その後、あたしは唐揚げを食べながら彼の荷物に驚くことになるのだ。

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