第19話 女子力高っ!

 神崎さんはナビを見ながら迷うことなくホームセンターにクルマを滑り込ませた。いちいち腹立つほどスマートだし。なんか癇に障るわ。

 彼は先に立ってスタスタと歩いていく。あたしはドタドタとついて行く。


「まずはカーテンですね。これは会社の経費で落ちますから。山田さんのセンスで選んでくださって構いませんよ」

「えー、あたしカーテンよくわかんないんですけど。この1級遮光とかって何ですか?」

「ああ、光をどれだけ遮るかということです。朝に外の光りが眩しかったり、夜に中の光りが外に漏れないようにしたければ、1級遮光がいいですね。それとレースの方はミラーレースにしておけば外から見えることはまずありませんよ。山田さんの家はこういったカーテンじゃないんですか?」

「安いのテキトーに買ったんで……」

「防犯上、カーテンには気を遣った方がいいですね。嫁入り前ですし」


 既に個別指導始まってんの? ねーそうなの?


「あたし、やっぱよくわかんないしセンスないんで、神崎さんにお任せします。カート持って来ますから選んでてください」

「わかりました」


 なーんか、ホントあたしって何にも知らないよねー。1級遮光だって。ミラーレースだって。何それアゼルバイジャン語? 初めて聞いたし。

 てかさ。一緒にカーテン買いに来るってさ、新婚夫婦みたいじゃん。有り得ないし。あの恐怖の神崎さんと一緒にカーテン買いに来る。そー言やあのスリッパだってなんか新婚夫婦っぽかったよ。ミユキに言ったら絶対アイツ笑い死ぬし。てゆーかその前にあたし自身、笑い死ぬわ。

 バカな事を考えながらカートをゴロゴロ押して戻って来ると、既に神崎さんがカーテンを山積みにして待っていた。


「すいません、お待たせしました」

「ちょっと地味ですが、シンプルな方が飽きなくていいかと」


 神崎さんが抱えていたカーテンは、彼が今着ているシャツみたいにドビー織のシンプルなアイボリベージュの物だった。確かにこれなら飽きが来ないし、かといってドビー織でちょっと柄感がある。すんごいセンスいい!


「色はこれでいいですか? 他にもありましたが、濃い色だと部屋が狭く感じますし、寒色系だと人間は不安になりがちです。暖色系だと女性の部屋だとわかってしまうので防犯上あまりお勧めできません」


 さっすがカラーコーディネイター! 色彩心理から防犯にまで心配りが行き届いてるし!


「てゆーか、完璧なセレクトです。文句のつけようがないです。色も柄もオシャレです。気に入りました」

「気に入っていただけて安心しました。もしかして山田さん、僕と趣味が合いますかね?」

「合うって言うか、まずあたしここまで考えられないし。神崎さんのセレクトがハイセンス過ぎて、なんか凄くイイです。全部任せちゃってもいい感じです」

「そう言っていただけるとありがたいです。他の物もさっさと決まりそうですね」

「他に何を買う予定なんですか?」

「お風呂用品、トイレ用品、リビングの時計、キッチンマットにバスマット、最低限の食器、物干し竿、ハンガー、タオル類、もっと細かい話までしてしまえば、シャンプー、ボディソープ、歯磨き、洗濯用石鹸、柔軟剤、トイレットペーパーやティッシュ、キッチンペーパーなどの消耗品、台所用洗剤にスポンジたわし、ここを出たら食料品も買いに行きます。醤油やサラダ油、砂糖、塩、味噌、米なんかは必需品ですからまず最初に仕入れてそれから……」

「あ、もういいです。あの、あたし荷物持ちしますから、それ以外は神崎さんにお任せします。あたし『ただのデブ』じゃなくて『力持ちのデブ』ですから。頭使えない分、体使います……」


 神崎さんの女子力の高さに地味に凹んだのは言うまでもない。

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