第18話 押してますから
レンタル業者さんが洗濯機と冷蔵庫とダイニングテーブルのセットと食器棚と電子レンジとベッド2つと机2つを運び終えて出て行く頃には、あたしも2階の部屋とベランダの掃除が全部終わっていた。1階に下りて行くと、神崎さんが窓を磨いてくれていた。
「2階、終わりました」
「お疲れ様です。じゃあ少し休憩しますか」
「はい……」
なんか妙に疲れて、運び込まれたばかりのダイニングテーブルにグデッと伸びていると、神崎さんがフラッと外に出て行った。どこ行くんだろう? まあいいか。なんて思ってると、1分で戻ってきた。
「来る時にそこに自販機があるのをチェックしてたんですよ。カフェオレで良いですか?」
マジすか。ちょっとあんた気が利き過ぎだよ。女子力高けーよ。
「え~? チョーうれひ~。ありがとうございます~」
「僕もちょっと疲れたので休憩したかったんですよ」
って言いながら時計見てんじゃん。ホントは予定通りに進んでないのが気になってんでしょ。だけどあたしに気を遣ってくれてるんでしょ。いちいち癇に障るけど優しいとこもあるじゃん。
「山田さん、このまま休憩してて構いませんから」
「え? 何かするんですか?」
「窓の寸法を測っておかないといけないんで」
「じゃあ、せめてあたしメモしますよ」
「そうですか、それではお願いします」
神崎さんは自分の手帳から1枚ページを破って、ボールペンと一緒にあたしの手元に置いた。大きいけど綺麗な手だ。指も細長い。多分あたしの方が太い。そして短い。
彼はカバンの中からメジャー……ええとインデックス? コンベックス? 何でもいいや、巻尺だよ巻尺、それを出して寸法を測り始めた。
「リビングが……200×230、キッチン側にカフェカーテン、それとポール1、これはツッパリタイプで良いですね、これが100センチ。……それとトイレは……ああ、擦りガラスですね、お風呂もですから要りませんね。あとは2階ですか」
神崎さんが階段を上がって行く。思わずあたしもついていく。
「下でカフェオレ飲んでて貰って構いませんよ」
「あ、でも来ちゃったから」
「そうですね」
あまり気にしない様子でまた測り始める。神崎さんが読み上げる数字をあたしはただ黙々と書き込んでいく。
つーか、神崎さん、デカい。腕長い。こうして見ると脚も長い。ヴィジュアルがこれだけハイスペックなのに、あの喋り方で損してるな、この人。しかも笑顔無いし。
「全部書けましたか?」
「はい、OKです」
「では買い物に行きましょうか。もう少し休みますか?」
「いえ、スケジュール押してますから、今行きます!」
神崎さんは一瞬ビックリしたような顔をして、それからちょっと微笑んだ。
「行きましょう」
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