第15話 完璧すぎだよ
ガッツリ朝食を取って満足したあたしと神崎さんは、京丹波に向かうべく彼のステーションワゴンに乗っていた。
相変わらず運転上手い。街中だろうが高速道路だろうが、助手席のあたしがすんごくリラックスできる運転。また寝ちゃうじゃん。寝ないけど。
「ほんと神崎さん運転上手ですねー」
「ありがとうございます。あまり褒められたことはありませんが」
「そーですか? 飛ばし屋とか居るけど、そーゆーんじゃなくて、プロのタクシー運転手みたいな……隣に乗ってて安心できるんですよねー。アクセルもブレーキも自然だし」
「……山田さん、途轍もなく褒め上手ですね。こんな最上級の褒め言葉をいただいたのは生まれて初めてです」
って、それを真顔で言うな。嬉しそうに顔を綻ばせて言え。
「ところで、今日のスケジュールってどんな感じなんですか? アバウトに説明して貰えます?」
「はい。現在8時52分。9時半までには現地に入りたいと思っていましたが、ホテルを出るのが少々遅くなりましたのでギリギリ10時になるかもしれません」
それってあたしがガッツリ朝ご飯食べてたから、予想外に時間かかったって暗に言ってるよね?
「10時に何かあるんですか?」
「洗濯機と冷蔵庫が届く手筈になっています」
「え? 洗濯機と冷蔵庫?」
「無いと困るでしょう? レンタル会社に連絡して10時に届くよう手配しておきました。他にもダイニングテーブルや食器棚など細かいものをいくつか頼んであります」
すご……。全く思いつかなかった。何なのこの人。
「10時に搬入してそのあとカーテンを見に行きます。その時にお風呂やトイレの小物も見て来ましょうか」
「それすら思いつかなかったんですけど」
「大丈夫です、僕に任せてください」
なんかすげー頼りになるよ、神崎さん!
「一通りセットしてみて問題点が出て来る筈ですから、昼食後にその問題点を解決しましょう。解決出来たら、近所の散策をして買い物できる場所などを確認すればいいと思います。ホームセンターなどはもう下調べが済んでいますから、現地に着いてすぐに行動できます」
「いつの間にそんな事調べたんですか?」
「昨夜山田さんが僕の部屋にいらした時、PCを立ち上げていたでしょう? あの時調べていたんですよ」
「神崎さん、完璧過ぎますね。こんなに隙の無い人、見たことないです」
「僕は山田さんほど隙だらけな人を見たことがありません」
本日一発目のフルスロットルかい。ああ、そのうちこれにも慣れるんだろうな。てゆーか、明日から個別指導じゃん……。
「京都縦貫自動車道に入ります。窓を閉めてもよろしいですか」
「あ、はい」
「すみませんが京都縦貫は15分で抜けたいので少々飛ばしますよ」
「いいですよ。大丈夫です」
「では遠慮なく」
言うなり神崎さんはギアチェンジした。ぐんっとスピードが上がる。だけど不快じゃない。てーか、今更だけどこれミッション車かい。
「このクルマ、ワゴンなのに加速良いんですね」
「そうですね。違和感なく加速してくれるので気に入ってます。大丈夫ですか?怖くありませんか?」
「あたし、絶叫系好きですから」
「そうでしたか。それなら安心です」
「……それにしても随分荷物多いですね」
「ウィークリーが普通の賃貸マンションになっちゃった訳ですから。全く何も無い所でしょうから、軽い引っ越しのようなものですし」
さりげに痛いよ。地味に凹むよ。あたしゃそこまで考えが及ばなかったんだよ。そーだよね、普通考えるよね。きっと神崎さんの部屋はいきなり快適なんだろうね。あたしの部屋はカーテンも何にもなくて初日からパニクる予定だったんだね。良かったよ、この人が居てくれてさ。この人の部屋の作り方を参考に自分の部屋何とかしようっと。
なんて思ってる間に、京都縦貫下りて京丹波に入って来た。
「もうすぐ着きますよ。お疲れさまでしたと言いたいところですが、これからが忙しくなります。覚悟なさってください」
はーい……。
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