第14話 梅干カラーじゃん

 当然と言えば当然なんだけどさ。あたしはそこに食べ物がある限り、どれもこれも食べたい訳よ。ご飯もパンもシリアルも。鮭の塩焼きもひじきの煮物も出汁巻き卵も食べたいし、スクランブルエッグもボイルドウインナーもジャーマンポテトも食べたいし、ヨーグルトもフルーツも食べたいのよ。勿論だけど、オレンジジュースもコーヒーも牛乳も飲みたいのよ。

 それが全部お腹に収納できる事が判ってたら、遠慮なんかしないでしょ? どれだけ食べても値段変わらないんだし。朝ガッツリ食べた方が太らないって合理的且つ正当性のある理由貰ってんだし。

 って訳で、あたしは全部一通り食べたわけよ。サラダだってドレッシング全種類攻めたのよ、フレンチとサウザンアイランドと和風紫蘇おろしと中華胡麻とシーザー全部。ヨーグルトだってイチゴソースとブルーベリーソースとマンゴーソース、全部試したよ。

 なのにさ、なのにだよ。神崎さんてばさ、ご飯と味噌汁と鮭の塩焼きとほうれん草のお浸しよ。元取れよ。あんたの分まであたしが元取らなきゃならないでしょ?

 てかそれ、お昼まで持たないでしょ? あたしはそれじゃ持たないよ。いつも朝ご飯抜くけど、結局お腹すいてカフェオレ飲んでおやつガンガン食べてるもん。

 だけど神崎さんてば自分はさっさと食事を終わらせて、あたしが延々と食べ続けてるのを例の如くじーっと見ながらコーヒー飲んでるだけなのよ。それでいつもの台詞を言うんだよ。


「山田さん、本当に美味しそうに食べますね」


 もうわかったって。食べてる時は至福の時間なんだからさ。頼むから笑顔で言おうよ。真顔で言うなよ。


 で、あたしはちょっと空腹が収まって来た頃に、食べながら神崎さんを観察してみたんだよ。神崎さんだってあたしの食べっぷりを観察してんだから文句ないよね?

 今更気づいたんだけど、てゆーか今まで気づかなかったのもどーかとは思うんだけどさ、神崎さん今日は普段着なんだよ。スーツじゃないんだよ。ちょっと驚いたんだよあたしは。細身のブラックジーンズにカジュアルなコットンドビーシャツ着てさ、ワインレッドの薄手のカーディガン羽織ってんだよ。

 取って付けたような神崎さんだよ。休みの日も、力仕事が待ってるとわかってる日もTシャツとか着ないんかい。フツーそこ、Tシャツとかデニムシャツでしょ。なんでコットンドビーにカーディガンなんだよ。なんでワインレッドだよ。ワインレッドは別にいいか。とにかくその服装に鮭の塩焼きが異常にマッチしてんだよ。

ああそうか、梅干カラーだからだ。そんな事はどうでもいい、なんかこの人って無駄にキチンとしてんだよー。


「山田さん」

「はい?」

「今日の日程なんですが、仕事を円滑に無駄なく進めるために、僕の中で完全にスケジュールが組みあがっています。勿論休憩も計算に入れてあります。山田さんさえ差支えなければ、僕の組んだスケジュール通りに仕事を進めて行きたいと思いますが、何か今日のご予定はありましたか?」

「あの、カーテン買いに……」

「そう言った事も含めて全部のスケジュールです。洗濯機や食器の事まで考慮されてました?」

「あ……」

「一緒に買いに行けば合理的です。僕が全て考えてありますからお任せいただけませんか?」

「あ、そうですね。あたしなんにも考えてなかったから、今から考えても多分あれもこれも忘れてるだろうし……。お願いします、任せます」

「ありがとうございます。山田さんは僕に任せてしっかり朝食を取ってください」


 そう言って神崎さんはまたコーヒーを啜った。

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