第16話 掃除機持参かい
「着きましたよ。ここのA号室です。南向きの角部屋です」
車を降りながら神崎さんは説明してくれた。特にオートロックとか管理人とかそんなのが建物の入り口にあるわけでも無くて、アパートをちょっとゴージャスにした感じの建物だ。しかもこれ、A~Dの4部屋しか無くて、それぞれ2階が付いてる。で、それぞれの部屋の前に駐車場があって、玄関もそこについてて、なんて言うか一軒家が4世帯分くっついてるような建物だ。
「まだ荷物は下ろさないでくださいね。冷蔵庫や洗濯機の搬入の邪魔になりますから」
「はい」
そう言いながら自分は何か色々下ろしてるよ。
「山田さん、これ、部屋の鍵です。先に行って開けて下さい」
「はい」
あたしは鍵を受け取って、先に中に入った。
なんか凄いよ? ホントに一軒家みたいだよ? 1階に20畳くらいのLDKとトイレとお風呂と洗面所。2階に上がってみると、8畳くらいの部屋が2つあって、それぞれベランダが付いてる。玄関側が東向きで反対側の部屋が西向きだ。ベランダは仲良く南向きに並んでついている。
ちょっとこれゴージャス過ぎない? 神崎さんもこれと同じ造りのとこ? ってゆーか多分隣だよね、B号室かな? だとしたらベランダは南向きには付いて無いよね。なんて思いながら階段を下りると、ちょうど神崎さんがバケツと掃除機を持って玄関を入ってくるところだった。
「なんか凄いですよね、こんなとこ借りちゃっていいんですかね?」
「向こうの都合ですから遠慮する事も無いでしょう。山田さん、足の裏汚れますからこれ履いてください」
新しい綺麗なバケツから新品のスリッパが出てきた。お揃いで色違いのヤツだ。何とも準備がいい。
「あ、どうもありがとうございます」
なんとなく側にあったオフホワイトのスリッパを履くと、神崎さんがチャコールグレイのスリッパに足を入れる。
「まずは山田さん、掃除機をかけて下さい。僕がその後を雑巾掛けして行きますから。途中でレンタル業者が来るといけないので急ぎましょう」
「はい、わかりました」
何だかよくわからんまま、掃除機をかけ始める。てかこれサイクロンだよ。いいヤツ使ってるよ。神崎さんはその間に家中の窓を開放し、ベランダも全開にして換気扇をフル回転させる。……仕事に無駄が無い。
そうしている間にあたしはLDKの掃除を終えて、2階に移動する。神崎さんはLDKを一人で黙々と雑巾掛けしてる。なんか凄く丁寧だ。
2階の部屋も全部フローリングだから掃除は簡単。だけどさ、あたし、自分の部屋だって一カ月に1回くらいしかマトモに掃除しないんだよ? この部屋もきっと次に掃除するのは出て行く時なんだろうね~なんて思ったりする。神崎さんはクルマに掃除機積んで来るくらいだから、毎日掃除するのかも。なんか綺麗好きっぽいもんね。アレ絶対A型だよ。
「山田さん」
「うわぁ! はい! なんですか」
びっくりした。まだ下にいると思ってたのに、知らぬ間に上がって来てたよ。
「四角い畳を丸く掃くと言う言葉をご存知ですか」
「は?」
「知らなければ結構です。隅の方まで掃除機をかけて下さい」
「あ、はい……」
つまりアバウト過ぎだっていう苦情なわけだね。はいはい……。
「あ、レンタル業者が来たようです。山田さん、掃除機が終わったら雑巾掛けの続きをお願いします」
「はーい」
神崎さん、下りてっちゃったよ。まあいいや、下は神崎さんに任せとこう。とにかくあの人に任せておけばどーにかなる。……ってここあたしの部屋なんだけどな。
つーか! ちょっと待て! あたしの部屋が良くても、神崎さんの部屋、掃除も何もしてないじゃん! このまま彼の部屋も荷物を搬入されちゃうんじゃないの?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます