第11話 食後のデザート
ノックから5秒きっかりでドアが開く。ここへ来て、今更なんだけどあたしは物凄ーく後悔しちゃってる訳で、引き返そうにももう引き返せない訳で、ああ、なんでこの珍獣にメールしちまったんだい。
「はい、何でしょう?」
神崎さんもシャワーを浴びた後らしく、ホテルの浴衣を着ていた。……んだけど、神崎さんらしいって言うかなんて言うか、だらしなく着崩したりしてなくて、きちんとピッタリ帯締めてて、これで風船ヨーヨー持って金魚が2匹くらい入ったビニールの巾着持ってたら『夏祭り行って来ました』な感じだった。
「あ、いえ、その……ええとですね」
「はい」
「あ、ええと……」
「こんなところで立ち話もあれですから、宜しければ中へどうぞ」
「え、いいんですか?」
「本来なら倫理的に許されないとは思いますが、僕は大丈夫です」
「じゃ、失礼します」
なんか難しいこと言われたけどまあいいか。
「どうぞ、お掛け下さい」
「はい、すいません」
神崎さんは備え付けのコーヒーを手際よく淹れると、あたしの前に置いてくれた。これが自然にできるって、ある意味凄いかも。
「で、何でしょうか」
「あ、いえ、用は無かったんですけど、途中で一泊するって予定に無かったんで、何も持って来てなくて、暇を持て余しちゃったんで……」
って、あたしめっちゃ素直じゃん。なんかこの人、調子狂わされるなぁ。
「あの……ご迷惑でしたら戻りますから。なんかパソコン出してるし、仕事してたんですか?」
「いえ、大したことはしてませんよ。それに折角コーヒー淹れましたから、僕で良ければ話し相手になりますよ」
って言うなら、ちょっとは笑顔作れよ神崎。怖えーよ神崎。
「すいません、なんか急に押しかけちゃって」
「いえ、別に。でもちょっと困りましたね……」
「何がですか?」
「山田さん、普通、女性が男性の部屋に一人で押しかけるもんじゃないですよ」
「あ、そうですよね。でもあたしヴィジュアルからしてこんなですから割と問題ないって言うか」
「困りましたね」
「何が?」
「山田さん見てますとね……」
「はい?」
「僕も理性が働かなくなってしまうんですよね」
「えっ? 理性?」
……チョイ待ち。何故に急に立ち上がる? 何故にこっち来る?
「食べたくなってしまうんですよね……」
「なっ、何をですか?」
「……食後のデザートですよ」
そう言って神崎さんは初めて笑った。
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