第10話 儀礼的に誘えよ

 お腹いっぱい京野菜のイタリアンを食べて満足したあたしは、右も左もわからないまま神崎さんに連れられてホテルに戻ってきた。後はシャワー浴びて寝るだけー。ああ、満足満足。

 でもさ、ちょっと待ってよ。まだ8時だよ? 普通ここは飲みに誘うもんじゃない? 話によれば、明日は部屋の準備やら何やらがあるから出勤は明後日からになったって言うしさ、そんなら明日は休みって事でしょ? なら普通は誘うよね? せめてカラオケとかさ。でも、そーゆー雰囲気全く無いんだよね。

 ってゆーかね、別にあたしは神崎さんと飲みに行きたいとかカラオケ行きたいとか思ってる訳じゃないのよ。行ったら行ったでゲッソリ疲れるのは目に見えてるし、誘われたって多分断るんだけどさ。そうじゃなくて、一応ここは礼儀として誘うっしょ? これから毎日一緒に仕事するわけだしさ。嫌でも毎日顔合わせるじゃん? (そして毎日個別指導される訳じゃん?)誘えよ神崎。

 なんて思ってるあたしを完全に裏切って、神崎さんは普通に廊下で挨拶をしやがった。


「明日は7時で良いですか?」

「あ、ハイ、わかりました」

「ではお休みなさい」

「はい、お疲れ様でした」


 バタン。って普通に部屋に入っちゃったよ。おい、まだ8時だよ?でもあたしが誘うのも変なもんだし、誘ってもやっぱすんごい疲れて後悔するだけのような気もするし、ま、いいか。

 って事で部屋に入ってシャワー浴びてスウェットに着替えたら、やる事無くなった。ベッドにひっくり返ってスマホをいじる。かと言って、誰かとLINEしてる訳でもないし、軽くスマホでニュース見て、テレビも面白くないし、ああ、もうホントに何もやる事無い。今から寝ようにも、昼間クルマの中で爆睡したから眠れない。どーしよ。


 ……で。

暇を持て余したあたしは、何を血迷ったのか、壁の向こう側にいるであろう珍獣にメールしてしまったのだ。


『ちょっと、今からそちらに伺ってもいいですか?』

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