第9話 それジョークなの?
なーんてアホな事を考えているうちに料理が運ばれてきた。……? 普通な感じ。なんか特別なのかい? あたしの考えている事を見透かすかのように、神崎さんが「いただきましょうか」と声をかけてきた。
「コレ、何ですかね」
「根菜のグリルです」
「あ、いえ、この赤いの」
「金時人参ですよ。ここは京野菜を使った料理を出してくれるんです。イタリアンですからバターじゃなくてオリーヴオイル。ヘルシーですよ」
「へえ……あ、筍」
「これは八幡の竹ですかね」
「ヤワタの竹? この筍ですか?」
「エジソンの竹かも知れませんよ」
なんかやっと会話楽しむ感じになって来たと思ったら、会話成り立ってないよ。
「意味わかんないんですけど」
「トーマス・エジソンですよ。彼のフィラメントは京都八幡市にある石清水八幡宮の竹なんです。京都つながりのちょっとしたジョークのつもりでしたが」
説明しなきゃわかんないようなジョークを繰り出すなよ!
「説明しなければわからないようなジョークでしたね」
あたしが思ったこと音声化すなー!
「こっちは壬生菜とベーコンのペペロンチーノですね」
「ミブナですか、この緑の」
「そうです。こっちは聖護院大根と鶏のクリーム煮ですね」
「この長いピーマンは?」
「万願寺唐辛子です。フリッターになってますね」
「ってゆーか、メチャメチャ美味しいんですけど」
ちょっとマジ幸せ。こんなおいしいものが京都にはあるんだ。
「このやたら太いキノコ、シメジかブラウンマッシュルームみたいですけど」
「大黒本しめじですね。京丹波産でしょう」
「ちょっとこれ、マジで幸せなんですけど」
「ワインどうです?」
「え? ワイン? 普段飲まないんですけど」
「僕、飲んでも構いませんか?」
「じゃ、あたしも。てかわからないんですけど」
「甘口と辛口どっちがいいですか?」
「それすらわからないんですけど」
「じゃ、僕に任せてください」
「はい……」
で、運ばれて来たのがピンクのヤツだった。神崎さんは白。
「明日は忙しいでしょうからグラスで頼んどきましたがいいですね?」
「はあ……」
何を聞かれてるのかよくわからないけど、まあいいや。てかこのピンクのワインがメチャメチャ美味しくてあたし的にクリティカルヒットだったんで、もうどーでも良くなってきた。
それから神崎さんはあたしの食べっぷりをいちいち褒めて、あたしの好きな食べ物についていろいろ聞いて来た。食べ物の話になったらもう、あたしを止めるのは何人たりとも不可能なわけで、あたしはずっと食べながら喋りまくって、気づいた時には殆どあたしが一人で全部食べてしまっていたわけよ。神崎さん結局、壬生菜のペペロンチーノと京野菜のグリルを少し食べただけだった。
そしてやっぱり彼は最後に真面目な顔でこう言った。
「山田さん、本当に美味しそうに食べますよね。惚れ惚れする食べっぷりですね」
やっぱ喧嘩売ってんのか神崎。
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