第6話 コンベックスって何?

 茶蕎麦と桜海老のかき揚げと鰻重(2人前)をガッツリ食べたあたしは、とってもとっても満足してクルマに乗り込んだ。ここの会計も神崎さん曰く「今回の出張の必要経費で落とされますから」という会社のカードで支払いを済ませているので、お財布は痛くも痒くもない。そう言えばカードの話をハゲとしてたよね。

 クルマに乗り込むと、早速神崎さんの先制攻撃が来た。


「良かったらどうぞ。適当にカフェオレ買って来たんですが」

「え? なんであたしがいつもカフェオレばっかり飲んでるのがわかったんです?」

「その体型から想像するに、ミルクたっぷり砂糖たっぷりがお好みだろうと予測できました」


 鋭いところ突いて来るわー。いや、その通りなんだけどさ。ま、いいや、その腹が立つほど鋭い観察眼によってカフェオレが飲めるんだから。


「神崎さんはブラックなんですか?」

「はい、運転中は眠くなるといけませんから。僕一人なら構いませんけど、山田さんの命をお預かりしてますので」


 そーだよね、言われてみればこの人に命預けてんじゃん。死ぬなら一人で勝手に死んでよね。あたしはまだ死にたくないよ。


「ところで神崎さん、この調子で京丹波まで今日中に着くんですか?」

「物理的には到着します。単純計算で休憩なども考慮して19時くらいには現地に入れます」

「じゃあ、今日はもうその部屋で寝られるんですね」

「いえ、無理だと思います」

「え? なんで?」

「お忘れですか? ホテルでもウィークリーマンションでもないんですよ? 普通の賃貸マンションです。部屋の灯りを点ければ外から丸見えです。カーテンも無いんですから。山田さん、そこで着替えなさるんですか? そこで布団敷いて眠れますか?」


 はっ! それ、完全に盲点だった!


「え? じゃあどうしよう……あたし、なんにも考えてなかった。どうしよう神崎さん! 向こう着いたらカーテン買いに行くの、付き合って貰えませんか?」

「本当に全く何も考えてなかったんですね」

「はい……」


 図星だけに何も言えないじゃん。だけど頼むからカーテン買うの付き合って!


「大丈夫ですよ。時間的にそうなる事は計算済みですから、京都市内にビジネスホテルを2部屋押さえてあります。今日はそこで休んで明日の朝一番に京丹波へ向かいましょう。現地の部屋を見て、寸法を測ってからカーテンを買いに行けばいいでしょう。コンベックスは僕が準備していますから心配ありません」

「コ、コンベックスって何?」

「薄い金属性の巻尺です。見たことありませんか?」

「あ、あの硬いメジャーみたいなヤツ?」

「それです」


 す……凄い! なんなんだこの人。頭良過ぎだろー! なんでこんなに機転利く?


「なんか、神崎さんて、完璧ですね……」

「別に想定内でしたから」


 なんていうか。やっぱりこの人には何処にも隙が無いんだという事と、あたしはさっぱりなんにも考えてないって事を再認識させられて、地味に凹んだのだった。

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