第7話 80%低下してます

 それからしばらくクルマに揺られていたんだけど、さっき食べた茶蕎麦&桜海老のかき揚げ&鰻重二人前の満腹感に加え、どこにも隙のない完璧な神崎さんに全て任せておけばとりあえず大丈夫的な安心感があって、あたしは不覚にも眠気を催してしまったのだ。

 しかーも、それを目ざとく見つける男、それが機械設計Gの神崎という人間だ。


「山田さん、お疲れでしょうから、僕に気を遣わずに寝て頂いて結構ですからね」

「あーすいません、あたし眠そうでした?」

「はい、明らかにテンションが80%ほど低下してます」

「そうですか。じゃ、お言葉に甘えて寝ます」

「はい、おやすみなさい」


 そう言われて寝てしまえるのがあたしの凄い所でもある。それを知っているからバーコードもハゲもあたしに出張を命じるわけだし、ログハウスやテントやハンモックの話まで飛び出してくるのだ。今更取り繕う事も無いだろう。


 で、次に目覚めた時はなんと京都に入ってたんだよ。あたし、一体どんだけ寝てたのよ。時計を見ると16時過ぎ。2時間半も爆睡してた?


「山田さん、お目覚めですか。もうホテルに着きますよ」

「うっそ。人のクルマでこんなに爆睡したの初めてです」

「昨夜あまり寝てなかったんですか?」

「いえ、きっちり8時間寝てきたんですけど、なんか寝心地良かったです。神崎さん、クルマの運転メチャメチャ上手ですね。なんか特別な免許持ってます?」

「建設車両なら一通り」


 そりゃあんた、それ作ってんだからね。


「そういうのじゃなくて、なんとかライセンスみたいなの」

「国内Aライなら」

「こくないえーらい?」

「国内A級ライセンスです。誰でも取れますから特別でもありません」

「それ持ってると何かいい事あるの?」

「ちょっとしたレースに参加できる程度です」

「ふーん……」


 なんかよくわからんもの持ってるよね。カラーなんとかだとか国内Aライだとか。きっと語彙検定2級とか京都検定1級とか訳判んないもん他にいっぱい持ってるんだろう。

 なーんて思ってるうちにホテルに着いた。神崎さんはさっさとあたしのスーツケースを下ろし、自分は小さなカバンを一つ持って手際よくチェックインを済ませている。

 とにかくやる事なす事いちいちスマートで隙が無い。部屋も隣に取ってくれたんで、なんか安心。

 それぞれの部屋に入る時に神崎さんが突然あたしを呼び止めた。


「山田さん」

「はい?」

「これから毎日一緒に仕事する事になるわけですし、今日明日の連絡手段も無いと問題がありますので、連絡先を教えていただけませんか?」

「ああ、はいはい、そうですね」


 この人と連絡取れるようにしておかないと、明日困るし!


 そういう訳で、メールアドレスと電話番号だけ交換して、あとはそれぞれの部屋に別れた。

 てか、疲れた。いえね、あたしはずっと寝てただけですしね、神崎さんがずっと運転してくれたわけで、ホテルの予約も何もかも全部考えてくれてた訳ですしね、あたしゃーな~んにも疲れる事なんかしてないんですよ?

 でもなんだかどっと疲れたよ。何だこの疲れは。思いがけない方に振り回されたって言う疲れみたいな……。


 とりあえず、ベッドにひっくり返ってボーっとしてたんだけど。それも長く続かないんだな、これが。なんとなれば、あたしのスマホがけたたましく『ラデツキー行進曲』を流して呼んでいるんだな。誰やねん、こんなとこ来てまで。

 あたしは相手もろくに確認せずに電話に出た。出てしまった。


「神崎です。もしよろしければ夕食ご一緒しませんか?」

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