第2話「地球を守るアイドルにも、練習場所がいるのデス」

 0・狭いケド、文句言わない


「お~、こんな場所あったんだ」

「全校生徒のほとんどがこんなとこあんの知らないと思う」

「なんか匂わね」

「足元、平らじゃないし」

「文句言わない。場所あっただけでラッキーなんだから」

「ほいじゃストレッチングから。いくよっ」

「お~、よくできた下級生」


 いっち、にっ、さん、しっ。

 みんなジャージで、さ、練習開始。


 あれ? 前回も狭いとこから始まったような・・・。



 1・もう地球守ってやんねぇぞ


 我が巌厳学園高等学校および中等部の放課後は、チア部の自主練習で埋めつくされる。

 なんせウチのチア部、通称GGCは、部員四百人を越える大所帯ですから。

 全国制覇12回、世界大会の優勝も2回という強豪にして名門ですから。そりゃ人気もあるんですよ。

 かたやこちら、今年度に発足したばかり。部員たった5人の同好会・アイドル騎士団ですから、練習場の確保も大変なのです。

 あ、申し遅れました。

 わたくし、アイドル騎士団の5人の部員全員が所属するアイドル・ユニット[みるきぃクレヨン]のリーダーで赤担当の田畑カンナでございます。

 わたしたちが練習を始めた、幅2メートル、長さ3メートルほどの空間は、校舎の裏に面しております。

 敷地の都合でフェンスが折れ曲がってて、校舎にもトイレの出っ張りとかがあったりして、そのせいで、そこだけぽこっとできた忘れられた空間なのです。

 出入りするには、あっちもこっちも、幅ほぼ60センチばかりのすき間を通り抜けるしかありません。

 校舎にはほぼ閉めきりの小さな窓と換気扇がぶぉ~っと回っております。

 いや、中がトイレだって知ってるから匂うような気がするだけだってば。

 はい。なんども換気扇見て、匂い気にしてるのが、黄色担当の左右田スミレです。

「いっち、にっ、さんっ、しっ」

 と、元気に声出してるのが、一人だけ中等部3年の最下級生、ピンク担当のあやりんこと丸居アヤメです。

 その向こうの、ちっちゃい体で真剣にストレッチングしているのが、歌も踊りも、ウチらの中では一番で、緑担当の森野ミズキ。

 その反対側の端っこにいるのが、一人だけいっこ上の二年生で、変人の紫担当・髙井カズラです。

 え? メンバーカラーとか、どっかからパクってないか、って?

 いえいえ、気のせいですよ。

 気のせいですってば。

「じゃ、ガクマチからいく?」

「いいよ」

 持ってきたピンクのちっこいラジカセを、アヤメがぴっ。

 顧問の下川先生作詞作曲の、ガクマチこと『学園のある町』のイントロが流れ始めます。

「せ~の」

 教わったとおりの振り付けで踊りはじめるわたしたち。

 まだまだ、ぜんぜんサマになってないんですケドね。

 しかしその時、わたしたちの斜め上空を一匹の蜂がホバリングしていたことなど、まったく気づいていませんでした。

 しかもその蜂が実はロボット・カメラで、わたしたちのことをのぞき見してたなんて。

 ちょっとぉ、どこのどいつよ。

 *

「こいつらか」

「いえ、こんなどんくさい動きではありませんでした」

「じゃ違うな」

 なんか操作すると、こいつらの乗る小型宇宙艇のコンソールの3D映像が移動を開始します。

 そっ。わたしたちの上空にいたロボット・カメラ蜂が、ぶ~んと別の場所に飛んでいったのです。

 画面には、学園キャンパスで自主練に励むGGC部員の姿がつぎからつぎへと捉えられます。

「似たようなヤツばっかしじゃないか」

「ですねぇ」

「どやってめっけるんだよ。どれがどれだか・・・」

「まったく、どれがどれだかです」

「お前、至近距離で対面してんだろっ」

「はっ、しかし、顔が、隠されておりまして・・・」

「こ~りゃまいったぞ」

 まいったのが、コスプレにしか見えない派手はでの制服を着たヂャアという男です。

 もひとりが、こないだ、わたしたちのアイドル・デビューのとき、西淵のおじさんを襲った五人組銀髪男のリーダー銀髪男なのであります。

 おや、後ろのほうに、あと四人もいるような・・・。

 こいつら、宇宙人なんですよ。

 こんどは、なにするつもり?

 *

 さてこちら、練習中のわたしたちです。


♪駅からつづく長い坂道の~ぼ~り~


 口ずさむわたしたち。だって、校内ではあんまり大きな声で歌うなと下川先生に言われてるんですもん。

 GGCに「うるさいっ」とか言われるのがオチだからって。

 そりゃ、へたっぴだけどさ。

 しゃあないので、週末にでもみんなでカラオケ行って練習することになってマス。

 先月のツキイチGGCでの前座としてのアイドル・デビューがさんざんに終わったわたしたちですが、めげず、くじけず、前を向いております。

 いつか、歌と踊りで、GGCを越える日のために。

 え? 夢、大きすぎ?

 てへっ。

 あ、でもね、昨日の夜もこんなことがあったんだ。

 あたしが居間で練習ノート作ってたら、お母さんが覗きこんできたんだ。

「あら、張り切ってるじゃない。どしたの?」

「ちょっとね、やる気になる事件があって」

「へ~え、中学の時は、部活なにやっても続かなかったあんたがねぇ」

「い~じゃんか」

「そういう映画見たことあるわ」

「え?」

「演劇部のうだうだした部長が、新しい先生に出会って、演劇に目覚め、目標持っちゃうの」

「知らないよ、そんなの」

 って、お母さんのことうざい扱いしたんだけど、でも、ちょっとうれしかったかも。

 そう。目標とか持てなかったあたしが、初めて出会ったなにか。それが[みるきぃクレヨン]かもしれないから。

 もちろんね、まだ他のメンバーのことよく知らないし、みんなの気持ちがホントにひとつになったか、自信はない。

 ケド、こうやって歌い、踊ってても、だぁ~れもてれてれしてない。

 それだけでも、みるきぃクレヨンとしては、前向きになった証拠だと思うわけですよ。

 が、不意に、

「はいはいはい、そこまでそこまで」

 ぱんぱんぱんと手を打ちながら狭い空間に入ってきたのは、ぬあんとGGC Wonderersのセンター・アザミだった。

 後ろからサブセンターで同じ一年生のユリエがくっついてきてて、いきなしラジカセをぴっと止めた。

「なにすんの」

「誰の許可もらった」

 両手腰において、いきなり上から目線。

「許可?」

「下級生が練習場所取られたって言ってきたんだよ」

「はあ?」

 見ると、狭い通路から中学部の子たちが顔を出している。

「だって、誰も使ってなかったから・・・」

「ここがチア部第17自主練習場だって、知らなかったの?」

「ええっ?」

 知るわけないじゃん、んなこと。

「それとも」

 ユリエが口をはさんでくる。

「ダンス対決でもして、それで決める?」

「あ、ヘタな方が取るとか」

 カズラ、それボケすぎ。

「なわけないだろ」

 ほぉ~ら。

「ウチの下級生とダンス対決して、あんたらが勝ったら、ここ譲ってもいいケド」

 語尾上がりのケドが気にくわない。

 その上、ぞろぞろと狭いとこに入ってきた中坊めらが、これ見よがしにウォームアップなんか始めやがる。

 けど、

「しょうがないよ。別の場所探そ」

 いっちゃんダンスに自信のあるミズキが、真っ先に折れた。

 この一言で、スミレもアヤメも、力が抜けた。

 これじゃ、強気には出られない。

「分かった。みんな、行こ」

 ラジカセを持ったアヤメを先頭に、アザミとユリエが見守る中、ぞろぞろと狭い空間から出ていくことになった。

 前にカズラ、最後にあたし。

「じゃ、さ」

「じゃ、さ」

 あたしとカズラと、アザミのほうに振り向いて、同時に声を出した。

「あ、どうぞどうぞ」

「あ、じゃ」

 カズラに譲られて、改めて口を開く。

「ダンス勝負に勝ったときには、ここ、もらうから」

 前のほうでアヤメが「ひゅ~っ」と声を上げ、ミズキがにっこり笑い、スミレがきゅっと唇結ぶのがわかった。

 これくらい言わなきゃ。

 リーダーだもん。

「いつでもどうぞ」

「約束ですよ」

 アザミの上から目線振り切り、狭い通路に向かって歩き出した。

「カズラ」

「ん?」

「アザミに、なんて言うつもりだったの」

「もう地球守ってやんねぇぞって」

「それ言っちゃダメでしょ」

 アヤメとスミレが、慌ててカズラの口を押さえてる。

 そう、あたしたちは、地球を守る戦士でもあるのです。

 ど~ゆ~わけか。



 2・皮肉なものだな。ここまで来て、地球を眺めているしかないとは


「練習は?」

「場所がなくて」

「はっ」

 下川先生の短いため息。

 ほぼ物置の狭い部室に戻ると、下川先生が新曲の歌詞を書いてた。

「あ~、アーマーあればなぁ」

 椅子に座り、いきなり机の上に体を投げ出すカズラ。

「きれっきれで踊れるもんね」

 スミレの言葉に、アヤメも頷いている。

「なんでアイドル・パフォーマンスに使っちゃいけないんですか?」

「だからあれは、地球人類を宇宙人の侵略から守るためのもの」

 下川先生が声を潜めて言う。

 なにしろこのこと、地球人類にはヒミツなのだ。

「でも、あたしたちにしか使えないんですよね」

 なんか不満そうなスミレ。

「そうそう」

「なんで?」

 アヤメが無邪気に聞く。

「だからぁ・・・」

「シュークリーム買ってきましたぁ」

 下川先生が言うのと同時に、弟のコブシがコンビニの袋下げて入ってきた。

「わいっ」

 シュークリームへの反応では世界一のアヤメがもうひとつ手に取っている。

「ちょうどいいとこに来た、コブシくん、説明してやってよ」

「へ?」

「アーマーが、なんでこの五人にしか使えないのか」

「何度も説明したじゃないですか」

「何度聞いても分かんないんだもん」

 そうそう、アヤメ、あたしもそう。

「しょうがねぇなぁ」

 なんか生意気なんだよね。まだ附属中学の二年生のくせして。

「だから、先月、脳波取りにいったじゃない」

「うん」

 それはアイドル騎士団結成二週間目。やっと部員が五人になった、その日のことだった。

 なんだかのデータ取るのに協力するとかで、にしぶち酒店さんの旧倉庫の一階に行ったのだった。

 そしたら、四角い顔のおじさんがいて、わたしたちは一人ずつ椅子に座ると、頭に電極見たいのいっぱいくっつけられて、しばらくじっとしていたのでした。

「あれが実は、ノンゼーイ波ってゆう、宇宙人が発見した脳の波長を取っていたんだ」

「はぁ」

 だいたいこのへんから分かんなくなってくるんだ、いっつも。

「そいで、アーマーは、固有のノンゼーイ波にのみ反応して起動するんだよ」

「だから?」

「だ~から、赤のアーマーは姉ちゃんが装着しないと起動しないの」

「ほかのヒトだと?」

「起動しない」

「ふ~ん」

 分かりました?

「ふ~んじゃないでしょ。姉ちゃんたちにしか宇宙人は撃退できないんだかんね」

「宇宙人って・・・」

「あれか」

 そう。さんざんに終わったアイドル・デビューの直後、わたしたちの頭の中でぴ~ぴ~と音が鳴り出し、それはなんと緊急信号だったのでした。

 でもって、大慌ての下川先生に導かれて、なにも聞かされずにアーマーを装着させられたわたしたちは、宇宙人だという銀髪の男どもから西川のおじさんを救出するために、バトルるハメになったのでありました。

「宇宙人って、あんなへぼいの?」

「アーマー? はカッコよかったけど、なんかしょぼかったよね」

 と、アヤメとスミレ。

「そこには大きな謎があるのよ」

 謎好きのカズラ。

「だからそれも説明したじゃない」

 うんざりで言うコブシなんだけど、そも、あたしの弟がなんでそんなに宇宙人に詳しくなったわけよ。

 そこも、謎。

「月の裏側に、大宇宙船団が集結してるのよね」

 カズラ、信じてるわけだ。

「でも、宇宙人の使う新エネルギーを無効にする装置をハカセが作ったために、行動できなくなっちゃってるんだよ」

「そのために、その装置を見つけて、壊すために工作員が来るかもっていうんでしょ」

 ミズキがめんどくさそうに言う。ってことは、あんま信じてないな。

「あのへっぽこが工作員?」

 これまたあまり信じてない組のアヤメ。

「おかしな連中だったって、ハカセも言ってたけど」

 だから、なんでウチの弟が、ハカセとかとそんなに親しいわけ?

「でもまた、誰かを送りこんでくるかもしれないから、警戒は怠るなって」

「そういうことだから、キミたちもそのつもりで、な」

 って、下川先生、なんか自信なさげ。

「けど、なんであたしたちなんですか?」

 スミレ、いい質問。

「それわぁ・・・」

 ってコブシ、なんで下川先生を窺う?

「言っただろ。アーマーを作ったハカセが、キミたちのピュアなハートに惚れてしまったんだって」

 じとっ。スミレ、ミズキ、あとあたしの、疑り視線が先生に向かう。

「奇跡の五人だなぁ、あはは」

 なんかごまかしてる。

「確かに」

 信じたメンバーもいたみたいです。

「地球を守る五人のアイドルに選ばれたなんて、確かに奇跡だわ」

 ど~ゆ~奇跡かは別にして、確かに奇跡ではありますケド。

「地球を守るアイドル」

 カズラが、力のこもった声で繰り返す。

「カズラ、それ気に入ってるよね」

「当然でしょ」

「まぁね、それやらないと、みるきぃクレヨンつづけられないみたいだし」

 諦めたみたいに言うミズキ。

「代われるもんなら誰かに代わってほしいけどね」

 350のペットボトルいじりながらスミレ。

「あちしはけっこ気に入ってるよ」

 あれ、アヤメ、そっち?

「おう、分かってるじゃないか、キミは」

 カズラがアヤメに手を差し伸べてる。

「は~、練習、どうしよ」

 なんとなくため息ついたけど、この五人といるのって、なんか心地いいって感じてた。

 でもって、月の裏側に集結してるとかいう宇宙人のことも、ちょっとだけ考えた。

 *

「皮肉なモノだな。ここまで来て、ただ地球を眺めているしかないとは」

 モニターに映る青い地球を眺めながら言うのは・・きゃっ、超美形の男子ではありませぬか。

 でもって傍らには、これまたちょ~かわゆい美少女。え? 妹なんだ、美形少年の。

「ヂャアが地球に行ったみたい」

「なに?」

 と、顔を上げる超美形お名前カントが、超かわゆい妹お名前ジルを見ます。

 その後ろの窓からは、暗黒の宇宙に浮かぶ無数の宇宙船のシルエットが。

 そう、ここもその中の一隻の船内なのであります。

「協力者の顔写真は?」

「兄さんに言われたとおりに」

「コンプリートにディレットしたんだな」

「ええ」

「それじゃ・・・」

 [なにしに]って言葉を飲んだんだな、ここは。

「またぐだぐだになるかもよ、ヂャアじゃ」

 再びモニターの青い地球に視線を移すカントとジル。

「見てみたくなった」

「なにを?」

「地球とやらを」

 カントの言葉に、ジルがそりゃかわゆく微笑む。

 *

 そのころ、ヂャアのロボット・カメラ蜂は、相変わらず巌厳学園の校内をあちこち飛び回っておりました。

 しかし、送られてくる映像は、チア部の自主練、チア部の自主練、軽音の練習、チア部の自主練、チア部の自主練、応援部の練習・・てな調子。

「誰が誰だかまったく分からんじゃないか」

「はぁ」

「どいつもこいつも、同じようなかっこして、同じようなことやってるぞ」

「はぁ」

「はぁしか言えんのかっ」

「自動翻訳機はバージョンアップしてあります」

「そんなことは聞いとらん。その、きれきれダンスとやらでイルカクーコ破ったシュバリアンはどれなんだ」

「あっ」

 ヂャアの副官あつかいされてる銀髪男が素っ頓狂な声を上げました。

「ミルクでも買い忘れたか?」

「なんかちょっと動きのいい連中が、移動しております」

「ん?」

 モニターに映っていたのは、第二校舎に向かうアザミとユリエと、あと何人かのWonderersメンバーでした。

 あ、Wonderersってゆうのは、GGCの選抜チームのことね。

 そのちょっと前、裏門のあたりで、下級生にきれっきれっなとこ見せてたのが、ちらっとモニターに映ったのでした。

「ヤツらかもしれんのだな」

「はぁ」

 自信なさげ。

「ともかく、追えっ」

 てなわけで、ロボット・カメラ蜂が、アザミとユリエの斜め上空で監視を始めたのでありました。

 *

「これから、どんな活動していくんですか?」

 ミズキが、下川先生に聞く。

「ツキイチGGCはもう出らんないんでしょ」

 返事の前に聞くカズラ。

「でもないだろ」

「え~っ、またブーイングの嵐あびるんですかぁ」

 めいっぱいイヤな顔のスミレ。

 そう。わたしたちは先月終わりのツキイチGGCというイベントのオープニング・アクトとして、初めてのステージに立ったのだった。けど、結果は。

 応援部の連中を中心にした帰れコールを浴びるハメに終わったのでした。

「だからさ、今度ツキイチGGC出るときは、もっと拍手もらえるよう、お前ら、頑張らなきゃ」

 そりゃそうかも。けどみんな、道は遠いって顔してた。

「でも、それまでどこかで活動しなくちゃいけないじゃないですか」

 あたし。一応、リーダーらしいとこ見せてみた。

「路上、考えてる」

「はぁ?」

「ろじょー?」

 みんなのお目々が丸くなる。

「うん。駅前のタバコ屋さんがお店閉めちゃったろ。そしたら、隣の電器屋さんのご主人が、軒下使ったらどうかって」

「はぁ~ん」

 誰もが、駅前のようす思い浮かべてた。

 あそこか。駅からすぐの、通学路だ。

「もうちょっと人通りの少ないとこのがいいんじゃないっすか」

 スミレが上目遣いに言う。

「それじゃ経験にならないじゃないか」

「そりゃそうっすけど・・・」

「いいじゃない。やれるとこがあるだけ」

「うん、あちしもそう思う」

 ミズキとアヤメの声が、みんなの気持ちをまとめた。

「でも、その前に・・・」

 あくまでリーダーっぽく、あたし。

「練習場所どうするんですか?」

「それな」

「どこもかしこもチア部で埋めつくされてますよ」

「屋上」

「屋上?」

「あそこは応援部の縄張りじゃないですか」

「でもその分、人口密度が低いんだ」

「そうだけど・・・」

「ハナシしてみようと思ってる。端っこ貸してくれって」

「屋上かぁ」

 わたしたちを野次りまくり、「帰れ」コールの音頭までとった応援部の隣で練習するのか。

「いいんじゃない、屋上。雨の日できないし」

 あらスミレ、そんなにサボり癖のヒトだったの?

「あと、新曲作ってるから」

 下川先生が、歌詞書いた紙ひらひらさせてる。

「いいっすよ、新曲は」

 ほおづえついて、そっぽ向いた。

 新曲、軽音のあいつに、また頼めないかな。

 そんなたらたらした午後の時間が流れてく・・はずだった。



 3・見たい、この目でシュバリアンを


「これじゃめぇ~ねぇ~じゃねぇか」

 突然叫んだのは、あの派手はで制服のヂャアそのヒトでした。

 ロボット・カメラ蜂の送ってくる映像が、突如、三分の二ばかり白くにごってしまったのです。

 なんかゴミひろったんだな、きっと。

「地球のゴミはこんなに汚れているのか」

「はぁ」

 ボスの自動翻訳機がまた調子おかしいと思いながら、銀髪男は適当に返事しておいた。

「二は分かるか?」

「は?」

「三は分かるかと聞いているのだ」

「はぁ?」

「あ・・・」

「なにか?」

「イチはどこか分かるか」

 やっぱ自動翻訳機おかしいわ。

「はっ」

 銀髪男がモニターをがちゃがちゃ。

「分かりました」

「よし、その付近の宇宙艇を隠せる場所に着陸せよ」

「ええっ?」

 銀髪男が驚いて顔を上げると、ヂャア、怖い顔で睨みつけているのでありました。

 わかりましたよ。

「2304 3305 8762 2099に着陸する」

「了解」

 操縦する白の銀髪男も、やれやれ気分で操縦桿を倒したのでありました。

 そして数分後。

 すごいっすね、ヤツらの宇宙艇は。

 わずか数分で、葦の茂る河原を発見し、そこに宇宙艇を隠しながら着陸していたのでありました。

 そして、どさっ。ヂャアが真っ先に地球の大地に降り立ちます。

「危険ではないでしょうか」

 後ろに降り立った銀髪男が情けない声で言う。

「見たい」

「は?」

「この目で、タークド・シルジュウソの作ったシュバリアンを」

「だが、しかし、我々のパワーでは、その・・・」

「ほっとする」

「は?」

「シンシャだよ、シンシャ」

「へ?」

「ほら、そっくりが2Dになる」

「あ、ひょっとして、フォト」

「そう、そのシンシャ」

「それを言うなら、シャシンであります」

「どっちでもいいっ」

「はっ」

「それさえとれば、司令官どのにい~とこ見せられるっつうもん」

「はぁ」

 銀髪男、どうやらヂャアの言ってること、半分くらいしか理解できてない。

「お前は、俺を先導しろ」

「はぁ?」

「残りは二人ずつ、俺が見える場所で目立たないように行動するんだ」

「それでは、宇宙艇がカラに・・・」

「わたしになにがあってもいいというのかっ」

 唾が飛びました。ヂャア、偉いヒトのようです。いちおー。

「分かりました」

 てなわけで、スマホ状の通信機のマップを見る銀の銀髪男とヂャアが真っ直ぐ目的地に向かい、桃と白が右後方、黒と青が左後方というフォーメーションで移動を開始します。

 あ、そうそう。銀髪男どもは、例によってモスグリーンのつなぎに、黒のブーツで、胸のとこに各自のカラーが差し色されております。

 でもって、[道を歩く]という考えがないんだかなんだか、ヂャアと銀の銀髪男は、川堤を越えると、雑草の生い茂る空き地をまっすぐに歩いてゆきます。

「これが地球のじびたか」

「はっ」

 やっぱ翻訳機調子おかしいと思いながら、銀髪男は適当に返事しておいた。

「やらかいかたいやらかいかたい」

 ぶつぶつ言いながら歩くヂャアに、銀髪男はもう返事もしない。

 やがて、空き地の向こうの、雑木林に覆われた小さな丘みたいのを越えると、眼下の道路の反対側の丘の上に、巌厳学園の第二校舎が見えていた。

「あそこです」

「下がる、上がる」

「はいっ」

 い~かげんなやりとりしながら、ヂャアと銀髪男が第二校舎に向かう。

 そこは、通称飛び地って言われてるとこで、サッカーもできるグランドとふたつの小体育館があった。

 そのうちのいっこが、GGC=巌厳学園チア部の、通称本部と言われている専用の体育館だった。

 道路を渡ると、緩い傾斜の畑の先に第二校舎のフェンスがある。

 ヂャアと銀髪男、畑踏みにじって、まっすぐフェンスに向かってる。

 怒られるぞ、農家のおじさんに。

 でもってもちろん、右後ろからは桃と白が、左に黒と青が、畑の縁つかってフェンスに近づいてゆく。

「どやって見つける?」

「そ~ですねぇ~・・・」

 銀髪男、ノーアイディアらしい。

「色がついてるとか言ってたな」

「あ、はい、五色の着衣でありました」

「何色だ」

「えっと、ピンクがかぶってました」

「あとは」

「赤と緑と・・・」

「あとは」

「え~っと・・・」

 必死こいて考えてやんの。記憶力大したことないな、こいつ。

「まぁいい。五色の五人組だな」

「はい」

「よし」

 派手はでコスのヂャア、いきなりフェンスによじ登っちゃった。

 それを見て、あとの四人もこっち向かって走ってくる。

 フェンスに上がると、1メートルくらいのとこがGGCの本部体育館で、ちょうど窓から中のようすが窺える。

 中ではGGCの選抜チームWonderersが練習中。そりゃきれっきれのいい動き。

 それを見た銀髪男がハッと目を見開く。

「あれ、あれくらいの動きでした」

「なに?」

 も一度中のようすに目をやるヂャア。

「ならば、あの中におるな」

 ひょいっとフェンスを飛び降りるヂャアと銀髪男。着地すると目の前が窓。そこに、どさっとストレッチングのために座った二人の女子。

 おんなじ高さで出会う目と目。

 女子の顔が一瞬ひきつったかと思うと、

「覗きよぉ~~っ」

 甲高い声で思いっきり叫んだ。

 そこに、どさどさどさとフェンスから下りてくるあと四人の銀髪男。

「覗き?」「どこどこ」「あそこです」「捕まえてっ」「はいっ」

 つぎつぎと声がして、足音がどどどどっ、どどどどっ、忙しく動き回ってる。

 え? え? え?

 ヂャアと銀髪男、思わず顔を見合わせ、窓の中を見て、もう一度、え? と顔を見合わせる。

 ケド、そんなことしてる場合じゃありませんでした。

「いたっ」

「捕まえろっ」

 声とともに、左右から三十人あまりのジャージ姿の女子がどどどどどっと迫ってきたのです。

 なにしろフェンスと体育館にはさまれた細長い空間。逃げるとすれば再びフェンスを乗り越えるしかなかったのですが、この連中、事態が飲みこめぬままただ突っ立っておりました。

「捕まえろっ」

「引きずりこめっ」

「この野郎っ」

 正義感に燃えた数十人のJKが、いろんなこと叫びながら突進してくるのであります。

 世の中にこれ以上恐ろしいことはないんじゃないか。

 足がすくんでる間に、つぎつぎと腕を取られ、羽交い締めにされ、

「なにをするっ、わたしを誰だと思ってる」

 と、叫んでも、

「ムダです、ヂャアさま」

 はい、そのとおり。

 あとの四人も恐怖にひきつり、両手を上げております。

 しっかし、フェンス乗り越えて中に入るなんて、大胆っつうか、常識ないっつうか。

 あ、宇宙人の見分け方に、地球常識がないってゆう項目がありましたっけ。

 それはともかく、両腕をつかまれ、羽交い締めされ、足まで持ち上げられ、六人の大のオトナが体育館に引きずりこまれてしまったのであります。

 そこにはさらに数十人のジャージだったり練習着だったりの女子。

「ど~ゆ~つもりよ、スケベ親父」

「変態じゃないのっ」

「ストーカー?」

「どうなるか見せてやろうよ」

 さまざまな罵声とともに、百個くらいの怒りの女子目線を浴びることになった。

「ひっ、ひっ、ひぇ~っ」

 この時はじめて、ヂャアのココロに恐怖心が芽生え、あっという間に沸点に達しました。

 そして、ヂャアの制服には、恐怖が沸点に達すると反応する、とある装置が仕こまれていたのです。

 ぴか~ん。着ていた制服が光り出したかと思うと、ぬめぬめと変態を始めたのでした。

「きゃっ、なにっ」

 取り囲んでいた女子が、わっと飛び退きます。

 それを見た銀髪男たちも、恐怖心ともあいまって、

「ふかんぜんへ、んたいっ」

 こちらも全身ぴか~ん。アーマー・スタイルにと変身を始めました。

 これらのパワーを使うと感知されてしまうということ、知らなかったんだか、忘れてたんだか・・・。



 4・ドーナッテルンダー!


 ぴ~ぴ~ぴ~。

 あたしの頭の中で、あの警告音が鳴り出した。

「ん?」

 顔を上げたのは全員いっしょ。

「来た」

「やっぱ?」

「鳴ってる」

 とっさに、コブシが見たことないスマホ取り出した。

 指でぴゅっとかやってチェックしてる。

「第二校舎だ」

「なんだってぇ」

 下川先生ががっと立ち上がり、椅子引きそこねて、膝打ってる。

「行きましょう」

「う、うん」

 必死に立ち直る下川先生。

「アーマー着られる」

「だねっ」

 真っ先に立ち上がるカズラとアヤメ。

「またバトルとかやるのぉ」

「しゃあないよ」

 不満そうなスミレに答えるミズキ。

「今度はもうちょっとうまくやろっ」

 机に両手置いて、あたしもすっくと立ち上がる。

 なんせ、リーダーですから。

 かくして、地球を守るアイドル戦士[みるきぃクレヨン]の二度目の出動となったのであります。

 *

 しかし、[ふかんぜんへ、んたい]のエネルギーを感知していたのは、わたしたちだけではありませんでした。

 地球上空を飛ぶ、カントが一人乗った小型宇宙艇にも反応が伝わりました。

 ん? と、どこやらを操作するカント。

 するとモニターに、ロボット・カメラ蜂からの不鮮明な映像が映し出されました。

 要するに、体育館でアーマー・スタイルに変態しちゃったヂャアと五人の銀髪男の姿にびっくらこいている50人ばかりのGGC部員という絵ね。

 それを見て、超美形のカントが顔をしかめます。

「なんとお粗末な・・・」

 その直後、小型宇宙艇はきゅい~んと旋回を始めたのだとか。

 *

 さて、体育館のほうはというと、もう大混乱。

「きゃ~~っ」

 目の前で、アニメかCGみたいにアーマーに変態しちゃったんだから、そらびっくりしますよね。

 六人のアーマー姿スケベ親父から、誰もが後ずさりしております。

「ルゲーニ、ルゲーニ」

 このスキに脱出しようとヂャアが走り出し、五人の銀髪男がそれに従います。

 しかし、このヂャアってゆう宇宙人、かなりパニくっていたようです。

 走り出したものの、どっち行っていいのか、根本的なことが分かってなかった。

 しょうがないんで、出口求めて蛇行しながら走ってます。あとに続く銀髪男どもも、あっちにすたすた、こっちにとたとた。

 そのたびに、数十人のGGCメンバーも「わ~っ」「きゃ~っ」とちりぢりに逃げ回る。

 もうなんだかぐちゃぐちゃの状態。

 で、悪いときには悪いことがつづくもの。

 体育館の片隅に、内装工事用の大きな脚立が、今日はお休みだからブルーシート賭けた状態で立ってたんです。その他の工事材料や用具といっしょに。

 目立ちますよ。なにしろ二階相当の高さで作業するための脚立ですから。

 けど、逃げ道を探すヂャアは前見ないで走ってた。

 ガッシャ~ン・・・!

 肩から激突してしまったのです。それもアーマー状態だから破壊力すごい。

 脚立は折れて倒れてくるし、工事材料やらなにやらは吹き飛ぶしで、誰もが「キャ~ッ」。

 体育館内もうパニック状態。

 もっともヂャアも、

「うぐじゃ、けれこれ」

 ブルーシートにからまちゃってたんですケド。

「ぷはっ」

 銀髪男に助けられ、顔を上げたヂャアが最初に見たのが、準備室に逃げこむ中学生三人組の姿でした。

 ドア開けて、ここから消えた。

 出口だ。

 そう思ったヂャアは、

「ルゲーニ、ルゲーニ」

 叫びながら、そっちに向かって突進した。

 しかし、ヂャアって宇宙人、アーマーのパワーをきちんと理解してなかったか、初体験だった。

 だだっと踏みこんだ二歩目で、ガツッと体育館の床を踏み抜いちゃった。

 おかげでおっとっとっと。体勢もバランスも崩したまんま、真っ正面から準備室のドアにガッシャ~ン。

 みごと扉を破壊し、準備室の中にずっで~んと倒れこんだのであります。

「キャ~~ッ」

 三人の中学生が悲鳴を上げ、うち一人は、スネのあたりにヂャアの肩がぶつかって、転倒しています。

 どうしていいのか分からないまま、銀髪男どももどどどどどっ。準備室になだれこんでくる。

 慌てて、さすがリーダーのアザミと、サブのユリエが走ってくる。

 顧問の先生とコーチにはもう連絡したけど、到着するまではアザミが責任者。

 準備室をのぞき見するくらいのとこで止まって、

「その子たちをどうするつもり」

 人質に取られると思って、思わず叫んだ。

 それ聞いた銀髪男の一人が、反射的に中学生女子の腕をつかみ、それを見た別の銀髪男が別の子の腕をつかむ。

 え? え? え?

 事態が飲みこめてないのは、むしろヂャアそのヒト。

「ドーナッテルンダー!」

 決め技のコールじゃないっつうの。

「チ、チッヂンジ、ルートンド」

 銀髪男が返します。

「ジーマヨか」

「それしかないかと」

 って、そこだけ地球語。

 やれやれしょうがないと立ち上がるヂャア。

「シュバリアンを出せっ」

 アザミとユリエに向かって叫んだ。

 え? え?

 びっくりしたのは、実は銀の銀髪男。

 え? 人質とって、宇宙艇に戻るんじゃないんですかぁ? それだって、いい手じゃないケド。

 しかしヂャア、

「踊りのうまい、五色の五人組だ」

 すっかり人質取って要求してるヒト気分。

 え? こちらアザミとユリエが顔を見合わせる。

 踊りのうまい五色の五人組って、誰?

 銀髪男どもはじりじり。だって、五色の五人組出てきたら、負けちゃうのに。

 しかしヂャアは、策があるんだかないんだか、五色の五人組に執着しちゃっていたのでした。

 *

 さて、その頃、地球を守る五色の五人組は、

「ハイエースで移動っすか」

 下川先生が中古で手に入れた三列シートのワゴン車で第二校舎に向かっていました。

「文句言わない」

 と、運転に自信なさげな下川先生。

「ハカセとの回線、開けておきましょうか」

「あ、ああ、そうだね」

 言われて助手席のコブシが指先でぴゅっ。

「それっ」

 と、第二校舎へと左折したハイエースでありました。

 *

 さて、体育館の準備室の、なりゆきで中学生女子部員三人を人質にしちゃったヂャアと銀髪男ども。

「ぽり~、すとかそ、ういうことつう、ほうるとこの、子らのぶじはほ、しょうない」

 興奮すると自動翻訳機の調子までおかしくなるらしい。

「シュバリアンを、踊る五色の五人組を出せっ」

 けど、出てきたら勝てないと銀髪男どもは戦々恐々。

 ヂャアさま、どうなさるおつもり?



 5・やっぱちょっとカッコいいっすね、このアーマー


 とんだ展開の人質事件に、体育館中わさわさしてる中で、アザミとユリエだけは不思議そうに顔を見合わせていた。

「踊りのうまい、五色の五人組、って?」

「あたしたちじゃ、なさそうっすよね」

 どうにも気になってしょうがなかった。

 *

 と、ちょうどその頃、ハイエースが駐車場に滑りこんだ。

「キミたち、分かってるな」

「はいっ」

 コブシとともに体育館に走る下川先生を見送って、わたしたちはそれぞれのカラーのトランク持って、ハイエースの脇へ。

 蓋開けたトランクの中に立って、へ~んしんっ!

 がちゃがちゃがちゃ。パーツが装着され、ヘルメットがぱかっとはまり、アーマー姿の完成でございます。

 窓ガラスに映るその姿は、う~む、我ながらカッコいいかも。

 *

 その頃、体育館の玄関では、知らせを受けて走ってきたGGCの顧問・鈴木涼子先生とカデット・ヘッドコーチが、下川先生とばったり。

「あら、下川先生」

「あ、ああ」

「どうして?」

「え、ええ、え~っと・・・」

 下川先生、鈴木先生もカデット・コーチも美人だもんで、いっつも挙動不審に陥るのです。

「早く中行ったほうが」

「あ、そうね」

 コブシの機転で、先ずは鈴木先生とカデット・コーチに続いて、体育館の中へ。

「どうしたの?」

「なにがあった」

 フロア真ん中のアザミとユリエの元に走り寄る鈴木先生とカデット・コーチ。

 その背中ぼぉ~っと見送る下川先生と、すかさず状況を観察するコブシ。

 こいつ、なんかこういうとこ要領いいんだよな。

「先生、あの準備室、二階がありましたよね」

「そうだっけ」

「ええ。中に急な階段があって、テラスみたいな二階に上がれるんです。でもって、二階にもドアが」

「なるほど」

「あと、ヤツらの後ろにも、直接外に出られるドアがあるんです」

 ヂャアのなんかわめく声が聞こえてて、鈴木先生とカデット・コーチが、目を丸くしてすくんじゃってるのが背中からでも分かる。

 そんな中、冷静なのはコブシと、

「そうか」

 と、頷く下川先生。

「で?」

 って、ありゃ、分かってなかった。

「だから、二階から飛び降りれば、人質は確保できると思うんです」

「うん」

「そのあとで後ろのドアから突入すれば、ヤツらは正面から逃げるしかなくなります」

「なるほど」

「ハカセとの回線は空いてますから、その時点で指示を受ければいいんじゃないでしょうか」

「そうしよ、そうしよ」

「上から姉ちゃんとミズキさん、スミレさん。外からアヤメさんとカズラさんでどうでしょう」

「よし、それでいこう」

「じゃ、姉ちゃんたちに作戦伝えてきます。先生は、事務所から鍵を」

「あ、ああ、鍵ね、分かった」

 って、なんかコブシのが指揮官みたいじゃん、これじゃ。

 ま、ともかく、コブシはスマホで博士の指示を仰ぎながら、駐車場のわたしたちの元へ走り、先生は事務室に鍵を取りにゆきました。

 その頃、人質を取られ、訳の分からないことをわめくヂャアに、鈴木先生もカデット・コーチもただただ顔を見合わせておりましたとさ。

 *

「よっしゃ、分かった」

 コブシから作戦を聞いたわたくし・カンナが答えます。

「ほんで、ヤツらさんたちはどうすんの?」

「ハカセが、映像分析しながら指示するって」

「ふ~ん」

 なんとなく釈然としないわたしたち。

「相手が誰か、確認したいんだって」

「ふ~ん」

 そんなこと言われたって、よく分かんないしぃ。

「人質を確保することと、とりあえず逃がさない。先ずはそこまでだから」

「了解」

 って返事を返すと、なんかチームっぽい感じがした。

「じゃ、位置について」

「コブシ、あんたは?」

「クルマから姉ちゃんたちに指示出すから」

「あっ、そっ」

 チームっぽいのはいいけど、弟が指示役かい。

「カズラ、アヤメ、頼んだよ」

「オッケー」の二重唱。

「スミレ、ミズキ、行こう」

「おう」

「うん」

 あたし、リーダーっぽいっしょ。てへっ。

 てなわけで、スミレとミズキを従えて、通用口から二階に向かう。

 カズラとアヤメは、体育館を回りこんで、準備室のドア外に向かう。

 二階に上がると、ちょうど下川先生が鍵持ってやってきた。

「今、開けるから」

 ちょっと耳を澄まして、ヂャアがなんかわめいてるタイミングで、カチャッ。

 下川先生が親指立てて、カズラたちのほうのドアを開けに行く。

「先生が側面のドアを解錠したら行動開始だから」

 コブシの声がヘルメットの中に響く。

「りょ~かい」

 スミレとミズキと、ドア外の廊下でちょっとかっこつけて身構えた。

 しかし、下川先生もわたしたちも、そしてコブシも、カズラとアヤメにはふざけ癖があることをまだ知らなかったのだった。

 *

 そもそもねぇ、下川先生がカズラたちのとこに向かう途中で、「あ」って、鍵落とした上に、「あや」って広いそこねたのがいけないんですよ。

 そんなことしてる間にアヤメが、

「カンナさんたちが人質確保したら、あちしたちの出番ですって」

 と、どこかのんびりした声で。

「ど~んと飛びこんで、わ~っと脅かしてやりゃい~んだろ」

 根拠ない自信ぶちかますカズラ。

「カッコよく決めちゃいます?」

「当然だろ」

「やっぱちょっとカッコいいっすよね、このアーマー」

「ポーズとかとってみちゃう?」

「こんな感じ?」

 戦隊モノ風のポーズとるアヤメ。

「違うちがう。もっとこんな風にさ」

 アメコミ風のポーズ決めるカズラ。

「でもって、ダッシュ」

 って、スパイダーマンかい。

「お~、い~感じ。キレてた?」

「もっといけんじゃないっすか」

「よっしゃ。ダ~ッシュ」

 ガッとダッシュするカズラなんだけど、三歩目で石にけっつまづいちゃった。

「わあっ」

「オッケー、フルパワー出てます」

 ヘルメットに声が響いたときには、

「わっわっ」

 止まらなくなったカズラの、フルパワーのアーマーの破壊力はすごかった。

 ぐわっしゃ~ん。

 ドア突き破って、準備室に突進しちゃったよ。

「カズラッ、やりすぎっ」

 アヤメもしょうがなしに、っつうか、反射的に、準備室に突進した。



 6・無様なものだな、クズどもが


 準備室では、いきなり背後のドアをぶち破って飛びこんできたカズラに、ヂャアたちと、ついでに人質の中学生女子もびっくり。

「なんだぁ?」

 と、ヂャアが振り向いたところに、

「とあ~~っ」

 突進してきたアヤメががっつ~ん。

「のっわ~っ」

 ヂャアさま、アヤメに体当たりされて、吹き飛ばされている。

 その音聞いて、二階ドアから準備室に入ったわたしたちはあっぜ~ん。

「あの二人、作戦ってコトバ知ってんの?」

 と、ミズキ。

「あたしたちのい~とことらないでよ」

 と、スミレ。

 ん? 二人とも、それすっかりヒーロー気分だよ。

「あっだぁ」

 下では、弾き飛ばされたヂャアがやっと上半身を起こす。

 そこには、頭からスライディングしたカズラを助け起こすアヤメと、まだ中学生女子の腕をつかんだままの五人の銀髪男どもがいる。

 二対六。

 ヂャア、思わずほくそ笑んだ。これなら・・・。

 ケド、

「あらわれたな、シュバリ・・・」

 までしか言えなかった。

 ヂャアの台詞とほぼ同時に、

「行くよっ」

 と、あたしが一言。

 つぎつぎと二階のテラスから飛び降りると、先ずあたしが銀髪男にがつんっと一発。

 スミレも、ミズキも、つぎつぎと中学生女子の腕を押さえていた銀髪男どもを襲う。

 さらに、体勢を整えたカズラとアヤメのキックが残りの二人を見舞った。

「うわっ」「あっ」「んげっ」とそんな声がつぎつぎと聞こえてきて、あっという間に三人の中学生女子は救出されたのでありました。

 カッコいいじゃん、あたしたち。

「逃げなっ」

 中学生女子三人を体育館のフロアへと逃がし、あたしたち五人は、ヂャアと五人の変態銀髪男どもを取り囲む。

 あ、ヂャアって名前は、その時まだ知らなかったんですケドね。

 *

「キャプテンッ」

「先生っ」

 解放された中学生女子が、アザミや鈴木先生やカデット・コーチに飛びつく。

 その回りには、ドア破壊された準備室を遠巻きに覗きこむようにCCC部員が集まっている。

「だいじょぶ?」

「はいっ」

 って、そんな型どおりの会話の間も、アザミとユリエの目は、準備室の中に釘付け。

「誰なの、あれ」

「なんとかレンジャー的なアレですか?」

「映画の撮影じゃないよ」

「じゃ・・・」

「五人いて、五色だ」

「確かに・・・」

 *

 さて、そんなアザミとユリエの目を釘付けにしたわたしたち。

 こないだよか一人多いけど、たった今も感じた実力差ならなんとかなるでしょ。

 それどころか、実力差実感してる銀髪男のが、びびり始めていた。

「ど、どうするつもりだ、シュバリアン」

 しゅばりあん? それ、なんのことか分かんない。

 ヂャアとしては精一杯の虚勢だったんだけど、後ろから袖引っ張ったヤツがいた。

 そう、あの筆頭銀髪男。

「ヂャアさま、ルダブ・イルカクーコしかないかと」

「なんで?」

「ルゲーニガチーカ」

 筆頭銀髪男が言い聞かせ、

「ルゲーニガチーカ」

 ヂャアがほぼ納得します。

「しかし、あれはこの前・・・」

「じゃ、ほかに方法があるのかよっ」

 別の銀髪男のコトバに、筆頭がぴしゃり。

「イルカクーコで逃げましょ」

「そっか」

「そうしましょ」

 てなわけで、またぞろ、あの色もカタチもレモンみたいなものを、筆頭銀髪男とヂャアが一個ずつ取り出す。

 そいつをぎゅっと握りつぶすと、ぶおっと分厚くてでっかいシャボン玉みたいなものが広がり、ヂャアと銀髪男どもを二重に包みこんだ。

「ルゲーニ」

 シャボン玉の中で、ヂャアと五人の銀髪男どもが走り出す。

「やるかっ」

 ポーズとったカズラが、シャボン玉の表皮に弾き飛ばされ、

「ルゲーニ、ルゲーニ」

 なんかリズム取りながら、シャボン玉ご一行さまが、準備室から体育館フロアへと逃げ出そうとしている。

 *

 そのありさまは、ロボット・カメラ蜂によって、カントの宇宙艇のモニターにも映し出されていた。

「無様なものだな、くずどもが」

 カントの宇宙艇が、急激に高度を下げ始めたらしい。

 *

「わ~っ」

「きゃ~っ」

 準備室の破壊されたドアから、うにゅ~っとはみ出てきた巨大シャボン玉に、フロアのGGCメンバーが後ずさっている。

「どうする、コブシ」

「あのイルカクーコって、接触したヒトを巻きこんだり、怪我させたりすることもあるんだって」

「えっ」

「だから先ず、それを避けてくれって」

「んなこと言われても・・・」

「ようっしゃ、キ~ックッ」

 こっち側でカズラが回し蹴りを見舞うが、二重のせいか弾き返されてる。

 それどころか、巨大シャボン玉を体育館フロアに押し出しちゃった。

「キャ~ッ」と悲鳴が聞こえて、フロアがパニくっているみたい。

 まずいよ。

「もっとパワー上げないと」

 って、コブシ。

「どうする?」

 スミレの声もした。

 さぁ、どうする? カンナ。

「ようっしゃ、コブシ、あの曲の用意を」

「え?」

「これが、原点なんだよ、きっと」

「げんてん?」

「悔しかったアイドルデビューの、その悔しさをいつか晴らすための、あたしたち[みるきぃクレヨン]の、未来へのつぎの一歩なんだよ」

 あたし、カッコいい?

 一瞬の間があって、

「りょ~かいっ」

 四人の声が返ってきた。

 よっしゃ。

「コブシ、いい?」

「音、出します」

「みんな、Just do it」

「Just do it」

 体育館のフロアに飛び出して、ぴしっと整列する。

 その瞬間、わっと視線が集まるのを感じる。

 そらそうだ。五色の戦隊モノ風アーマー姿の五人が飛び出してくりゃ、体育館中のGGCメンバーが注目するのは当たり前。

「誰なの、あれ・・・」

 アザミがつぶやき、ユリエもお口ポカンとこっち見てる。

 見てろよ、ユリエ。

 いくぜ。

 ヘルメットの中でイントロが流れ出す。やっぱ気持ちいいよ、この曲。

 ステップ踏み出して、腕の振りもつけて。

 えへへ、やっぱアーマーの時はキレてるわ、みんな。

 歌っ。


♪just do it

 その一歩を踏み出せ

 キミならきっとできるから


 ステップ踏んで、踊りながらシャボン玉との距離を詰める。

 動き、キレてる。

 アザミとユリエも、その動きをハッと目で追う。

「踊りのうまい、五色の、五人組・・・」

「誰なの?」

 さ、誰なんでしょ。えへ。


♪退屈な昨日なんか

 置き去りにしてしまえ

 破り捨てろ 汚れた日記など


 ワンツースリーと踏みこんで、よっしゃ、いくよ。


♪just do it


 五人のキックが、巨大なシャボン玉の表皮に突き刺さる。

 すると、ぶよぶよぐにゃぐにゃしていたシャボン玉の表皮が、まるでガラス玉を割ったように砕け散っていった。

 粉々になった小さな破片が、ぱんっとふくれ上がって、きらきらと体育館いっぱいに広がって行く。

 赤に、黄色に、緑に、紫に、ピンクの破片が、きらきら、きらきらと体育館の中を舞っている。

「わぁ~~っ」

 遠巻きにしているGGC部員から、嘆声が漏れる。

 どうだ、キレイだろ。

 *

「素晴らしいシュバリアンだ。さすが叔父上」

 宇宙艇のカントも、モニターを見ながらつぶやく。

 *

 五色のきらきらの中で、ノリノリで踊るわたしたち。


♪just do it

 その一歩を踏み出せ

 キミならきっとできるから


「きれっきれ」

 ユリエがぽつり。

「あいつら、カッコいい」

 アザミもつぶやく。


♪恐れることなんかない

 明日はもうぼくたちのもの

 手に入れろ 光る1ページを


 ターン、ステップ、キック、でもって腕を上げて、伸ばして・・・。

「わっ」

「んぎゃっ」

「ふぎゃっ」

 この前といっしょ。ダンスの動きが、みぃ~んな相手への攻撃となってつぎつぎと決まる。

「ルゲーニ、ルゲーニ」

 ヂャアと変態銀髪男どもも大慌て。そこらへんにあったスクール・バッグやらラジカセやらクール・スプレーやら、手当たり次第に投げつけては逃げてゆく。

「どうする?」

 あたしの声にかぶさるように、コブシの声が響いた。

「確保してくれないか、って

「カクホ?」

「捕まえちゃえってことじゃない」

 スミレののんびりした声がはさまる。

「誰かを確認して、いくつか質問したいからって」

「ハカセか・・・」

「早く。追いかけてっ」

「はっ」

「姉ちゃん、どうかした?」

「なんでもない」

 地球を守るって、けっこややこしいわ。

「いい? 行くよっ」

 どどどどっ。追いかけるわたしたち。

 その背中を、ぽかんと見送るアザミとユリエ。

「なんなの、あいつら」

「誰なの。わけ分かんないし」

「でも、あのダンスのキレ・・・」

 ふっと真顔で顔を見合わせるGGC Wonderersのセンターとサブ・センターでありました。



 7・やってくれますよね、叔父上も


 さて、こちら外。

 大慌てで外に飛び出したヂャアと五人の変態銀髪男ども、懸命になって逃げ道探してます。

 それを追いかけるわたしたち。

「色違いっつうか、一人だけ違うカッコした男さえ確保してくれればいいって」

 コブシの声が響く。

「分かった」

「じゃ、カンナはそいつを」

 ミズキの声だ。

「あたしたちがガードするから」

「ヒュウッ」

「なに?」

「タノモシィ」

「いいからっ」

「あいよっ」

 走りながら見ると、体育館の角を曲がってった。

 あっちは、駐車場だ。

 だだだっと駈けこむと、ヂャアたち、どっちに行ったものかおろおろしてた。

 マップとか、ないわけ?

「そこまでだね」

 言って、ひるむ合わせて六人に向かってすたすたと歩き出す。

 あたしちょっと、カッコよくね?

 左にはスミレとカズラ、右にアヤメとミズキ。扇形に広がったとこは、ありゃま、戦隊ヒーローだわ、わたしたち。

「待てっ」

 逃げる構えのヂャアに向かって突進した、その時だった。

 バサッと落ちてきた大きな網が、ヂャアと五人の銀髪男をそっくり捕らえていたのだ。

「え?」

 頭上を見ると、なにやら銀色のヒコーキみたいのが浮かんでて、六人を捕らえた網を吊り上げている。

 *

 ヒコーキみたいののコクピットにはもちろんカント。

 デモ、その時はまだ、そいつのことなぁ~んにも知らなかったんですケド。

「こんなマンガみたいな、原始的な方法をとらなくちゃいけないなんて、やってくれますよね、叔父上も」

 ぶつぶつ言いながら、ヒコーキ操作してる。

 *

 なんだこれは?

 六人を入れた網を吊り上げ、機内に回収しようとしているヒコーキを見上げた。

 ヂャアとその一味がほっとしたような顔してるとこ見ると、このヒコーキも宇宙人のモノ?

 六人組が重いんだかなんだか、ヒコーキ、三階の窓くらいの高さまで下がってきてる。

 いけるかも。

 とっさに、向こうのフェンスまでダッシュして、そこに飛び上がる。

 すぐそこに翼が見えてんじゃん。

 なんなんだろ。好奇心? 正義感? それとも、使命ってヤツのせい?

 答えがないまんま、あたしはフェンスを足場に、ヒコーキの翼に飛び移っていた。

 翼が、ぐらりと傾く。ったって、つかまるとこもないぞ。

 四つん這いの姿勢で、顔だけ上げた。

 すぐそこに、キャノピーってゆうの? 透明なガラス(たぶん)に覆われた中に、ヒトまたは宇宙人がいた。

 そいつが、揺れる機体に驚いてこっちを見る。

 うっわっ。すんげえ美形の男子だ。

 目が合う。まだ驚いたような顔のまんま、じっとこっち見てる。

 あたしの顔・・いえ、ヘルメットのバイザーに、なんかついてる?

 そしたら、磁石でくっついてるみたいに、視線が外せなくなった。

 そいつの、濃い青緑をした、澄んだ瞳から。

 時間が、止まったみたいだ。

 と思ったとき、キャノピーにヂャアご一行さまがどやどやと入ってきて、ごたごたになった。

 ちっと、舌打ちするみたいな動きがあって、イケメンがなにかを操作すると、翼が左右に揺れた。

「わあっ」

 なんせつかまるとこもなぁ~んもない翼の上。あたしはあっけなく、ころんと地面に墜落してた。

「カンナ、だいじょぶ?」

 すぐ、スミレが助けに来てくれる。

「ああ、だいじょぶ」

 立ち上がって見上げると、銀色のヒコーキはもううんと高いとこにいて、あっという間に飛び去ってしまった。

「誰なの?」

 声に振り向くと、アザミとユリエがいた。

 お目々まん丸にして、わたしたちを見てる。そらそうだ。まるっきり不審者だもんね。

 瞬間、ユリエと目が合った。

 不思議そうに、じっとこっち見てる。

 やばっ。バレた?

「ハケて、姉ちゃんたち、早くハケて」

 コブシの声が響くのと、

「誰なの、あんたたち」

 アザミが強い口調で言うのが同時だった。

 すると、次の瞬間、

「アース・アーマー・ファ~イヴッ」

 カズラがけったいなポーズとって叫んでた。

 アザミとユリエがポカンとなると、

「失敬っ」

 片手を上げて、くるっと振り向くと、ダッと走り出してる。

 あ、そういうこと。

「失敬っ」

 なんか分からんけど、あたしもマネして、くるっ。ほかのメンバーもそれにならった。

「クルマは?」

「正面側」

「あいよっ」

 正面側に回ると、もう下川先生とコブシがハイエースに乗って待っていた。

 わたしたちがどどどっと乗りこんでクルマが走り出したころ、

「アース・アーマー・ファイヴ?」

 さっきの場所では、アザミとユリエがぽかんと顔を見合わせていた。

 *

 でもってこちらは、カントの宇宙艇の中。

 もともと四五人用のスペースに、六人も乗ってきたもんだからもうぎゅうぎゅう。

「押すなよ、操縦できないだろ」

「俺の宇宙艇はどうする?」

「オートで帰還させろ」

「あ、そうか」

 って、どうもヂャアってジンブツ、あんましデキのいいヒトじゃないみたいね。

 あ、ヒトかどうか知りませんケド。

 ふぅっとため息ついて、カントが言う。

「それより、もう地球に下りるのはやめたほうがいいんじゃないのか」

「え?」

「キミの叔父さまが勘づくと・・・」

 そこまで聞いただけで、ヂャア、むっと黙りこんじゃった。

 なんなんでしょ。

 そんなことより・・・。

 カントは、操縦に集中するフリをして、ふっと遠くを見た。

 あの目、どうやら忘れられなくなりそうだ、と。

 *

「アース・アーマー・ファイヴって・・・」

「なんか決め台詞あったほうがいいかなと思って」

 あたしの問いにカズラが答える。

「分かるけど」

「イマイチだった?」

「う~ん」

「じゃさ、もっとカッコいいの考えよ~よ」

 アヤメが間に入る。

「分かった、そうしよ」

 なんせ、なにもかもが未完成のわたしたちです。

「でもさ、あれ着てると、あちしたちイケてるよね。動いてても気持ちいいし」

「動きはよくなるけど、気持ちいいか?」

 アヤメに同意しないミズキです。

「気持ちいいよ。再び地球は守られたんだから」

 と、カズラ。

「あれで?」

「実感ないよね」

 ミズキとスミレ。

 ま、確かに。地球を守るとかどうとか、そんな実感はどこにもないケド。

 でも、あの見たこともないヒコーキ。やっぱしホントに、宇宙人がいるんだろうか?

 そしてあの、深い青緑の、澄んだ瞳・・・。

 ケド、あれ着て動いてると気持ちいいってゆうのは分かる気がする。

 ダンスだって、キレてたもんな。

「あ~、あれでアイドル・パフォーマンスしたいっ」

「それはダメなのっ」

「は~い」

「がっこ帰って練習しよ」

「は~い」

 返事のトーンが下がった。

 しょうがないよ、アヤメ。



 8・わざとへたっぴに踊ってるわけ?


「聞いてみたいことがあったんだけどなぁ」

 モニターの中で、四角い顔のおじさんがのんびりと言います。

「接触しちゃまずかったんじゃないですか?」

 そこはにしぶち酒店さんの古い蔵の地下。DJブースみたいなコンソールに向かったコブシが、モニターのおじさんと会話してます。

 そう、モニターの四角い顔のおじさんこそ、ハカセなのです。

 ど~ゆ~ハカセか知らないんだケド。

「いや、勝手に単独で行動してるっぽいんだよね」

「どうして分かるんですか?」

「知り合いっぽいんだ」

「知り合い?」

「うん。だから、向こうのようすも少し分かるかなと思って」

「で、どうします?」

「う~ん」

 考えこむハカセ。

「対策練ってみるわ」

 のんびり言って、そこで会話は終わったそうです。

 そんなことで、地球は守られるんでしょうか。

 *

「そうだ」

 い~こと思いついたときのクセで、唇片っぽだけ上げて、スミレが言う。

「先生、練習のとき、クルマ動かしてくださいよ」

「なんで?」

「ほら、空いたスペースで練習できるじゃないですか」

「あ、それいい」

 あたしが乗ります。

「確かに」

 と、これも口癖っぽいミズキの反応。

「けど、クルマは・・・」

「あっちの通路に置いとけばいいじゃないですか。ギリ寄せて」

 これ、カズラ。

「しかし・・・」

「練習の間だけでいいから」

「ねっ」

「しょうがないな」

 下川先生、渋々クルマを移動させます。

 よっしゃ。どうにか練習場所を確保したわたしたち。

「ちょっと」

 と、そこにあらわれたのは、なんとアザミとユリエ。後ろにちっちゃい子が五人くっついてます。

 いきなり、

「ウチの入学したばっかの中一部員とダンス勝負しない?」

 ですと。

「え?」

「勝ったら、練習場所確保してあげるよ」

 挑発的に、こっち見てます。

「あ・・・」

 正直、どう答えていいか分からなかった。

「やってやろうじゃん」

 真っ先に前に出たのはカズラだった。けど、まだアーマー気分でいない?

「あやりん、乗った」

 まだ中三のアヤメが、ぴょんと前に出る。

 この子、カズラ・ファンになったかも。

「真剣勝負だよ」

 ちょと懐疑的に言うミズキ。

 わたしたちの中では踊りがうまいだけに、慎重なのかも。

 でも、

「やるっきゃないっしょ」

 少し口尖らせたスミレも前に出る。

「みんな・・・」

 そう簡単に負けるもんか。みんながそう思ってる。

 結成してまだひと月ちょっとだけど、みんなけっこやる気になってるじゃないか。

 あたしはなんだかうれしくなった。

 だって、リーダーですもの。

「ようし、受けた」

 胸を張って、大きく一歩、前に出た。

「じゃやってみようか」

 中一の子が、持ってきたラジカセをセットする。

「曲は?」

 アザミに聞くと、

「『学園のある町』」

 ですと。

「あたしたちの曲じゃん」

「振りは完コピしてあるから」

「はい、スタンバイッ」

 ユリエの一言で、五人の中一生がぴしっと並ぶ。

 その顔を見ながら、わたしたちも向き合って一列に並ぶ。

「いい、いくよっ」

 ユリエがラジカセをピッ。

 あたしたちの歌の、イントロが流れ出す。

 教わったとおりの振り付けで体動かし始めて、びっくりした。

 なんだこいつら。あたしたちの曲の、あたしたちの振り付けを、なんでそんなにピシッと踊れるわけ?

 それにひきかえあたしたち。

 体にアーマーの残像が残ってるんだかなんだか、なにしろ重い。だから、とろい。

 てれてれ見えてんだろな。

 あ、歌だ。


♪学園のある町には

 いつでも夢が駆け抜ける


 四小節で、あたしたちの歌が情けなくなった。

 だって、なんでこいつら、こんなキレイな声で、あたしたちの歌をぴしっと揃って歌うんだ?

 目の前でこんなにピシッとキレイに揃って歌われて、踊られたら。

 あたしも含めて五人全員、どぎまぎってゆうかなんてゆうか、どうにもぴりっとしなくなっちゃった。

「口惜しかったら、ちゃんと踊ったら」

 アザミがトゲのある声で言う。

「みんな、ちゃんとやろっ」

 むっとして声かけて、自分も気合い入れた。


♪駅からつづく長い坂道の~ぼ~り~

 振り向けばそこに

 ほら 輝く未来が広がっているぅ~


 ケド、実力差は歴然としてた。

 こりゃダメだ。

「止めっ」

 アザミがきぱっと言った。

「わざとなの?」

「は?」

「わざとへたっぴに踊ってるわけ?」

 怒ってるみたいな言い方しやがる。

「いや・・・」

 なんて答えていいか分かんないでいると、いつの間にか戻ってた下川先生が間に入った。

「これが実力」

 生徒に向かってへらへら笑うなよ、先生。

 はっと短く強いため息つくアザミ。

「やっぱこいつらじゃないっすよ」

 しゃがんでたユリエが、立ち上がりながら言う。

「だね」

 と、アザミ。

「じゃあれ、誰だったんだ」

「やっぱりウチの生徒じゃないんじゃ?」

「くさいと思ったんだけどな」

 言いながら、もう背中向けて去ってゆく。

 その言葉、ちゃんと耳に入ってたのに、さっきのわたしたちのことだとは気づかなかった。

 あたしも相当、ニワトリかも。

 でもって、また悔しい思いした。

 一年生もいなくなって、ぽつんと残されるわたしたち。

「勝負の判定は・・って、言うまでもないか」

 はいカズラ、そのとおりです。

 さらにそこに、あっちの方から声がする。

「下川先生、通路にクルマ置かないでください。所定の位置があるでしょ」

「あ、すいません」

 先生、慌ててクルマに走る。

 やれやれ、ここもやっぱダメか。

 仕方なく顔を見合わせるわたしたち。

 まぁ~た練習場探しからです。

 前途は多難。

 アイドルの道は険しい。


[つづく]

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アイドル騎士団・みるきぃクレヨン第1話 @Sohshing

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