第二十六話「すれ違う想い~グランデルフィンvsアンタレス~」


「見つけた……!」


 出撃した俺たちの目の前には、すでに敵部隊が展開されていた。中央にはアンタレス、そして左側には青緑色の機体が、右側にはボロボロのマントを羽織った紫と金色の機体。おそらくこの二機は機神だろう。

 青緑の機神の後ろには見覚えのある機体。ブラウェイバーだ。第三部隊の生き残りだろうか?

 紫金の機神の後ろには様々な機体が。ブラウェイバー、ヴォルケーだけでなく、他にも数種類の機体が存在している。しかも、その全てが両腕をだらんと下に垂らしながら浮いていた。とても奇妙な光景、というかむしろ近づきたくない怖さがあるね。不気味、と言えばそうなんだけど。


『来たね、レンスケ』


 飛ばされる限定周波個別通信プライベートチャンネル。ユーリちゃんだ。


「……ああ」

『勿論、僕と戦う覚悟は出来てるよね』

「その前に俺の話を聞いてほしい。……ユーリちゃんだってあの場にいたんだ。機神同士が殺しあった末になにが起きるかは、わかるよね」

『確か、魔神の復活だったよね』

「ああそうだ。魔神が復活してしまったら、世界は終わりだ。みんな、死んでしまうかもしれない。リクリエイトの目指す世界だって――」

『――黙れ』

「……え」

『いいからその口を閉じろレンスケ。……魔神が復活したら全て終わり? みんな死んでしまう? バカにしないでくれ。リクリエイトの目指す世界は、んだから』


 なんだって……? リクリエイトの目指す世界は、その先にある、だと?


「どういう、こと?」

『リクリエイトの目指す新世界……まあ、これは上の統合政府の人たちも知らないことなんだけどね。魔神に世界を一度その上から新しい世界を築くんだよ。そうすれば、今までの世界のしがらみとか、悪習とかも、何もかも関係ない……僕たちの理想郷が出来上がるんだ!』

「……ッ!」


 世界を一度、壊す? それじゃ、今この世界に住んでる人々は……!


「一体、なんのためにそんなこと……」

『なんのため? そんなもの決まってるよ。僕たちの叶えたい願いのためさ。その世界なら願いが叶うとあの人は言ってくれた。だから、僕はこうやって戦ってるんだよ!』

「そんな世界で叶えられる願いに、なんの意味があるって言うんだ……! 今の時代に生きる人々の命を犠牲にしてまで、叶えたい願いがあるっていうのか!?」

『……ああ、あるね。この世界に生きる人類全てを焼却してでも、叶えたい願いさ! それに言っただろ、僕たちはその願いのために戦ってるって! そのために、命を懸けてるんだよ! 相手が誰だろうが関係ない。犠牲になる人々が誰だろうが気にしない。僕は、僕の願いのためにレンスケ、君たちを倒す! 僕の願いを……あの人の進む道を邪魔する君たちは敵だ! 敵以外の何者でもない! さあ、もう僕たちに言葉は要らないだろう!? 僕と戦え、ヒザキ・レンスケ!』


 限定周波個別通信プライベートチャンネルが強制的に切られてしまう。何度も通信を送るが、全て拒否されてしまう。

 ……戦うしか、ないのか。


「向こうは、もうやる気みたいね」

「……戦いたくはないけど、仕方がない。とりあえずアンタレスの動きを止める! 話はそれからだ!」


 操縦桿トリガーを握る手に力が入る。やるぞ、グランデルフィン!


『全軍……!』

「戦闘開始だ!」


 戦いの火蓋が切られた! スラスターを噴射させ、一直線に突き進むグランデルフィン。グランキャリバーを取り出し、アンタレスに向かっていく。

 振り下ろした一撃は、アンタレスの左腕に阻まれてしまった。


『なんだい、随分やる気なんだね!』

「ああ、まずはユーリちゃんの……アンタレスの動きを止める!」

『君にできるかな、そんなことが!』

「やってやるさ!」


 何度も何度も、お互いの武器を擦り合わせていく。くそっ、一向に当たる気配が見えない!


『――レンスケ!』

『あなたの相手は私だ!』


 接近してくるリベリエル。それを遮ったのは、あの青緑の機神だった。


『邪魔よ!』

『悪いけど、ユーリの邪魔はさせない!』

『くっ……!』


 そのまま視界から消えていく二機。別の場所でも、機神同士が戦ってる……!

 そのすぐ後に通信が入る。アルタだ。


『オービタルクリーガー、コバルトグリーン、リベリオカスタム改、敵機神との戦闘に入ります!』


 残る一機の機神……あのボロボロマントの機神か! でも、アルタとレヴリオさん、それにザードさんもいるんだ。負ける気はしない!


「くれぐれも気をつけてくれ! ……死ぬなよ!」

『わかりました! ……そっちこそ!』


 通信が切れる。俺は改めてアンタレスを見据える。


『色々邪魔が入っちゃったけど、これでもう邪魔は入らないね!』


 しなる左腕がグランデルフィンを襲う! 俺はそれをグランキャリバーで弾き、アンタレスの懐へ飛び込む。まずは、その邪魔な左腕を切り落とす!


『させないよっ!』


 アンタレスの背部の六本足が蠢く! 一斉に伸びてくる鋭利な足。俺はそれをすんでのところで避ける。少しでも反応が遅れてたらやられていた……!


「グランバスター、フィーネブラスター!」


 左手をグランバスターへ換装、左翼上部からフィーネブラスターを展開し、アンタレスに向ける。


「シュート!」


 俺は狙いを定め、ビームを撃つ。しかしアンタレスに軽々と躱されてしまう! もしかして、あのときよりも機動性が上がってる!?


『ビームなら、こっちだって! 毒嵐撃テンペストポイズン!』


 左腕の先の針から放たれる拡散ビーム! グランキャリバーで機体に当たるビームを斬りつつ、こっちもビームを放っていく。しかし、その差は徐々に開いていき、一方的にビームを喰らってしまうグランデルフィン。衝撃が、コックピットを揺らす。


「ぐぅぅぅぅ!」

「……おそらく、アンタレスの”毒”ね」

「なにが!?」

「あの速さと、反射速度よ。アンタレスの毒には、一種の強化作用が施されていると見て間違いないわね」

「ああなるほど。つまり……今のユーリちゃんは身体機能が強化された人間、ってことか……」

「無理やり適性者アプティテュードにするんだから、妥当なところでしょうけど。これは、安易に銃撃戦を選んだあなたのミスね」

「それを言われると耳が痛いけど……なら、アクトⅡだ!」


 全身を翡翠色の粒子が覆っていく。そして、弾け飛ぶ翡翠色の粒子。瞬く間に換装を終えたグランデルフィン・アクトⅡ!


『来たね、アクトⅡ!』

「いっけぇ、グランデミサイル!」


 脚部のコンテナから大量のミサイルを吐き出す! その殆どは拡散ビームによって撃ち落されるも、残りの数個はアンタレスに直撃した!


『あぐっ』


 ミサイルを喰らい、アンタレスがよろめく。

 ビームの嵐が止んだ。今が接近するチャンス!


「いっけぇぇぇぇぇッ!」


 全身のスラスターを最大噴射。グランキャリバーを上段に構えて距離を詰める!


『ぐっ、させるかぁ!』


 アンタレスの左腕の針の先端が開いていき、中から剣の柄と思われるものが現れた。アンタレスは躊躇なくそれを掴み、引き抜く。すると、ところどころに刃が付いた鞭のような武器が引き抜かれた! ワイヤーだろうか、線で結ばれた刃が、どんどん柄に吸い込まれて、重なっていく。やがてそれは剣の形を作り出した。柄を取り出した左腕の先端はすぐに閉じたようだ。

 ……もしかしてあれは、蛇腹剣か!?

 俺が振り下ろした一撃はその蛇腹剣に受け止められてしまう。


「こんな武器が……!」

『アンタレスソードさ! まさかここで使う羽目になるとは思わなかったけどね……!』


 つばぜり合い。ギリギリ、とお互いの得物の悲鳴が上がる。


「お、押し負ける……!? アクトⅡが……」

『うあああああ!!!』


 バリィン! と刀身が砕けてしまうグランキャリバー! 刀身の脆さがここにきて……!


『レンスケ、君の命……もらった!』


 アンタレスソードの切っ先が、コックピットに伸びる。

 ……でも、このまま黙ってやられるわけにはいかない!

 あの力、ここで使わせてもらうぜ!


装甲解除アーマーパージッ、アクトⅢ!」

『……っ、装甲が、弾け飛んで……!?』


 アクトⅡの装甲ごと解除パージし、不可避だった一撃を回避する。

 アンタレスの背後へと回り込むグランデルフィン。ほどなくしてアンタレスはこっちを向いた。


『なんだ……あの姿は……!』


 ユーリちゃんはグランデルフィン・アクトⅢを見て動揺しているようだった。無理も無いよな、この形態になったのはユーリちゃんが撤退した後だから……。


「……ユーリちゃん、君を、止めるッ!」

『レンスケに……僕が止められるものかぁっ!』


 俺は再び柄にエネルギーを流し込み、グランキャリバーよりも刀身が短いグランエッジを作り出す。


『武器の形状まで!? でも、その程度!』


 アンタレスはアンタレスソードの刀身を伸ばし、鞭のようにしならせる。その切っ先がグランデルフィンの頬を掠めた。……ユーリちゃん、やっぱりこの前戦ったときよりも強くなってる……!


「でも、このアクトⅢなら!」


 スラスターを全力噴射させる。離れていた距離をあっという間に詰めるグランデルフィン。その速さに狼狽の声を上げるユーリちゃん。


『っ、速い!』

「はあああああッ!」


 アンタレスの肩に、グランエッジを掠らせる。どうやらユーリちゃんは、このスピードには対処しきれないみたいだ。

 なら……!


「今のうちに、動きを止める……!」


 目にも留まらぬ速さで、縦横無尽に空を駆けるグランデルフィン。攻撃を受け、徐々に装甲に傷が走っていくアンタレス。アクトⅢは大きなダメージを与えられないから、こうやってヒット&アウェイで攻めるしかない。


『……そうだね、確かに、その機体は速いよ。でもね――』

「なッ……!」

『――そう何度も攻撃されたら、流石に慣れちゃうよ!』


 完全に不意を付いた一撃。今まで通りなら確実に躱せなかった攻撃。

 ユーリちゃんはその一撃を、アンタレスソードで防いだ。

 ……慣れた、のか。この速さに。人狼ワーフェンリルですら追いつけなかったアクトⅢに……!


「アンタレスの毒、想像以上にヤバいわね……!」

「正直言って、ここまで行くと勝てるビジョンが見えないな……」

「アンタレス……使用者を毒で侵す代わりに絶大な力を与える機神ってわけね。ふざけた色合いしてなかなかやるわ」

「さて、このままだとどん詰まりだけど――」


 瞬間、アンタレスが爆発でよろめく。どうやら爆発は背部で起こったみたいだ。


『なんだ!? どこからの攻撃だ!?』


 周囲をキョロキョロと見回し始めるアンタレス。すると、再び攻撃が飛んでくる。あれは……ビームだ!


『っ、そこか!』


 アンタレスは迫るビームをアンタレスソードで斬り伏せ、ビームの発射地点と思われる場所に拡散ビームを放つ。

 地面で巻き起こる爆発。煙の中からソレは現れた。

 ……忘れもしない。いや、忘れるわけがない。忘れられるはずがない。

 晴れた煙の向こうにいたソレは……人狼ワーフェンリル。……もしかしたらいるかもしれないと思ってた。でも、あっち側も機神が出ている。人狼ワーフェンリルを出したら味方まで……。


『聞いてないよ僕は! アイツが出てくるなんて……!』


 焦ったようなユーリちゃんの声。ってことはホントに突然出てきたってことか。

 勝手に出撃……なわけないよな。確か人狼ワーフェンリルはAIで動いていたはずだ。勝手に動くとは思えない。なにか考えがあって出撃させたのか……?


「どうする? あの犬っころはどうやら私たち二機を相手取るつもりのようだけど」

「……ちょうどいい。ここはユーリちゃんと共闘しよう。グランデルフィン一機じゃ、アレには勝てない」


 ユーリちゃんに限定周波個別通信プライベートチャンネルを送る。


『……なんだい』

「共闘しよう。アレは俺たちが協力しないと勝てない代物だ」

『共闘、ね……っ!』


 しなる刀身。アンタレスソードが不意にグランデルフィンを襲う。


「な……ッ!」


 すんでのところをグランエッジで受け止める。


『共闘なんか、するはずないだろ。せっかく勝てるチャンスが生まれたんだから! どちらも相手にすればいいだけの話でしょ? 今の僕ならそれが……出来る!』

「ぐぅぅぅ!」


 弾き飛ばされそのまま後退する。出来る限り装甲を外してるから、重量もそこまでない。一撃の威力なら、あっちのほうが上か……!


『さあやろうよレンスケ。生き残りをかけたバトルロワイヤルを!』


 語る言葉はない、ってことかよ……!


「それで、どうするの?」

「どうするもなにも、やるしかないだろ。不利な状況だっていうのはわかってる。それでも、今はやらなきゃいけない時なんだ。サポートよろしく!」

「しょうがないわね……」


 改めて正面を向く。モニターの向こうには、アンタレスソードを構えるアンタレスと、異様なオーラを放つ人狼ワーフェンリルの姿。

 三つ巴の戦いになる。今のグランデルフィンは耐久性がないから、一撃でも貰えばおそらく終わり。かと言ってノーマル状態やアクトⅡでは勝ち目がない。結局、このままやるしかないわけだ。

 やれるよな、お前なら。


「――よし、行くぞ、グランデルフィン!」

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