第二十五話「そして総力戦へ……」
「罪希、右だ!」
『わかった!」
俺の命令に、罪希が応じる。気分はまるで指揮官だね。
さて、現在アズールアークは太平洋を渡りニホンへ戻っている最中だ。みんな総力戦に向けて日々を過ごしていた。
それで、今俺たちがなにをしているかというと……。
「レヴリオさん、左を押さえといてください!」
『任せとけって!』
そう、模擬戦……シミュレーションだ。
リクリエイトとの戦いに備えて俺、罪希、レヴリオさん、アルタの四人でチームを組み、仮想の敵と戦っている。まあ、訓練みたいなものだ。もうすぐニホンに到着するらしいからね。最終確認ってわけ。
今回の相手の編成は、ブラウウェイバー、ヴォルケーの混合小隊と、アンタレスだ。
「アルタ、アンタレスを押さえて!」
『わかりました! やってみます!』
オービタルクリーガーが盾を構えて突進していく。正面から向かってきたアンタレスの
『レンスケ! 左のやつらがアルの方に向かったぞ!』
「わかりました! 俺が応戦します!」
グランデルフインのスラスターを噴射させ、レヴリオさんの狙撃網から飛び出た相手に向かっていく。
近づき、カメラを拡大。ブラウェイバー三機が、ビームライフルを構えて向かってきていた。
「ここはグランバスターでッ!」
両手を収納し、砲身を出現させる。グランバスターを構えると、モニターに二つのサークルが表示された。そのサークルはそれぞれ一機ずつに定められていく。サークルの位置が固定され、その色が赤から緑へと変わる。ロックオン、完了! 狙うは、武器を持つ右手だ!
「シュート!」
引き金を引く。砲身から放たれたビームは見事にライフルを持つ腕を撃ち抜いた! そのまま爆散していく右腕。しかし、爆発する瞬間に胴体から切り離され、機体が誘爆することはなかった。さすがAI、そう簡単にはいかないか! でも――
「このまま攻め落とす!」
両手を換装、さらに右翼上部を開き、柄のみのグランキャリバーを射出する。それを握りエネルギーを流し込む。刀身を作り出し上段に構える。
「はぁぁぁぁッ!」
開いていた間合いを詰め、グランキャリバーを振り下ろす。高周波ブレードを取り出そうとした敵機の左腕を切り落とした。その機体の胴体を蹴り、横にいた機体に一閃。メインカメラを破壊する。そして、振り向き様に振り下ろし、残る左腕も切り落とした。うっし、これで二機!
後方でアラートが鳴る。ああ、わかってるって!
スラスターの向きを真下へ変更し、噴射させる。少し上昇したところでさらにスラスターの向きを変え、噴射。
その場で一回転し、敵機のブレードを躱す。敵の後方へ回り込んだ俺は、左手で敵機の後頭部をつかむ。そのままグランキャリバーを振り下ろし、両腕を切り落としていく。つかんでいた頭を離し、下へと蹴り飛ばした。よし、これで片が付いたかな。
『右、殲滅完了よ』
「わかった。罪希はアルタの援護に向かってくれ!」
『アンタレスのところね、わかったわ』
今回の訓練では、それぞれがリーダーをつとめて、同じ条件の戦闘を繰り返すというもの。俺以外の三人の番が終わって、今は俺の番ってわけだ
『アンタレス、変形します!』
アルタの通信。地上の方では、今まさにアンタレスが
「タレスサンダーと背部の六本足に気をつけて攻撃!」
『了解!』『了解です!』
『こっちも終わったぜ!』
レヴリオさんからの通信。レーダーを確認すると、敵影はアンタレス一機になっていた。ナイスタイミング!
『レヴリオさんは狙撃援護をお願いします!』
『あいさ!』
俺はスラスターの向きを変え、アンタレスに接近していく。二人が押さえつけてくれているからか、アンタレスは地上に張りついたままだ。
「俺は空からッ!」
グランキャリバーを構えて、突きのモーションに入る。
「スラスターッ、全開でッ!」
三人が逃げられないようにアンタレスを押さえてる……この一撃で決めるッ!
「うぉぉぉッ!」
アンタレスの真後ろから、一気に腕をつき出す。グランキャリバーの切っ先が、アンタレスのコックピットを捉え――
「……ッ」
その切っ先はわずかに逸れ、コックピットの真横に深々と突き刺さった。バチバチとアンタレスから火花が上がる。
<battle ended>
モニターに表示されたのは模擬戦が終了したことを告げる文字。徐々に暗転していくモニター。俺は、シートに座り込んだ。
……いくら仮想の敵とは言え、アンタレスを……ユーリちゃんを倒すなんて、できない。いくらコックピットを狙っても、わずかにずれてしまう。いや、意識的に避けてしまう。こんなんじゃ駄目って、わかってはいるんだけど。
きっとユーリちゃんは、最前線で俺たちと戦うだろう。
そのとき俺は、ユーリちゃんと戦うことができるのか……?
『レンスケおつかれ。……って、どうしたの?』
開かれる通信。モニターの端に顔が表示される。罪希だ。
ここで余計なことを言って士気を下げる必要もないだろう。
「……なんでもないよ」
『嘘だね』
間髪入れずに罪希が言う。
『流石にわかりやすいわ。レンスケが気になってるのって、ユーリのことでしょ?』
いつになく、罪希が鋭い。さすがに、隠しきれないか……。
俺は首を縦に振り肯定した。
「次に相対したとき、俺はユーリちゃんと戦えるのか……それを考えてたんだ」
『辛いなら、変わってもいいよ』
罪希からの甘い誘惑。たしかにユーリちゃんの相手を罪希に任せれば、きっとこんなに悩む必要もないのだろう。
でも、それじゃダメなんだ。
ちゃんと俺が戦って、彼を説得しないと。俺たちが戦う理由なんてありはしないんだ。
……なんだ。
もう、答えは出てるじゃないか。
「大丈夫だ、罪希……ユーリちゃんとは、俺が戦うよ」
『戦えるの?』
「戦うさ。……でも、倒すことが目的じゃない。機神同士で争うなんていうバカなことは、もう止めさせないといけないから」
『強敵だよ、あの子は』
「わかってる。わかった上で言う。俺とユーリちゃんだけで戦わせてくれ」
無理は承知だ。きっと、罪希は了承してくれないだろうな……。
『いいよ』
「わかってたさ、ダメだって言われることくら――え?」
『良いって言ってんの。露払いは、私たちに任せな』
「い、いいの?」
『拒否する理由はどこにもないし……話し合えるなら、その方が良いしね』
罪希が、屈託のない笑顔を浮かべる。その顔はとても眩しくて……頼もしかった。
以前の罪希なら問答無用で倒そうとしてたはずだ。なんだか、罪希も少し変わったかな?
『全乗組員に通達。本艦はこれよりニホンへ上陸します。いつ、どこで戦闘が起きてもいいようにパイロットは搭乗機にて待機。他のみなさんも、準備は怠らないように……みなさん、絶対に勝ちましょう!』
ラーミナ艦長の放送。コックピットの外から歓声が聞こえる。
そうか、もう着いたのか。
なら、俺らのやることは一つだけだ。
「勝とうぜ、罪希」
『当たり前よ、レンスケ』
ユーリちゃん、それに、残りの二人の
それでも、俺たちは勝たなきゃ。そして、俺が囚われていた理由を聞き出す。
決戦の時は、近い――
『そのことなんですが、一ついいですか』
回線から聞こえてきたのはラグナさんの声。少し暗いようにも思える。もしかして、なにかあったんだろうか?
『……どうしたんですか、ラグナさん』
罪希が、訊く。
ラグナさんは、慎重に、その重く閉ざされた口を開いた。
『みなさん、落ち着いて聞いてください』
ラグナさんは一呼吸置いて、その言葉を放った。
『――援軍は、来ません』
「……………………………え?」
ラグナさんの放った言葉。先ほどまで歓声を上げていたみんなも、一様に黙り込んでしまった。それほどまでに、衝撃的だった。
「それってどういうことですか……援軍が来ないって!」
俺は思わず叫んでしまう。そんな、一体なんで……? 俺たち、騙されたって言うのか……?
ラグナさんは続ける。
『なんでも、リクリエイトの第二部隊に阻まれているとか。隊長機……機神の姿はないそうですけど』
『なるほどな、第二部隊の隊長だけニホンに寄越して、他は足止めに行ったってわけだ。あちらさんも考えたな』
そう言うレヴリオさん。つまり、どういうこと?
『どういうこと?』
同じ疑問を抱いていたのか、罪希が訊く。
『簡単な話だ。今アズールアークにある戦力は、もうあちらさんは知っているだろう? なら、それを倒せるだけの戦力をニホンに残して、それ以外を俺たちの援軍に当てれば……』
「俺たちを倒せる、と」
なるほどな、そう言うことかよ。たしかにそうすれば、リクリエイトは俺たちのことを数で押せるってわけだ。機神の数もどっこいどっこいだからな。
『第四部隊、第三部隊の面子はそのまま残ってるってか……こいつぁ、分の悪い戦いだぜ』
ザードさんの言う通りだ。第三部隊の隊長は前に罪希が倒してるけど、一般兵の数はとんでもない量だった。あれが丸々残ってるというと、厄介だ。
だからって、このまま諦めるなんてできない……! もう、リクリエイトは目と鼻の先なんだ!
「ここまで来たんです。このまま引き返すなんてできない」
『そうね。ようは、勝てばいいのよ』
そう言ってのける罪希。俺は思わず笑ってしまう。
ああ、そうだ。罪希の言う通り、負けなければいいだけだ。
元々負けられない戦いなんだ、今さら怖じ気づくわけにはいかねぇよな……!
「そうだな……勝とう、みんな。勝てば、ニホンを取り戻せるんだから」
『へへっ、腕が鳴るってもんだぜ。俺も、リベリオカスタム改で出るぜ』
なんだって、ザードさんも出撃!? これは頼もしいね!
『私たちのブラウェイバーもカスタムされている。レンスケ殿や罪希殿は機神の相手があるだろう。周囲の敵は私たちに任せてもらおう』
マルクさんからの頼もしい言葉。こいつは負ける気がしないね!
確かに俺たちの方が数は少ない。それでも、個々の能力は上だ。
つまりは俺たちが機神を倒せるか。それにかかっているってわけだ。
『私がこんなことを言うのもおかしいのかもしれませんが、お願いします。この戦いに勝って、ニホンを取り戻しましょう!そして、絶対に生きて帰ってきてください!』
『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッッッ!』
ラーミナ艦長の言葉に、歓声で応える。みんなの熱気で、コックピットが震える。士気は上々、整備も完璧、訓練も怠らなかった……やるべきことは、全てやった!
『まもなく、会敵します。パイロットのみなさんは、搭乗機にて待機をお願いします』
ラグナさんのアナウンス。さて、俺も準備しますか……。
「『俺、この戦いが終わったらあいつにプロポーズするんだ』」
「……フィーネ、それ死亡フラグだぞ」
「わかってて言ってるのよ」
ハッチを開けてコックピットに入ってきたのは、翡翠色を靡かせる少女。久々に登場のフィーネさんだ。
「最近空気過ぎないかしら、私」
「そりゃ、居住ブロックでお菓子ばっか食べてたら出番も来ないだろうよ」
「それもそうね」
そう言いながら後部座席に座るフィーネ。
「久々の戦闘だけど……いけるのか?」
「あら、心配してくれてるの?」
「足を引っ張られたら嫌だから」
「素直じゃないわね」
やれやれと息を吐くフィーネ。久しぶりだって言うのに、こうも息が合うかね。
『会敵までおよそ三分! パイロットの方々は出撃をお願いします!』
よしきた!
俺はグランデルフィンを動かし、カタパルトデッキへ急ぐ。
『ハッチ開放。射出システムのエンゲージを確認。カタパルト接続。射出推力正常。……進路クリア。発進のタイミングをヒザキ・レンスケに譲渡します』
「了解です! ヒザキ・レンスケ、フィーネ。……グランデルフィン、
身体にかかるGが、より一層俺の気持ちを引き締める。何度も体験したはずなのに、この感覚にはいまだになれない。
やがてGが少なくなり、一種の浮遊感を感じる。
グランデルフィンが、ニホンの空に帰ってきた!
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