第十八話「再来する悪夢」
『くらえ、
アンタレスの左腕の尾の先端から放たれるビームの嵐。間違いない、拡散するビームだ!
『任せて!』
リベリエルがグランデルフィンの前に躍り出る。既にABSOLUTEシステムは展開済みだ。
眼前で拡散するビーム! リベリエルはそのビームを
「この時間、無駄にはしない! バスター、スピアー、フィーネブラスター!」
両腕をバスターに換装。左翼上部から巨大な砲身を出現させる。
完全にアポカリプス・スマッシャーを撃つ態勢だけど……アレは使わない。
「罪希、どいて!」
『わかった!』
罪希を後ろに下げ、グランデルフィンが前に出る。
「ビームのシャワーを浴びせるッ!」
出力を絞り、アンタレスの拡散ビームに対抗するようにビームを撃ちだしていく。一本一本のビームの出力は、こっちの方が上だッ!
『ちっ』
アンタレスは逃げるようにして上空へと昇っていく。
俺はバスターとフィーネブラスターを収納し、グランキャリバーを取り出す。
……逃がさないぜ!
「うぉぉぉぉぉッ!」
アンタレスの左腕の尾針とグランキャリバーが擦れ合う。ギリギリと金属特有の痛い音が耳に響く。
単純なる押し合い。パワーの強い方が勝つ。
『全く……そんなもので!』
不意に、アンタレスの背部の六本の足が蠢きだす。その先端の全てがグランデルフィンを捉える。まさか……!
俺はアンタレスから離れる。すると、同タイミングで六本の足から放たれるビーム! やっぱりか!
すんでのところで回避するも、左腕の装甲が削られてしまう。アクトⅡじゃなかったら吹き飛んでいたかもしれない……!
『まだまだいくよ! 特別製のこいつを喰らって!』
アンタレスの左腕が伸びる。態勢を崩したグランデルフィンの左腕の装甲に尾針が刺さる。
『ほぅら、ビリビリってさぁっ!』
バチッ、と火花が散る。アンタレスの尾を通じてグランデルフィンに電流が流れ込む!
「がああああああああああッ!?」
「ぐッ……やってくれるじゃないの……!」
突如俺たちを襲う電撃。痛ぇ……まるで、全身が炎に焼かれるようだ……!
見れば、フィーネもダメージを食らっている。当たり前か……!
『ハハハ! タレスサンダーの威力はどうだい!? ビリビリ来るでしょ!?』
さらに出力が上がる。
「がああああああああああああああああッ!!!!!!」
『レンスケを離せッ!』
リベリエルの
その鋭い一撃一撃を、背中の六本足で弾いていくアンタレス! なんて繊細な動きなんだ……リベリエルの攻撃が一度も当たらない!
『罪希ちゃん、いくぜ!』
後方からコバルトグリーンの狙撃。その一撃もやはり背部の六本足に防がれた。
そこへリベリエルの追撃。次第に追い込まれていくアンタレス。
『厄介な……!』
なんとか解放されるグランデルフィン。
そのままグランデルフィンは地面に降り立ち、膝を付く。
「――ッハァッ、ハァッ、ハァッ……」
「やってくれたわね、あの子……だから言ったのよ」
「なんのことだか、さっぱり、だけど……このまま、負けっぱなしじゃ、終われない……!」
肺が空気を求める。肩で息をしつつ、上空のアンタレスを見上げる。
『ちっ、厄介だ……』
レヴリオさんと罪希に連携は凄まじいものだった。コバルトグリーンの狙撃がユーリちゃんの計算を崩し、リベリエルの
浮上しようとしたところで、ザードさんから通信が。見れば、味方全員に送っている通信のようだ。
『周囲の機体は倒しといたぜ』
「ありがとうございます、ザードさん」
『うし、戻るぞ、お前ら!』
『は――』
爆発。途切れる通信。味方の生存を表すモニターに表示されたのは、『LOST』の文字。
……なにが、起きた?
『お前ら、散開しろ! どっからか狙われてる!』
レヴリオさんが言う。気をつけろったって、どこから狙われてるっていうんだ!?
瞬く間に数人の命を奪った一撃を、俺たちは警戒する。
『アハハ! ようやく来たのかい……待ちくたびれたよ』
「なんのことだ?」
『ここに来る前に、僕は本部の方に応援を要請していてね。とびきりのやつを連れてきてもらったのさ』
瞬間、木々が吹き飛ばされた。森を裂き、こちらへ近づいてくる人型の機体。
俺たちには、見覚えがあった。
『嘘、でしょ……?』
『……見間違えるわけがねぇ。姿や形は変わってるが、あれから漂う嫌な気配は、忘れようがねぇ……!』
「――
レヴリオさんの言う通り、姿や形は違う。しかし、全身の至るところのパーツが酷似していた。あの巨大な
『そうとも、
ユーリちゃんがその名を呼ぶ。呼応するかのように
……間違えるものかよ。この威圧感、フェンリルのそれと同等か、それ以上だ!
『こいつは扱いにくかった壱号機の改良型らしくてね。大きさもそうだけど、こいつは無人で動くんだよ』
「なっ、無人だって!?」
『そうだよ。視界に映る機神を倒すよう――』
衝撃音。巻き起こる煙。なんだ、何が起きた!?
煙が晴れるとそこには、地面に横たわるアンタレスと腕を振り下ろした状態で静止する
『そういえば、僕も機神に乗っていたか……』
『――ロス』
ユーリちゃんの声に続いて、妙なノイズが混じる。
『――キシンヲ、コロス』
違う! これはノイズなんかじゃない! あの機体から発せられた音声だ!
『コロスッッッッ!』
再びの咆哮。脳を直接揺さぶられるような錯覚を覚える。それほどまで、世界が震えていた。思わず一歩後ずさってしまう
『みんな、逃げてっ!』
罪希全員に回線を開き、言う。
俺はグランデルフィンの操縦桿を握り直していた。
やるしかない。相手がフェンリル同等以上なら、生半可なことは出来ない……俺が、俺たちがやらなきゃ!
『こんな不良品を押し付けてくるなんて……仕方ないけど、ここは退くしかないか……』
「ユーリちゃん!」
『ここで君たちと心中なんてごめんなんでね。僕は戻らせてもらうよ!』
アンタレスは
『……悪夢、再来ってか』
『再来程度ですめばいいけどね』
「でも、やらなきゃ。俺たちが!」
『……そうね』
『ああ、やってやろうぜ』
俺たちはそれぞれの得物を構える。
そう、やらなきゃいけないんだ。負けるわけにはいかない。
俺たちの後ろには帰る場所が……家があるんだ。やらせるわけにはいかない!
そうさ、もう二度と……仲間を殺させやしない!
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