第十三話後編「アズールアーク」

 避難していた住民たちは、すぐにアズールアークの居住ブロックへと移っていった。戸惑う人も多かったが、快適な艦内ではしゃぐ子供たちを見て、その表情は笑顔に変わっていく。みんな幸せそうな……怯えのない表情になった。

 ガイさんたち戦闘員は、アズールアークの格納庫ハンガー内に機体を収納している。俺や罪希も機神を格納庫ハンガーに置いてきた。

 リベリオを独学で造り出したザードさんは、アズールアークのメカニックから質問攻めにあっている。困り果てた顔をしていたけど、どこか楽しそうに語っていた。

 俺とフィーネ、罪希はというとレヴリオさんのあとをついていき、艦橋ブリッジへと向かっている最中だ。なんでも、艦長さんに会わせたいという。こっちとしても挨拶がしたかったし、ちょうどよかった。


「まぁ、この艦についてもいろいろ話してもらうさ。っと、着いたぜ」


 レヴリオさんが扉の前に立つと、自動で扉が開いた。

 中に入るレヴリオさん。俺たちも続く。


「あら、レヴリオ? もうこっちに来たの?」

「ああ。まずは艦長にご挨拶、ってね」

「ということは……この方が?」

「ええ。アズールアークの艦長をやらせてもらってる、ラーミナ・ヘルシュタインよ。ラーミナって呼んでね。あなたのことはレヴリオから聞いているわ。よろしくね、レンスケ君」

「わかりました。よろしくお願いします、ラーミナ艦長」


 ラーミナ艦長は長い茶髪をポニーテールにまとめていた。スタイルもそこそこ良い。年齢は目測だけど、二十代前半だと思われる。レヴリオさんもそうだけど、この艦にいる人たちは総じて年齢が低いみたいだ。


「失礼します。私はリベリエルのパイロット、或羽罪希あるばつみきです」

「あの言うこと聞かないじゃじゃ馬を手懐けたっていう……こちらこそよろしくね」

「私はフィーネよ。よろしく、ラーミナ艦長」

「よろしくね、フィーネちゃん」

「……ちゃん、ね……」


 なぜかフィーネがへこんでいた。ちゃん付けされたのがそんなに嫌だったのかな?

 自己紹介も終え、俺は改めて艦橋ブリッジを見回す。

 中央から側面に向けて伸びるモニターには、周囲の様子が映されていた。前方にはこの艦を動かす操舵桿が存在し、左右にはそれぞれオペレーターが三人ずつ座っていた。そこには何が書いてあるかわからない数値計や、周囲の敵味方を識別するレーダーなど、様々なものがついている。見ているだけで目が痛くなりそうだな……。


「今は操舵士が外してて……あとで紹介するわね」

「わかりました」

「……実はね、この艦の人員ってそんなに多くないの。ざっと数えても、二十人くらい」

「それは、大変ですね」

「だから、今回はとても嬉しいの。共に戦ってくださる方々が増えて」

「この艦のBGブレイヴグラスパーだって、俺のコバルトグリーンと他んとこ出張してる機神の二体だしな」

「アルジェンターにも、機神が……」

「遺跡調査の時にな。うちのやつが一人選ばれたんだよ」

「でも、一人で出張してるなんてすごいですね」

「いや、あいつは人見知りっていうか……なよなよしてるっていうか……なんで機神に選ばれたんだ? ってやつでよ」

「もう、あの子のことを悪く言うのはよしてください。あれでも立派な適性者アプティテュードなんですよ?」


 ラーミナ艦長、その言い方だとあまり変わりない気がするんですけど……。


「ま、そいつについてはおいおいな」


 同じ機神の適性者……会ってはみたいな。話を聞く限り不安しかないけどね。仲良くしたいとは思うよ。だって……仲間、だし。


「あれ? みなさんお揃いで」


 背後から声。扉の開く音と共に艦橋ブリッジに入ってきたのは、二十代前半と思われる黒髪を短くまとめた男性だった。


「丁度いいので紹介しますね。こちら、操舵担当のラグナ・ノーシスです」

「自分のことはラグナと呼んでください。……あ、艦長、そろそろ」

「準備が終わったのね。では発進しましょうか」


 ラグナさんは俺たちに会釈をすると、シートに座り操舵桿を握る。

 ラーミナ艦長は正面へと振り返り、モニターを見据えて言い放った。


「総員に通達。これよりアズールアークは元アメリア国土、現東占領区へと向かいます。各員衝撃に備えてください」


 グワン、と揺れる艦橋ブリッジ内。どうやら、アズールアークが地面から浮いたようだ。


「――アズールアーク、発進します! 前進微速!」


 方舟が今、希望を乗せて飛び立つ!

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