第十二話「真実の断片」
「アヒャヒャヒャ! いくら
ノワールの嘲笑。聞けば聞くほど嫌悪感をもたらすその声に、俺は思わず反応してしまう。
「勝てるさッ! そのための道を、クロムが作ってくれたッ!」
「道を作った……? 笑わせないでくれ! 彼は無駄死にだったんだよ! 君の目の前で! 使えない君をかばってね!」
「あんたってやつは……!」
俺の中を表しようのない熱が駆け巡っていく。軽い挑発。それがわかっていてもなお、心は前に進もうとする。あいつを許せないと。あいつを……殺したいと。
背後から手が伸びて、俺の頬を包む。冷たく、柔らかい手。熱された俺の身体を冷やしてくれる。熱と殺意が、自然と引いていった。
「私が、ついてるわ」
「……ありがとう。心を熱く思考をクールに、だね」
「その意気よ」
フィーネのおかげで頭も冴えた。こっからは俺たちのターンだ!
「グランスピアーッ!」
俺は両腕を天狼に向け、ビームを撃ち放つ。が、その素早い動きで躱されてしまう。やっぱ速いか!
「君は学習しないねェ!」
「それは、どうかな!」
「なにを――がッ!?」
天狼が避けた先には既に罪希が回り込んでいた。その巨体に
「この、羽虫がァァァッ!」
「覚えておくことね。羽虫は羽虫でも、その羽は鋼鉄をも切り裂く羽なのよ!」
リベリエルの前腕部の装甲が開き、中から片刃の刀身が現れる。その刀身が手の甲の方へ倒れると、装甲が閉まり刀身が固定された。
「展開、リジール・アシュカロン!」
瞬間、リベリエルが消えた。いや、消えたわけじゃない。あまりに速すぎて見えなかったんだ!
リベリエルは銀色の残像を空中に残しながら、天狼のフレームに刃を突き立てていく。残像が残るほどの速さってどんだけ速いんだよ! さすが、
「こんなことが……あっていいはずは……ッ!」
天狼の攻撃はことごとく残像をかすめていく。リベリエルは
このまま見てるだけってわけにもいかない。罪希が押さえつけてくれている今なら、俺の攻撃が通るか……情けない話だけどね!
「いっけぇッ! グランデミサイル!」
両脚部のミサイルポッドが開き、白い軌跡を残しながら天狼へと向かっていくミサイル。その数はおよそ二十。それぞれがバラバラな軌道をとって天狼に向かっていく。
「小賢しい真似を……ッ!」
ギリギリまで空中に縫いとめられた天狼に、これを躱すことは出来ない。その全身にミサイルが吸い込まれていった。爆発と煙が大空を満たす。
「続くッ! グランスピアーッ!」
腕を前に突き出し、砲撃。爆発音が鼓膜に響く。どうやら、照準は正確だったらしい。
煙から這い出るようにして後退する天狼。
「
天狼がその口を開き、砲身を露出させる。あいつまさか……三発目のハウリングブレイカーを撃つ気か!? 今から追っても追いつけるかどうか……あんなもんを地上に向けて撃たれたら地下の遺跡まで被害が出てもおかしくない!
急いで後を追おうとする俺の真横を、銀閃が駆け抜けていく!
「これで全部吹き飛ばす! 僕の敵は全て……」
「させないッ! リジール・アシュカロン、A-Link!」
リジール・アシュカロンの刀身が、淡く銀色に輝く。まるで、その刀身に薄い膜を張ったかのような感じだ。
「それを……撃たせるものか!」
リベリエルはその開いた間合いを一瞬で詰める。残像は一直線に伸びていき、その刀身が天狼を捉えた。
まるで切れ味の良い包丁で豆腐を切るかのように、その
「ぐぅッ……!」
内部からの爆発には流石の天狼もダメージを受けたようだ。フレームがひしゃげて頭部はボロボロになっていた。あれなら、確実に攻撃が通る!
「レンスケ!」
「――ああ! グランキャリバーッ!」
右翼上部が開き、柄を射出する。それを握り、柄にエネルギーを送り込む。鍔が横に開き、エネルギーが一本の剣と化し出現した。
「
「覚悟しろ、ノワールッ!」
「――ッ!」
翼を展開し、出力を最大まで上げる。
俺はフラフラとよろめく天狼に肉薄していく。
グランキャリバーを上段に構え、エネルギーを収束させる。その刀身には亀裂が走った。
……もっとだ、グランデルフィン。お前の力は、まだまだこんなものじゃないはずだ! 限界なんか超えてやれ! 俺の想いに、応えやがれぇぇぇぇぇ!
グランキャリバーの刀身が砕け、膨大なエネルギーの塊が噴き出す! その形はどんどん大きくなっていき、巨大な剣を形作った!
「まさか、この機神……グランデルフィンなのか……!? 研究所から逃げ出したとは聞いていたがまさか――」
「うおおおおおおおおおおおおおおッ!」
「そうか、
「ニィィィィィィィィィィベルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥングッ!」
「そうとも! グランデルフィンの役目は、僕の
ノワールの言葉を遮り、俺は天狼にその巨剣を振り下ろす。膨大なエネルギーの塊が天狼を押し潰していく。
圧倒的な質量に、その形状を保っていられない天狼。その姿がかき消えていく。
今までで一際大きな爆発が起こる。それは、天狼の終わり……ノワールの最期を意味していた。
ニーベルングの一撃は、その地形すらも変化させた。直線状に抉られた大地が、その威力の強さを物語っていた。
「終わった……のか?」
「反応、消失。生体反応無し。……勝ったわよ」
「は、はは……なんとか、生き残ったか……」
俺は脱力し、座席の背にもたれかかる。ほどよい疲労と眠気。だんだんと瞼が下がってくる。安心したら、眠くなってきた……。
グランデルフィンの周囲を翡翠の粒子が包む。役目は終わったと言わんばかりに、強化外装『H.H.H.』が粒子となり、消えていく。
「ちょっと……休もうかな……」
抗えない衝動に身を任せ、瞼を閉じる。
――クロム。俺たち、やったよ……見てくれたか? 仇は、とったぜ……。
そのまま俺は、深い眠りに落ちていった。
「……
蓮介が眠りにつき、コックピットに一人になったフィーネが呟く。静かにパネルを操作し、グランデルフィンの状態を確認している。
色々な項目がある中でフィーネがピックアップしたのは、『Deus Ex Machina All Delete Project』の文字列。
「グランデルフィンの役目……あいつはそこまで気づいてしまったようね。ここで消えてもらって、正解だったわ」
そう言うフィーネの顔には、笑みが浮かんでいた。
きわめて邪悪で、恐ろしいほどの笑みが。
そしてその笑みは、やがて恍惚とした表情へと変わっていく。視線は、蓮介に向けられていた。
「この子が気づくのはもう少し後でいいの。今はまだ、がむしゃらに頑張ってくれればいいのよ」
フィーネはすやすやと寝息を立てる蓮介の頭を撫でる。フィーネの表情は、穏やかな微笑みに変わっていた。
「まさか、自力でアクトⅡを解放するなんて……見込んだ以上の逸材ね」
そのまま蓮介の頬にその手が伸びる。フィーネは真剣な眼差しで蓮介を見据える。今のフィーネには、一人で何役もの人物を演じているかのような、そんな不気味さがあった。
「真実はね、時に想像以上に残酷なもの……あなたは、耐えられるかしら……?」
フィーネは蓮介を自分の胸に抱き寄せる。
「今は休んで……そして、強くなって。それが、今の私の『願い』よ……」
その額にキスをするフィーネ。願いは呪いとなって、蓮介を蝕んでいく。
フィーネは蓮介の頭を撫で続ける。自らの言霊を、呪いを、少年に染み込ませるように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます