第九話前編「急襲」

 あれから数日。一向に動く気配をみせない名無しの機神。未だにコックピットすら開かないという。さしものレヴリオさんもこれにはバンザイだ。外からわかる情報は限られてるし。

 俺はというと……完全に手持ち無沙汰になってしまった。なにもやることがない。この数日間、食事と散歩と睡眠以外何もやっていない気がする。


「暇だなぁ……」


 グランデルフィンは整備の必要も無いし……かと言って俺が機体を整備できるかと聞かれればそういうわけでもない。俺に出来ることって少ないな……。

 何気なしにグランデルフィンのある第三格納庫へ向かうと、そこにはフィーネの姿があった。丁度いい。この際だ、色々話を聞いておこう。


「おーい、フィーネ!」

「……蓮介。一体、暇人が何の用かしら?」


 最初から手厳しいね、おい。っていうかお前も似たようなものじゃないか。


「いや、暇だしいい機会かと思って……そろそろ教えてくれないか。フィーネが何者なのか」

「言ったはずよ。私はグランデルフィンの自立思考型パイロットインターフェースだって」

「そういうことじゃない。俺はまだ、グランデルフィンについて、機神についてほとんど知らないようなもんだ。後で教えるって言ったくせに、全然教えてくれないんだから」

「……わかったわ。グランデルフィンに乗りましょう」

「一体どうして?」

「人に聞かれたら困るでしょう? 特に、レヴリオと罪希には」

「ああ、なるほど」


 フィーネがそういうならそうしよう。話を聞くのは俺なんだし。

 早速グランデルフィンのコックピットへ移動する俺たち。


「それで、何を聞きたいのかしら?」


 いつもとは逆位置。俺がコックピットの後部座席に座り、前にフィーネが座っている。


「フィーネは、グランデルフィンの自立思考型パイロットインターフェースだと、そう言ったな」

「ええ」

「じゃあなんで、他の機神にはみたいな存在はいないんだ?」


 この疑問が生まれたのは、ちょうど名無しの機神を見たあと。もしフィーネのような存在がいるなら、なにかしらのアクションがあってもおかしくはないはず。

 クロムの乗るディスペインもそうだ。あの機体の大きさからして、複座式ということはまずないだろう。

 他の機神と比べても、グランデルフィンはどこか違う。


「……仕方ないわね。教えられるところだけ、蓮介に教えるわ」

「頼む」

「グランデルフィンにはね、他の機神にはない特別な役割があるのよ」

「その役割って?」

「それはまだ言えないわ」


 俺は思わずその場でこけてしまった。なんだよそれ! 教えられるとこ少なッ! なんかすごいもやもやするんだけど。

 ……とりあえず、フィーネはその役割を担っているっていう認識でいいのかな。そしてそれは、グランデルフィンの適性者アプティテュードたる俺もってことか。


「他には?」

「それくらいね」

「マジかよ」


 俺は思わず頭を抱えた。わかったことよりも謎の方が増えている。余計に頭がこんがらがるんですけど……。そして暇つぶしにもならない。


「まあ、時が来れば話すわ」

「その時はいつ来るんですかねぇ……」


 はあ、とため息を吐く。そこへ、通信が入る。ガイさんの機体コードだ。

 俺はフィーネと位置を交換し、通信を繋げる。ウィンドウに表示されたのは、汗だくの表情で息を切らしているガイさんの姿。


「レンスケ、すぐに発進の準備をしてくれッ!」

「どうしたんですかガイさん?」


 ガイさんの口から語られた言葉は、想像を超えるものだった。


「――クロム・デュークの部隊がやって来た!」


 暇と平和が、消え去った。

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