第六話「紫黒の機神」
「よーしお前ら、準備はいいか!」
『応!!!』
灰色を基調とした戦闘服に身を包んだ男たちが、何列かに分かれて並ぶ。まさに壮観、といった感じだ。その中にはガイさんの姿も見える。
「いい返事だ。じゃあ、作戦を説明する」
ザードさんが一歩下がり、罪希が前に出た。
「目的地は、リクリエイト駐留街に指定されているウーンデキム。現在は、リクリエイトの第一部隊が駐留している。そこへまず、私とレンスケが空から奇襲。そのあと、地上部隊で突撃。集団での撃破を狙う。もしクロム・デュークが出てきた場合には、私とレンスケで対処する。勝手に戦おうとしないでほしい。なにか質問は?」
誰も手を挙げることはなかった。俺も、今の説明でやるべき事はわかったしな。
ただ、ウーンデキムっていう街がどこにあるかわからない。あの施設でないことはわかるけどね。ま、罪希について行けば迷うことはないだろう。
「聞いての通りだ。おめぇら、機体の整備急げよ!」
『応!』
散っていく男たち。格納庫に向かうようだ。
さて、俺も行きますか。と、歩きだそうとしたところでザードさんに呼び止められる。
「レンスケたちには準備が整い次第出発してもらいたい。大丈夫か?」
「俺は大丈夫です。罪希は?」
「大丈夫」
「じゃあよろしく頼むぜ!」
それだけ言うとザードさんは自分の機体の下へ向かった。
昨日聞いた話になるけど、ザードさんたちが使うブレイヴグラスパーはリベリオ。罪希のカスタム機とは違い、地上戦用に造られているようだ。特徴的なのは脚部に搭載されている『ダートローラー』。あれで地面を滑るように走るという。
「じゃあ私も機体のところへ行ってくる」
「そうだな。俺も行かなきゃ」
罪希と別れ、グランデルフィンが置かれているという第三格納庫目指す。
それにしても、流石は
しばらく進むと、格納庫の前で立っているフィーネが見えた。ってことはあそこが第三格納庫みたいだな。
「なあフィーネ。みんな整備とかしてるみたいだけど……グランデルフィンは整備とかしなくていいの?」
「ええ、問題ないわ。グランデルフィンの外部装甲は超小型ナノマシンによって再生されるし、フレームもそんじょそこらのブレイヴグラスパーと違って柔なものじゃないわ。生半可な戦闘で壊れる心配はないのよ」
よくわからないけど、とても凄いということはわかった。暗に、他人に触れられたくないという思いも感じてしまうけど。
まあ、整備の手間がないのはいいことだ。すぐにでも戦える。そんな連戦になる状況には陥りたくないけど。
フィーネは続ける。
「でも気をつけておいてほしいのは、ナノマシンはただで装甲を再生させるわけじゃないってこと。それだけは覚えておいて」
「つまり、あんま無茶するな、ってことだな」
「簡単に言えばそういうことよ」
俺とフィーネは階段を上り、グランデルフィンのコックピットまで歩く。コックピットへ乗り込み、罪希に通信を送る。
「そっちはどうだ?」
「そんなに損傷していなかったみたいですぐにでも終わりそう。そっちは?」
「同じようなもんだ」
「じゃあ整備が終わったら連絡する」
「了解だ」
さて、初めての本格的な作戦だ。派手に暴れてやるとしますか!
俺は
「グランデルフィン、起動!」
あれから罪希の機体の整備が終わり、今はウーンデキムに向かっている最中。
この地域は自然が多く残っているらしく、眼下には木々が生い茂る森が見える。奇襲って話だったが、堂々と空を飛んでる気がするのは気のせいだろうか。もしかしたら、結構ガバガバな作戦なのかもしれない。
「気をつけろ。そろそろウーンデキムの警戒宙域だ。いつ敵が襲ってくるかわからない」
「ねぇ、これって奇襲じゃないの?」
「……リーダーの作戦は『奇襲』と銘打ってはいるが、実際は正面突破だ。奇襲なんてただの飾り」
「ちょっと待って。じゃあ俺たちが先行してるのって――」
「私たちは強い囮。敵機を倒せれば御の字、倒せなくても敵の目を引き付けられる」
「機神ってそういう扱い!?」
俺は思わず天を仰いだ。仮にも神ってついてるんだからもっと大切にしようぜ……。
「イチャついているとこ悪いが、レーダーに敵影だ」
「イチャついてない! で、何機だ?」
「わかる範囲では、十二機。おそらくまだ後方に控えているだろうな」
「様子見ってわけか。罪希、先制攻撃だ!」
「任せる」
「ああ任せた――って俺かよ!」
「このリベリオに遠距離兵装はない」
「しょうがないか……グランバスターッ!」
手を前腕部に収納し、砲身を出現させる。
「当たっても恨むなよッ!」
撃ち出されるビーム砲。遠くで起こる爆発。どうやら、直線上の敵機に当たったみたいだ。
「すごい命中率だな。この距離から三機も落とした」
「あんま褒められることじゃねぇと思うけど、なッ!」
二射目を放つ。流石に警戒されていたのか、二射目は当たらない。
だが、それでいい。重要なのは、こっちに注意を向けること。思った通り、敵機はグランデルフィンの砲撃を警戒している。
「――でもそれじゃ、横がお留守だぜッ!」
「はぁぁぁッ!」
レーダーから消える敵影。コックピットに響く罪希の声。
俺が砲撃を行ってる間に罪希は全速力で飛んでいき、敵戦力の横を突いていた。突然の乱入者に慌てふためく敵部隊。即興の合わせ技だけど、うまくいったな!
「おっと、こっちも忘れんなよッ!」
すでに目に見える位置まで近づいている。これなら外さない!
三射目。グランバスターの一撃が敵機の腕部を捉え、吹き飛ばす。
「なんだこいつら、強いぞ!」
「応援だ、応援を呼べ!」
敵機から聞こえる阿鼻叫喚の声。これなら充分囮としての役割を果たせるはずだ。
そこで、ザードさんから通信が入る。ウィンドウに顔が表示された。
「よぉ、首尾はどうだい」
「囮として大暴れしてますよ」
「ガハハ! そりゃあいい! こっちもそろそろウーンデキムに入るぜ!」
「ご武運を」
「そっちこそな! 死ぬんじゃねぇぞ!」
全く、この人はいつもこの調子だ。でも、嫌いじゃない。
じゃあ下の人たちが楽できるよう、俺たちが苦労するとしますか!
通信を切ると、敵の接近を告げるアラートが鳴リ出す。
「蓮介、増援のご到着だ!」
「数は?」
「数は……一? なに、この反応は……!」
「どうしたフィーネ?」
「気をつけろ蓮介。やつが来る」
「やつってまさか――」
目の前で、爆発。晴れた煙から現れたのは左肩から先を失ったリベリオ。
一体、なにが起きたんだ?
「ほう、まさか俺以外に機神を扱える奴がいるとはな……」
割り込まれる通信。表示されるサウンドオンリーの文字。一体どこから……?
俺はさっきのフィーネの言葉を思い出す。やつが来た、ってことは、この声の主は一人しかいないはずだ。この状況での増援、それが一機となれば!
罪希のリベリオは上を見ていた。俺も、それにつられて上空を見る。
「あれは……」
全身が漆黒の装甲で包まれ、ところどころに紫の紋章が見られる。
細身の身体とは裏腹に、とても大きな三日月型の翼。そこから生えるは二本の黒刃。
左手を突き出した格好で俺たちを見下ろすその機体。四つの眼が、俺たちを見ていた。
「間違いない。クロム・デュークの機神だッ!」
「如何にも、クロム・デュークが駆る最強の機神。その名も、ディスペイン!」
ククク、と笑い声が聞こえる。
見ているだけで感じる禍々しいオーラ。圧倒的強者の貫禄。
あれが、クロムの機神……。俺の中のなにかが告げている。こいつはヤバイと。
「さあ、機神同士、派手に殺り合おうかッ!」
紫黒の絶望が、俺の前に立ちはだかった。
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