第四話「レジスタンスの街」

 リクリエイトの施設から全速力で飛ばすこと約一時間ほど。

 罪希のあとをついていくと、小規模な街に着いた。未来未来してた施設とは違い、こちらの方は昔の街並み……俺が囚われていた百年前の街並みによく似ている。

 しかし、家々はところどころ壊れていたり潰されていたりして、まるでここでなにかしらの戦闘があったと思わせるような景色だった。思わず、胸を押さえる。


「降りるよ」


 罪希が下を指す。そのまま広場と思われる場所に降りていく。ここは従ったほうが良さそうだな。

 俺も罪希に倣い広場へと降りていく。


「おお、罪希だ!」


 罪希が降りた先には、たくさんの人々が集まっていた。反政府軍レジスタンスのエースって話だし、人望もあるんだろう。

 コックピットから降りた罪希を、歓声が出迎える。うお、すごい人気だ。どれだけ罪希がみんなの希望を背負ってるのかがわかるな。


「フィーネ、これって俺たちも出た方がいいのか?」

「様子を見た方がいいと思うわ。出て行っていきなり蜂の巣にならないとも限らないもの」

「おっかねぇなおい」


 再び罪希を見ると、カメラの向こうでこっちへ来いとジェスチャーをしていた。降りる以外の選択肢はないみたいだな。手荒な真似はされないと思いたい。

 コックピットから出て地面に降り立つ。フィーネも一緒だ。


「みんなに紹介する。この人は、私たちの味方のレンスケだ」

「あれ、いつの間にか味方になってる?」

「何を言ってるの? レンスケはリクリエイトの連中を吹き飛ばした。なら、私たちの味方でしょ?」

「えっと……?」


 これはつまりどういうことだ? 敵の敵は味方、って解釈でいいのか?


「もっと単純なものよ。この世界には戦っている主な勢力は二つしかないのよ。反政府軍レジスタンスに属する組織と、リクリエイトのね」

「なるほど、そういうわけか」


 統合政府とそれに与しない者、ってわけか。単純でわかりやすいね。


「ついてきて。リーダーに会わせたい」

「了解」


 罪希について行くと、一際大きい建物が見える。いかにもここにトップが住んでますよ、といった感じだ。俺だったら一人で住めないね。

 思った以上に距離がなかったため、その建物にはすぐに辿り着いた。


「ここはリーダーだけじゃなく、戦闘員全員が住んでる……言わば、寮ね」

「なるほど。大きい理由がわかった」


 一人で住んでるわけじゃなくてみんなで住んでるわけか。それなら俺にも暮らせそうだな。


「レンスケ、今のうちに聞いておきたいことはある? 一つくらいなら、答えられる」


 罪希が首を傾げながら聞いてくる。その仕草にドキッとしてしまう。だって見た目はめちゃくちゃ美少女だし。しょうがないよね!


「そうだな……じゃあ、罪希たちが戦う理由。それを知りたい」

「そんなもの決まっている。国を取り戻すためだ」

「国? 確か、ここら辺はニホンって言う国だったんだよな。でも、それって今は存在しないって聞いたけど」

「ああ。統合政府のやつらが、私たちから、世界から国を奪っていった。隷属か死かを選べと……私たちは、あいつらの従僕になるのは許容できなかった。だから、戦ってる。私たちの居場所を取り戻すために」

「それが、罪希たちの戦う理由……」

「みんな、決死の覚悟で戦っている。本気で、命を燃やして」


 そう言う罪希の瞳には、怒りの炎が浮かんでいた。自分の身をも滅ぼしてしまいかねない、怨嗟の炎。

 かく言う俺は、罪希に対し何も言うことが出来なかった。

 ここで俺が何を言っても、薄っぺらい言葉にしかならない。俺と彼女では言葉の重みが違う。それをひしひしと感じた。無力だな、俺は。

 話している間に、どうやら罪希たちのリーダーのいる部屋に着いたみたいだ。


「失礼します」


 コンコンと二回ノック。扉の向こうから「あいよ~」という男性の声。

 扉を開けて部屋に入ると、そこでは筋骨隆々とした男がダンベルを上げ下げしていた。

 ……どういう状況?


「なんだ、フィーネも一緒だったのか」

「まあね」

「え、知り合い?」

「あなたを助けるために罪希ちゃんに助けてもらった、って言ったでしょ? 反政府軍レジスタンスのエースを無断で借りられるほど、私は偉くないわ」

「そういうこった。俺はザード。ザード・タリスマンだ。ここのリーダーをしている」

「俺は緋崎蓮介ひざきれんすけです。よろしくお願いします、ザードさん」


 ザードさんはニカッと白い歯を見せて笑う。その笑みからは優しさを感じた。人として好感が持てる相手だ。


「それでフィーネ。レンスケはどのくらい知ってる?」

「ほぼ知らない、と答えておくわ」

「そりゃ困ったなぁ……」


 ポリポリと頭をかき、困惑の表情を浮かべるザードさん。でも、その顔はすぐに笑みに変わった。


「よし、罪希。レンスケに色々教えてやってくれ」

「わかりました。じゃあレンスケ、私についてきて」


 罪希は俺に手招きをすると、部屋から出ていく。

 確かに、色々教えてくれるのは助かる。罪希に置いていかれないようにしよう。

 俺は罪希の後ろをついていく。フィーネはどうやらこの部屋に残るらしい。ザードさんとの話が残ってるんだろう。

 俺は近くの部屋に通される。罪希から差し出された椅子に腰をかけた。


「何から聞きたい?」


 これはまた唐突だな……まだ聞きたいことがまとまっていないのに。

 ……そうだな。まずは、これを聞いておこう。


「じゃあ、機神について教えてほしい」


 俺はほぼ成り行きみたいな形で機神に乗っている。機神のことをなにも知らないのが現状だ。なら、ここで知っておいたほうがいいだろう。


「機神というのは、圧倒的な力を持つブレイヴグラスパーのこと。過去の遺跡から発見されることがほとんどよ。そして機神は、機神に選ばれた者にしか、動かすことは出来ない。どんなにその力を望んでもね……」

「なるほど。それで、そのブレイヴグラスパーっていうのは?」

「私やリクリエイトの部隊が乗っていた機体のこと。簡単に言ってしまえば人型機動兵器ということになる。機神に比べて力が劣るものの、量産性と安いコスト、そしてなにより、誰でも扱えること。その点で言えば、世界に存在する人型機動兵器のほぼ全てがブレイヴグラスパーということになる」

「罪希の機体……あれは機神じゃないのか?」

「あれはただのブレイヴグラスパー。量産機に手を加えただけよ」


 いわゆるカスタム機ってやつか。出力ではグランデルフィンの方が勝っていたが、精密な動作、速さでいったら罪希の機体の方が上かもしれない。あれほどの力を持つ機体が量産できるとなると、機神の価値がどんどん下がる気がするなぁ。

 そうか。パイロットの技量も考えると、素人が扱っても強い機神の方が、良いのかも知れない。一長一短ってやつだな。


「次。この地域を統括しているやつは誰だ?」

「リクリエイト最強の部隊と言われてる第一部隊の隊長、クロム・デューク」

「よりによって最強ときたか……」

「クロムが機神持ちだという情報もある。もしそうなら、非常に厄介な相手ね」


 俺はずっと、過去の世界に幽閉されていたも同じ。だから、俺は今の世界のことをよく知らない。罪希の話を聞いても、ピンとこない。どこか、遠くの世界の話に思えてしまう。

 でも、俺はグランデルフィンのパイロットになった。望んでも手に入らない、強大な力を得た。なんの因果か機神に選ばれたんだ。

 きっと、俺とクロム・デュークってやつは戦う運命にある。確信めいたものが俺の中に生まれた。


「戦う理由、か……」


 俺にはそんな大層なものはない。成り行きで戦っているようなものだ。強いて言えば、真実を知ること。それが当面の俺の目的だ。

 まだ、リクリエイトの連中が悪者と決まってるわけじゃない。でも、ここには実際に困ってる人がいる。現実に悲しんでいる人がいる。ならそれをどうにかしてやるのが、力を持つものの責務じゃないかと俺は思う。

 それに俺は知りたい。なんで俺がリクリエイトに囚われていたのか。その鍵はきっと、この戦いの先にあると思うから。


「罪希。俺にも、戦う理由ってやつが出来たみたいだ」

「どうしたの、いきなり」

「俺は確かに、今日までただの人だった。真実を知らず、与えられた虚構の世界で疑問なく生きていた。それを、フィーネや罪希に助けてもらった」

「私は助けていない」

「フィーネを助けてくれただろ? 間接的に俺は、たくさんの人に助けられた。ならその恩を返すべきだ」

「それは……」

「だから、今度は俺が罪希を助ける。罪希の戦い、俺にも少し背負わせてくれ」

「……ありがとうと、言っておく」


 そう言う罪希の顔は笑っていた。

 世界を知るために、助けたい人のために、俺は戦う。

 俺にとっての戦う理由。まだ胸を張って言えないけど、いつかきっと、胸を張って言える日が来るはずだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る