第二話「グランデルフィン、その力」

「グランデルフィン、起動!」


 真っ暗だったコックピット内に明かりが灯る。メインカメラが起動し、周囲の景色が見えるようになった。やっぱりフェイスカバーの裏にちゃんとカメラアイがあったか。


「周囲にはなにもいないようね」

「これで目の前に銃口を突き付けられていた、とか洒落にならないからね……」


 俺は安堵のため息を吐いた。


「それで、これはどうやって動かすの?」

「今情報を送るから待ってて」


 言われたとおりに待っていると、頭の中に情報が流れ込んでくる。凄まじい情報の羅列。すぐにでも頭がパンクしそうな量だったが、フィーネが調整してくれたのか知りたい情報だけがピックアップされていく。なんだこの未来テクノロジー。


「あなたの脳内に直接データを送ったわ」

「……そんなことが出来るのか」

「言っておくけど、ここはあなたが過ごしていた楽園よりも百年以上先の世界なのよ? それくらい当たり前だわ」

「すいませんそれ初耳です」

「だって言ってないもの」


 本当に未来だった。って言うか大事なことをサラリと言ってのけたぞこの子。

 まあ、兎にも角にも。操縦の仕方、武器のあれこれなど必要な情報は大体受け取った。あとは俺のセンス次第ってわけか。


「色々と送ったけど、あなたが『願い想うこと』。それが一番大事よ。この機体は、あなたの想いに応えてくれるはずだから」

「願い、想うね……んじゃ、さっさとこんな暗い場所からはおさらばしますか!」

「まったくよ」


 そう言うフィーネは少し笑っている気がした。


「グランバスター!」


 グランデルフィンの手が前腕部に収納され、砲身が出現する。俺はソレを天井に向けて構えた。おお、ホントに思ったとおりに動いた!


「ぶちかませッ!」


 エネルギーの奔流がグランバスターから発射され、無機質な天井を溶かす。ビームによって溶かされた天井には大きな風穴が開いた。収納される砲身。

 大型のロボットが一機通れるくらいの穴。そして見えるゴールは、太陽の昇る真っ青な大空。

 こんだけ大きな翼があるんだ、あそこまで飛んでみせろ!


「いっけぇぇぇええええええッ!」


 翼を広げ、飛び上がる機体。うお、ほんとに飛んでる!

 凄まじい速度で上昇するグランデルフィン。

 そのおかげであっという間に外に出ることができた。が――


「――なんか囲まれてるんですけど!?」

「あら、勘づかれるのが早いわね」


 そりゃあんだけの威力のビームを撃ったら普通は集まって来るか!

 グランデルフィンの周囲を青い機体が取り囲んでいた。その手には、銃。もしかして、ビームとか出たりするのかな?


「いい機会よ、グランデルフィンの力、存分にお見せなさい!」

「って数見ろ! 十機以上いるだろあれ!」

「有象無象が何機いようとグランデルフィンの敵じゃないわ!」


 なんでそんなに自信満々なんですかね!?

 周りを見ると、すでに戦闘態勢に入っているようだ。

 ああもう、やるしかないんだろ!?


「撃て!」


 隊長機なのだろう、頭部にアンテナのついている機体から声が聞こえる。フィーネが気を利かせて通信を傍受してくれているのだろうか。ありがたいことだ。

 周囲の青い機体が引き金に指をかける。

 まあいいさ。黙ってやられてやる義理はないッ!


「グランスティンガー!」


 前腕部の装甲がずれて、中から二つの銃口が現れた。その銃口からビームを連射する。グランバスターよりも威力は低いが、牽制ならこれで十分!

 一番近くにいた機体の銃に当たり、その銃が爆発霧散した。おっと、意外と威力はあるみたいだ。

 っと、のんびりしてる場合じゃない!

 俺はすぐさま翼を翻し、撃ち出されるビームを避ける。やっぱりあれビームライフルか! 本当に未来って感じがする!


「なに!?」


 コックピットの向こうから驚愕の声が聞こえる。悪いけど、こっちもやられるわけにはいかないんでね!

 足の鉤爪で機体の頭を蹴り砕く! こいつも威力が高い! 思った通りだ!

 頭を砕かれた機体は戦線を離脱していった。それでいい、俺は人を殺したいわけじゃないからな。


「まったく、あなたは甘いわね」

「悪いな、甘くて」

「いや、そういうところも嫌いじゃないわ」


 迫り来るビームの嵐。だけど、不思議と不安はなかった。

 こいつならやれる。そう、確信めいたものが俺の中にあった。

 ビームを避け、グランスティンガーで近くにいた機体のメインカメラを破壊する。


「ええい、近接戦闘に持ち込め!」

「了解!」


 青い機体たちはライフルを捨て、腰に帯剣していたブレードを取り出す。その刀身は、わずかに震えているように見えた。


「あれは高周波ブレードよ。切られれば、いかにグランデルフィンといえどただでは済まないわ」

「さっき言ってたこととちょっと違う気がするけど説明サンクス! いくぜ、グランキャリバー!」


 俺は右翼部から射出された柄を握る。柄にエネルギーが収束していく。鍔が横に開き、エネルギーが一本の剣と化し出現する。くぅぅ、かっこいいね!

 さあかかってきな。正面から相手になってやるよ!


「もらったぁ!」

「――見えてるよ!」


 先行してきた青い機体の腕を切り落とし、無力化する。

 次に上段から振り下ろされる剣を避け、メインカメラを一閃。

 左右両側から剣が振り下ろされる。左手で相手の手首を掴み、グランキャリバーでもう一機の手首を切り落とす。


「このッ!」


 俺は手首を握り潰し、グランキャリバーで腕を切り落とした。相手の装甲をものともしない。凄まじい切れ味だ。

 見れば、戦える機体は隊長機を含めて残り三機となっていた。


「フィーネ、隊長機に回線を」

「いいの?」

「やってくれ」

「わかったわ」


 ジジ、とノイズが聞こえる。やがてノイズは小さくなっていき、相手の顔が表示された。


「あなたが隊長か?」

「……ああ。統合政府直属組織、リクリエイト第三部隊隊長、ルーウェンだ」


 リクリエイト……それが組織の名前か。


「ルーウェンさん、これ以上戦うのは無駄だ。どうか、見逃してはくれないか?」

「それはできない。私にもプライドというものがある。部下をここまでやられて、黙っているわけにはいかない」

「どうしても、やらなきゃいけないか……」


 戦闘を回避できれば思ったけど、これは無理そうだ。


「さあ、剣を構えよ。戦いはまだ終わ――」


 凄まじいノイズと共に途切れるルーウェンさんの声。目の前では、ルーウェンさんの機体のコックピットが高周波ブレードによって貫かれていた。目の前で爆発四散するルーウェンさんの機体。


「なッ……!」


 爆発の煙が晴れ、現れたのは装甲を真っ白に塗った機体。その手には、先ほどルーウェンさんの機体を突き刺した高周波ブレードが握られている。


「こいつ……!」

「よくも隊長を!」


 周りの二機が、白い機体に向かってブレード振るう。


「遅い」


 若い女の子の声。白い機体がブレードを一閃すると、二機は上半身と下半身に分かれ、その場で爆散した。

 目の前で命が失われた。三人も。あの機体は、いともたやすく人の命を奪っていった。その事実に、手が震える。人の命はこんなにも脆く、簡単に失われてしまうものなのか……!


「蓮介。この世界では、人の命が軽視されているわ。もちろん、好きこのんで人を殺す人はそうそういないけど……これは戦闘よ。当然、命の奪い合い。誰にも文句を言う権利はないわ」

「わかってる」


 白い機体が俺を向く。おそらく、あれの次の標的は俺だ。

 悪いが、こんなところで殺されるわけにはいかない。なら、やるべき事は一つしかないよな!


「生き残るために、俺は戦う。でも、なるべく人は死なせないッ! 甘いって言われようが、知ったことか! この機体ならそれが出来る! そうだろ!?」

「それがあなたの願いなら、グランデルフィンは応えてくれるわ」


 あの機体を無力化すれば、殺す必要もない。それ出来るかどうかは、わからないけど!

 俺は改めて、白い機体と向き合う。手の震えは、もう止まっていた。


「グランデルフィン、行くぞ!」

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