第29話 親子
2017年2月23日-
悲しいことに電車でケンカする人を見て、ああ東京に帰って来たのだと実感した。改めて彼だけが悪いわけでないと思い知る。私は、都内にある藤原家のお墓参りに行くことにした。高杉くんが殺めてしまった女教師のお墓だ。
正春さんが現れ、
「僕のお墓にも、もっと来てくれると嬉しいんだが」
と意地悪を言ってくる。
「わかっているでしょ。再婚したから行きづらいのよ」
亡くなった藤原涼子さんのお墓を見つけると、花束を供え合掌をする。私も高杉くんを連続殺人犯にしまった共犯者の一人だ。
法に触れてはいないが、弱者を傍観するだけの罪深き毎日を生きていた…。涼子さんに謝罪して帰ろうとすると、初老の男が立っていた。右手には日本刀を持っていて、息を切らしていた。
「あんた、娘を殺したあの悪魔の仲間だな?」
そんな…やめて…ウソだと言って…。
「ここに入って行くあんたを見て、慌ててこれを取りに行ってきたよ。どういう意味かわかるだろ?」
わかります…痛々しいほどに…あまりにも痛々しくて…怒りなのか悲しみなのか、込み上げてくる感情が、一体何なのかわからない…。
「何が死の清算だ!娘は悪魔に殺されたんだ!あいつにも愛する人を奪われる絶望を味あわせてやる!」
マサムネとなってしまった涼子さんの父親が日本刀を抜く。
「来ちゃダメ!」
悲鳴にも似たような声で叫んだ。
私の視線を追って、マサムネが後ろを振り返る。高杉くんが歩み寄ってくることに気付いてしまう。
マサムネは高杉くんに向かって駆け出す。高杉くん、お願いだから逃げて…。
マサムネが高杉くんに斬りかかる。高杉くんは態勢を崩しながらもそれを避ける。
「あなたの手をこれ以上、汚すわけにいきません」
「黙れ!お前の声など聞きたくはないわ!」
再びマサムネが高杉くんに斬りかかろうとすると、初老の女が前に立ちふさがる。
「もうやめてください!こんなことしてもあの子が悲しむだけです!」
「うるさい!そこをどけ!」
「嫌です!子供に父親が人を殺すところなんて絶対に見せません!」
「うるさい!うるさい…うる…」
父親は刀を落とし、膝から崩れ落ちる。そして、母親が高杉くんをビンタする。
「あの子の声をもう一度聞かせて…また誕生日のお祝いをさせて…お願いだから、お願いだから、もう一度会わせてちょうだい…会わせてちょうだい。」
高杉くんは土下座をして、頭を地面にこすりつける。
「ごめんなさい。できません…何もできません…ごめんなさい」
「謝る相手が違うでしょ…」
「ありがとうござ…いえ、失礼します」
高杉くんは立ち上がると、落としたお花と日本刀を拾い、お墓まで歩み寄り涼子さんに謝罪をする。
決して許されることのない過ちから、もう逃れることはできない。高杉くんはお墓参りを終えると、
「優子さん、マサムネの正体は僕です」
とどこかで聞いたことのある言葉を言ってくる。
すると正春さんが出て来て、
「そうしてあげるといい。それなら彼も人を殺したことになり、残酷な死刑から逃れることもできるじゃないか」
と私をあの時のように説得する。
「正春さんは黙っていて…」
「優子さん…」
「あっ、ごめんなさい。独り言よ…」
「隣にいる方が、正春さんですか?」
「えっ?」
「確かに正春さんの言うとおりですが…」
正春さんの姿が高杉くんに見えている?
「正春さんは私がつくった幻なんじゃ…」
「僕はそんなことを言った覚えはないがね」
「優子さん、これって、もしかして…」
ま、正春さんは幽霊だったの!?
「聡君が、僕のことを忘れるだろって優子に言ったのが悔しくてね…来ちゃったよ、天国から」
来ちゃったじゃないわよ…。しかも、なんでこのタイミングでとんでもないカミングアウトを…。
「それと彼女が、高杉くんに言いたいことがあるらしい…」
彼女って、もしかして…。
「この人殺し!」
と激怒している藤原涼子さんの幽霊が現れる。
「ごめんなさい!もうしません!」
すぐさま高杉くんが謝罪をする。
「当たり前よ、私は死んでいるんだからね!お父さんにあんなことさせて、本当に最低。あんたが責任とることなんて当たり前なんだから!それで感謝されようなんて思わないでよ。それに謝るなら土下座でしょ!土下座しなさいよ!」
と藤原涼子さんはまくし立て、高杉くんは土下座をして謝る。
「まあ、彼の話を聞いて、私も反省したし…あんたが一生後悔して生きて行くなら許してあげてもいいわ」
すると、いじめられて自殺した少年、木村くんの幽霊も出てくる。
「さっき、先生のお母さんが言ったことを、僕のお母さんも同じように言っていたと話したんです」
「私も彼に謝ったところなの…何回謝っても許されることではないけど…」
「先生、もういいですって。謝っていただいて僕は救われました」
「木村くん…」
「先生…」
涼子さんと木村くんが手を取り合う。その様子を涼子さんの両親も見ていた。
「涼子…あなたなの…」
「お母さん…悲しませてごめんなさい」
「お前が謝ることなんかない!」
「ううん。お父さん、私は間違った生き方をしていた」
「だからといって、殺されることなんて…」
「そうなんだけど、それでわかったこともあるから…お父さんに辛いことさせて、本当にごめんなさい」
「謝らないでおくれ、頼むから謝らないでおくれ…」
次第に涼子さんと木村くんの姿が、眩くなりながら薄くなっていく。
いつの間にか、和尚さんも来ていて、お経を唱えている。
「お父さん、お母さん、こんな娘でごめんなさい。こんな娘を愛してくれて、ありがとうね」
「涼子…ずっと愛しているからね…」
「涼子、誰が何と言おうとお前は自慢の娘だ!」
「ありがとう。あまり早く私に会いに来たらダメだからね」
そう言い残して、涼子さんは木村くんと一緒に成仏した。
「やっぱり親子の絆は切れるものではない。僕のしたことは正しかったのだ」
正春さんはまだここにいたのね…。
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