第27話 ゲーム
2017年1月31日-
『内閣総理大臣、北野剣氏が暗殺される』。このニュースをマスコミ各社が一斉に報じた。政治に興味がない千里と楓ちゃんも、このニュースはかじりつくように見ていた。
国民の多くは志半ばで命を奪われた英雄の死を惜しみ、葬儀には大勢の人が詰め寄せた。
そして、国守党は総裁選を行わず、官房長官を務めていた元検事の前島満を総裁とした。
「一刻も早く危険人物罪の成立させたいようだ」
と鈴木さんは国守党の動向に警戒心を高めていた。
2017年2月10日-
国会で前代未聞の事件が起こる。最大野党である陽だまりの会の代表、細井勝が質疑応答で、
「総理、某倒しをしませんか?」
と問いかけたのだ。
すると、野党側から「棒倒し!棒倒し!」のコールが起き、
「総理、まさか負けるのが怖いのですか?」
と細井が挑発する。
「なにを!いいでしょう。棒倒しを開催しましょう!日時は後日発表します!」
と総理大臣の前島は、顔を真っ赤にして提案を受け入れた。どうやら激情しやすい気性のようだ。
この様子をかつ日和で、高杉くんと高科さんと一緒に見ていたが、
「さては聡さん、野党議員の弱みを握って脅しましたね」
と高杉くんは呆れていた。
「楽しそうですね、棒倒し。わくわくします」
と高科さんは笑っていた。
鈴木さんは拍手までして、
「よくやった!」
と聡を褒めていた。
チラッとしか映らなかったが、聡はカメラに向かってピースをしていた。なんだか聡が遠い存在になったようで、少し寂しい気もしたが、このことは内緒にしておこう。
「それで、今日の本題だけど、もう2週間もマムシ姫による死の清算が行われた形跡がないのよ」
「そして今朝、名古屋の旧校舎で日本刀で切られた看護師の遺体が発見されました」
「マサムネの仕業…」
「おそらく…これで、残る死の清算者は…」
「僕ですね。次のターゲットは」
「しばらく大人しくしたほうがいいわ」
「いえ、もう時間がないので、僕は殺めてしまった人たちのお墓参りに行ってきます。お墓の場所は鈴木さんが調べてくれました」
「だから、三人前を食べていたのね」
「はい、しばらく食べられないですし…優子スペシャルにしました」
大の昼ドラ好きという鈴木さんが、私と聡と高杉くんの三角関係をおもしろがって、三人前のかつ丼で、さんかつ、さんかくを表現したのがこの優子スペシャルだった。
「それにしては、あまり箸が進まないわね」
「そ、そんなことないですよ。ゆっくり味わっているだけです」
「一人で平気なの?」
「そうじゃないと意味がありません」
「気を付けて行って来てくださいね」
高科さんが言葉以上に、その魅力的な笑顔で励ます。
「千里には話したの?あの子、怒るわよ」
「千里ちゃんは楓ちゃんのことでたいへんだろうから、話していません」
「それもそうね」
「ごちそうさまでした。それじゃ行ってきます」
高杉くんが席を立つと、麻美さんが厨房から出て来て、ヘルメットを渡す。
「駅まで送らせて」
「ありがとうございます」
鈴木さんは黙々とキャベツを切っている。想像以上にソースかつ丼が人気になってしまい、最近やや機嫌が悪い。
高杉くんが麻美さんと店を出て行く。こんなに、しっかりとした背中をしていたっけ…。私も対峙しなければならない人がいる。
その夜。
足立西警察署長の森野の発案により、全署員強制出席の棒倒し決起集会がカラオケ店で行われた。私と佐伯部長と高科さん以外は、危険人物罪の賛成派で完全にアウェイだった。
そこで私は署長の森野に、
「危険人物罪ゲームをしましょう」
と提案し、
「おもしろそうじゃないか!」
とアルコールが入り上機嫌の森野は快諾した。
決起集会だけあって、ほとんどの署員がアップテンポの激しい曲を歌う。暴力的な歌詞がある曲を歌ったたり、マイクパフォーマンスをしたり、激しくタンバリンを振るなど、人を傷つける恐れがある署員を私と高科さんは次々逮捕し、ネクタイやベルトで両手を縛った。あっという間に署員の3分の1が私と高科さんに逮捕され、しらけたムードになる。
逮捕者の中には、私と高科さんの脚をなめるように見ていた佐伯部長もいたし、ストーカーの匂いがする『別れても好きな人』を女性署員とデュエットした森野署長もいた。
「松永君、マイクを向けてくれ」
とネクタイで両手を縛られた森野署長が言うので、マイクを近づけてやると、
「つまらん。実につまらなん。危険人物罪などつまらん」
と森野が言い、他の署員も大きく頷く。
「松永君、これを解いてくれ。私は、危険事物罪の反対派になる!」
と森野が宣言すると、
「俺はもともと反対だったんだ!」
「私もなんとなく周りに合わせていただけ!」
と他の署員も次々と反対派になる意志を見せ、危険人物罪反対派の決起集会となり大いに盛り上がったのだった。
翌朝。
「ギャー!!」
けたたましい楓ちゃんの叫び声で目覚める。私は玄関で寝てしまったようで、二日酔いでひどく頭が痛い。
「どうしたの楓ちゃん。あっ、お姉ちゃんたらこんなところで寝てたの…」
千里が私を起こしてくれる。
「あーびっくりした。ユウネエが死んでいるのかと思っちゃった」
私は手に紙切れを握りしめていた。
なんだろうと思い、紙切れを開いてみると、『甲田は沖縄の読谷にいる』と書かれてあった。そういえば決起集会の帰り際に、森野署長からこの紙切れを受け取ったことを思い出す。
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