第23話 全員集合

僕は完全に欺かれていた。店主の行動を注意深く観察していたが、不審な点は微塵もなかったのに…。

「お前さん、俺をつけていたろ?」

「バ、バレていたんですね」

「当たり前だ。NHKをなめんな」

「日本秘密国際捜査機関でしたっけ?ずいぶんとKに偏った名称ですね」

「まあ、いろいろと便利な名前なんだよ。NHKの鈴木と言っても怪しまれたりしないからな」

「まあ、そうですが…」

「それでは、皆さんにご紹介しますね」

高科さんが立ち上がり、店主の隣に立つ。


「こちらの店主が、NHKの本部長、鈴木哲。そして、工作部部長の佐伯吾郎。工作員の佐伯麻美。そして私が工作員の高科理沙です」

「高科さんもメンバーなの?」

「先輩、秘密にしていてすみません」

「それはいいけど、日本秘密国際捜査機関というのはどんな組織なの?」

「簡単に言ってしまうと、CIAの日本版です」

「それじゃ、佐伯部長が署長にならなかったのも、目立たないようにわざと…」

「いや、婦警のズボン化に断固反対していたら左遷されてな」

「そうよ。お父さんが署長になったほうがNHK的にはよかったのに」

優子さんは苦笑いを浮かべている。


「それじゃ、僕に殺人免許証を届けた女性は?本当は覚えているんですか?」

「ああ、あの女には他のメンバーが接触したが、渡すように頼まれただけだった」

「そうですか…」

「いちいち落ち込んでいる暇はないぞ。何が何でも、危険人物罪の成立を止めなければならない。三浦さんには堂々と政界に進出してもらい、俺たちは裏から北野を狙う」

「裏から?」

「高杉、お前さんはしばらく俺たちNHKと動いてもらう。ゴロウちゃん、映画撮影の許可はどうだ?」

「ばっちしじゃ」

「僕も一緒に…撮影ってなんのことですか?」

「ケンカを売ったんだよ」

「誰にですか?」

「まあ、いずれわかる。さあ、今日はお代はいらねえ。どんどん食え」

「いただきます!」

聡さんがソースかつ丼を頬張る。

「くーっ、うめぇー!」

「でも、聡さんが選挙で勝てるとは思えないけどなあ」

「ふっふっふっ。探偵ならではの選挙戦を見せてやるぜ…」

聡さんは妙な自信に溢れていた。


選挙戦が始まると、聡さんの演説には大勢の国民が集まった。人気モデルの千里ちゃんと、子役の楓ちゃんが応援にかけつけたからだ。

「この日本を一度、ぶっ壊し、この三浦聡が、誰もが安心して暮らせる国を作って見せます!」

そう聡さんは訴え続け、地声のデカさもあり認知度は一気に高まった。


一方、国守党の対立候補は、学歴詐称がバレた上に、『無能な国民たちは、何も考えず国守党候補のボクちゃんに投票するから負けるわけがない』と、高級クラブでホステスのおっぱいを揉みながら言っている映像が流出し、逆風が吹いていた。これが、聡さんが言った探偵らしい選挙戦か…。


千里ちゃんと楓ちゃんが応援にこれない日は、聡さんは自転車に乗って選挙区を周り、有権者に「一緒に日本を作りなしましょう!」と語りかけ続け、運命の投票日を迎えた。



2017年1月30日ー


僕は投票を済ませると、鈴木さん、吾郎さん、麻美さん、高科さんとプロ野球で使われている東京国際ビッグスタジアムにやってきた。

車のトランクには、マシンガンや拳銃が積まれていて、鈴木さんたちNHKのメンバーが各々に武装し、仮面をつけると、スタジアムの中に入る。

「何をする気ですか?」

「ケンカだよ。プロのな」

「僕の仮面は?」

「お前さんは有名人だからいらねぇだろ。それより、その面のケガはどうした?」

「自転車で転んでしまいまして…」

「…死なない程度にな」

鈴木さんと話していると、北野を先頭に白いスーツを着た武装集団が入ってくる。


ぱっと見ただけで200人以上いることがわかる。

「総理大臣、自らおでましとは願ってもない」

「いまいましいNHKの連中をぶっ潰すのをこの目で見たいからね」

鈴木さんと北野がにらみ合う。

「す、鈴木さん。他のNHKのメンバーは?」

「待機している一人を除いて、全員ここにいる」

えっ、日本秘密国際捜査機関のメンバーは全員でたったの5人?大層な名前のわりに、メンバーが少なすぎはしないか?

「ゴロウちゃん、それじゃはじめっか」

僕の不安をよそに、鈴木さんは遊びでも始めるかのような軽いノリでそう言う。

「了解。スタジアム、変形スタート!」

吾郎さんがそう言うと、スタジアムを囲む壁から、シールドのようなものが何列も出て来て、スタジアム内が迷路のようになる。


「ここは裏社会の連中が、殺し合いに使う場所でもあるんです」

高科さんがニコニコしながら教えてくれる。

「こ、殺し合いって…僕は何をすれば…」

僕が事態を理解できないまま、

「発砲開始!」

と北野の声が聞こえた瞬間、銃弾の雨が降って来る。

すぐに、鈴木さんと吾郎さんが反撃を開始する。高科さんも、僕にウインクをすると、ななしの組織の兵士に向かってマシンガンを発砲する。麻美さんは後方からバズーカを撃っている。


「ゴロウちゃん、そろそろ開票始まっただろ?」

「そう言うと思って、選挙速報をオーロラビジョンで見れるようにしとるよ」

いつの間にか、オーロラビジョンに聡さんの陣営の様子が映っている。ケーブルテレビの放送を映しているのだ。さすがの聡さんも緊張の面持ちだ。ここに来る途中のニュースで、出口調査の結果は、わずかに聡さんが負けていた。ゆっくり、その様子を見守りたいのに、容赦なく銃弾が飛んでくる。




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