第5話


「お待たせー!出来たよー!」

「やったあ!」

「えーと。ソース、ケチャップ、マヨネーズ、デミグラスソース何でもどうぞーー!」

「イエーーイ!絵美ちゃんもどうぞ!」

「ありがとう!」


女性の名前は、安西絵美という。絵美が泣き止むのを見計らって、裕太がお腹が減ったと騒いだ。絵美はそこで帰ろうとしたが、裕太が一緒に食べると駄々をこね、夕食を共にする事になった。雅彦が支度している間、裕太は自分のお気に入りのゲームやおもちゃを次々と出してきて、絵美と遊んでいた。雅彦の耳にはずっとキャッキャッと声が聞こえていた。


食事中もずっと裕太が絵美に話しかけていた。


「ねえねえ、絵美ちゃんは何屋さん?」

「んー。何でもなれるんだよ。」

「えー、すごいじゃん!じゃあ、パン屋さんなれる?」

「なれるよー。ウェイトレスさんにもなった事あるよー。」


雅彦は、絵美がアルバイトを転々としているのか、それとも学生の時の話をしているのかと考えていた。


「じゃあ、お医者さんは?」

「もちろん、あるよー。」

「えー!じゃあ、注射とか出来る?」

「出来るよー!裕太くんにもしてあげようか。」


あー、看護師か!なるほど!と雅彦は心の中で呟いていた。


「いりませんよーーだ。パイロットは?」

「パイロットはやった事ないなー!フライトアテンダントならあるよ。」


なんだ冗談だったのか。


「先生は?幼稚園の先生はある?」

「あるよー。」


雅彦がここで口を挟んだ。


「裕太!絵美さんは、何でも出来るんだねー。裕太もこうならないとな。」


絵美は雅彦に一瞬いたずらっぽい笑顔を見せて、すぐに裕太に顔を近づけて言った。


「裕太くん、大人になったら絵美のお客さんで来てね。」

「行くー!絵美ちゃんのところ行くー!」

「約束だぞーー!」

「やくそくーー!」


呆然と絵美を眺める雅彦に気付いてないかの様に、絵美は裕太とゆびきりをしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る