第3話

スーパーを出て、自転車の後ろに裕太を乗せて走っていると、裕太が雅彦の服を引っ張った。


「パパ、あの人だよ。」


先程の若い女性が、道路の端の排水溝の上でうずくまる様にして座っている。裕太は雅彦を止めて、彼女の元に駆けていって声を掛けた。


「お姉ちゃん、どうしたの?」

「あっ!さっきの。」


雅彦が追いついて、声を掛けた。


「あのー、どうかしましたか?」


女性は立ち上がって、お辞儀をしながら答えた。


「先程はどうもありがとうございました。」

「いえいえ、どうかしましたか?」

「あっ、いや、自転車の鍵を落としてしまって。でも、大丈夫です。何とかしますから。」


足元には、コンクリートで出来た排水溝のフタが並んでいて、フタに空いている小さな穴から鍵を落としてしまったらしい。


「どれどれ、あーー、有りますね。浅いから、フタを上げたら手で届くな。」

「パパダメだよ。そんなフタ重いのに上げられるわけない。お店で何か借りた方がいいよ。」


「いや、大丈夫だよ。」


雅彦はフタの穴に手をかけて、思いっきり持ち上げると、10cmほどフタが上がった。


「早くしてーー!」


女性は、恐る恐るも手を穴に入れてカギを取った。


「あーーやっぱりダメーー!ゴメン引いて!引いて!引いてーーー!」


雅彦の声に驚いて、慌てて手を引き、すんでのところで挟まる事は無かったが、落ちてくるフタの角に指が擦れて皮が剥けてしまった。


「うわ!血が出てる!ゴメンなさい!」

「パパ、これ!」


裕太がハンカチを渡した。


「病院に行かなきゃ!」

「いや、取りあえず家で消毒した方が早い!」


裕太のハンカチを指にキツく巻き、雅彦は自分の自転車に彼女を乗せて走り出した。裕太は歩いて家に向かった。

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