第2話

帰り道にホームセンターに寄って、自転車のパンクを直してもらってから、スーパーで夕食の買い物をした。


「今日の夕食は、何にしようかなあ。裕太、何がいい?」

「何でもいい!」

「じゃあ、お魚の西京焼きにしようかなあ。ママも好きだし。」

「今日、ママいないよ!しゅっちょーって言ってたよ。」

「あっ、そうだった!出張だったね。裕太覚えてたんだ、えらいぞー!お前は頭いいよなあ。」

「パパが忘れ過ぎなんだよー!」


パパにすかさずこういう突っ込みが出来る幼稚園児こそ、頭良くてえらいと褒められるべきだが、雅彦はそこは全く気付いていない。

結局、夕食は裕太の好きなハンバーグになり、2人でカートを押しながら買い物をしていた。お菓子が並んでいるコーナーに差し掛かった時、裕太が歩くパパを制止する様に立ち止まった。


「裕太、お菓子はまだ家に一杯残ってるんだよー。」


裕太は、人差し指を口に当てて、雅彦を見上げた。


「裕太、ママに内緒なんか無理に決まってるでしょ。今日は買わないから。」


裕太は、いかにもイラっとして、じれったいを表情したが、諦めたらしく隣のレーンに走って行ってしまった。


「おいおい、どうしたんだよ。」


雅彦が追いかけると、裕太は20代中頃ぐらいの女性に耳打ちする様に話しかけていた。


女性は髪の長い、細身の清楚な美人だった。裕太が耳打ちをした途端、品物棚の方に視線を移した。裕太は「じゃあね。」とお姉さんに手を振って、ニコニコしながら雅彦のところに戻って来た。女性は雅彦に軽く会釈した。雅彦は微笑んで会釈を返そうとしたが、咄嗟のことだったので、笑顔が引きつっていた。もう一度、元に居たレーンに戻って雅彦は裕太に訊ねた。


「裕太、知ってる人なのか?」

「ううん。知らない人。」

「何言ってたんだ?」


裕太は雅彦に耳打ちをした。


「お姉さん、お菓子をカバンに入れてた。」

「マジか!!」


雅彦は驚いた様に顔を上げると、数歩先の50代ぐらいの主婦がこちらを睨んでいた。裕太はもう一度、雅彦に耳打ちをした。


「あのおばさんにつかまっちゃうよって言ったの。」


雅彦は、かがんで聞いた姿勢のまま、おばさんを見てしまい、そのおばさんと目が合ってしまった。思いっきり引きつった笑顔で会釈しながら姿勢を戻し、裕太の手を引いて小走りにその場を後にした。

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