第32話 バタフライハント その3


その後、ケイティとイルフは情報交換のため城下の茶屋に入りしばらく話し合った。

結果、まとまることはなかったが認識を改めることができた。

兵が殺されていて、その兵隊に直接"陛下のお命頂戴"と冗談のように書いてあったらしい。

大きな爪で切り裂かれており、遺体はメッセージの書いてあったものを除いて無惨な状態だった。

その兵隊は門兵ではなく、城下を警邏している者であったため陛下は異常に恐れた。

「しばらくかかりそうですね。」

副長のライズはケイティの肩当てを装着する手伝いをしながら一連の話を考察した。

女性でありながらケイティのように実力を認められ副長となった彼女は器用に装備を付けていく。

作業していたからでなく、情報量の少なさから事件の真相が判明することは当然ない。

ひとつ確実なのがケイティの留守である。

「留守はお任せ下さい。城下の者にも情報収集を命じておきます。」

助かる。短く言ったケイティは既に執務用の机にある資料に目を落としている。

ライズは邪魔にならないよう背中で紐を整理して解きやすいよう腰ベルトに端末を挟んだ。

今後の他の隊と協同することはないことを確認したケイティは机の灯りを消した。

「私は明日の朝発つ。長くなるかもしれんがよろしく頼んだ。」

副長は丁寧に浅くお辞儀をした。

短い黒髪が揺れると同時に、彼女は頭を素早く戻した。

視線もケイティを向いておらず、右の壁の向こうを見ているようだ。

何か異変を感じたのだろうか、ケイティが尋ねるより先に馬の蹄が聞こえていることに気付いた。

剣を抜き、用心をして外に出る。

既に暗闇に染まった世界に溶け込むように屋外の風があっという間にふたりを包む。

肌寒さもない季節に、戦慄が寒さを呼ぶ。

馬の蹄は隠すことなくその音量を大していく。

強く響く音は次第に遅く、弱くなっていく。

馬の頭が見えると静寂が戻った。

ざっ、と人が降りた。

「カティアじゃない!」

馬から降りたのはカティアだった。

ケイティは胸を撫で下ろし、いままでの不安に一瞥した。

しかし、ここに彼女が突然訪ねてきたことに胸は淀んでいる。

「突然どうしたの?」

ゆっくりと前進を続けるカティアは普段通りの服装だった。

龍のような鎧を着て、革の茶色がところどころ覗いている。

安心したいがためにいつもの彼女であることを確認したかったからこそ、その異常はすぐにわかった。

「その腕どうしたの?! カティア!」

物言わぬままケイティの前で止まった。

光に当たった彼女の右腕は上腕辺りから出血していた。

まるで鋭い爪に引っかかれたような、魔物を思い出す痕跡。

ライズは速やかに手当てする準備に部屋へ戻った。

目を見開きまじまじとその傷を観察するケイティに、カティアは口を開いた。

「やられた。」

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