第9話 処女×巨蟹 その3


アルフは心地よく、必殺技を放った。

だが彼を占めているのはいくつもの違和感だった。

なぜ試合終了と言われないのか。

なぜ手応えがないのか。

その2つの答えは目下にあった。

ケイティは自らの姿勢をカエルのように低くし、双撃を避けたのだ。

そのまま右に跳躍し、射程範囲から逃れる。

「ほう、貴族の出では思いつかない策だな。」

皇帝が小さく言った。

「やるじゃねェか。まあ、避けるのは得意みたいだがよ……攻撃はどうしたァ!」

アルフは上下の攻撃も含め、より壮絶な連撃で迫った。

反して闘技場は声を落としていた。

アルフの必殺技がケイティに通じなかったことが、逆転劇の展開を孕んでいると思わせたのだ。

圧倒的制圧戦と思われていたそれが、いまやケイティがいかに知力を持って相手を下すか。

少数派の期待が増大していた。

会場の変化に気付く余裕もなく、正面に必死な2人は変わらぬ追撃戦を繰り広げていた。

「さっさと、くたばれェ!」

思い切り爪を地面に突き立てた。

石つぶてが飛び散る中、反撃は今しかないと確信した。

その確信が、相手の追撃を教えてくれた。

ケイティは右に躱した。

アルフはニヤリと口の端を動かしたが、そのまま表情が一転した。

「な、なんだ……?!」

唐突にバランスを崩し、その場に伏せる。

「試合終了ね。」

汗で濡れたケイティの体は、アルフの鎧に乗り、首の隙間に暗器を差し込んでいた。

「試合終了ーー! 勝者はなんと、ケイティ選手でーす!」

闘技場がいままでにないほど沸き上がる。

会場の人からは、ケイティの思惑が見えていたちめだ。

「お前、何しやがったんだ……?!」

「バランスの悪さがあなたの弱点ね。」

アルフにお辞儀をして闘技場を後にする。

追いかけようとした彼は再びバランスを失い、転びそうになった。

足には糸が絡まっていた。

手繰っていき、たどり着いたのはとどめとなった暗器。

ケイティは最初の投擲から、転倒しか狙っていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る