【13-07】久々の訓練
〔変装〕スキルに集中していたからかとにかく眠い。しばしばする目を見開きながら部屋へと向かう。エレベーターを待っていると智也がやってきた。
「瑠太。戻りか?」
「うん。すごく眠くて」
「そのようだな」
眠そうな僕に智也は呆れ顔で頷く。自分でもわかるぐらい声に元気がない。
「話したいことがあったがまた今度にしよう」
「そうしてー」
話したいことが何かは気になったが、すぐに忘れる。とりあえず今はベッドに入りたかった。
「ほら、エレベーター来たぞ」
「おー」
エレベーターに乗る。
「ほら、ついたぞ」
「おー」
僕の部屋の階についたみたいだ。
「おやすみー、智也」
「ああ。おやすみ」
エレベーターを降りてなんとか部屋にたどり着く。
「お、おかえり」
「ただまー」
眠すぎて「い」が消えた。
部屋では拓郎がテレビを見ていた。
「大丈夫か?」
「うん。眠いだけ」
「そんなに眠くなるまで我慢するなよ」
「うん。おやすみ」
「おやすみ」
拓郎との会話も程々に僕は自室への直線距離を歩いてベッドに倒れ込んだ。
ーーーーーーー
朝が来た。
「おはようございます。若」
「おはよう。黒川」
「若。今朝方、矢澤様より連絡がありました」
「矢澤コーチから? 内容は」
「訓練はどうだ? と」
「あ」
そういえば、訓練してないや。アメリカ行ってる間しなかったからすっかり忘れてた。まあ、夏休みってことにしよう。
「それと明後日から新学期です」
「あ」
そうだった。
「うーん。今日はAWやらないほうがいいかな。いや、ログアウトする前にセスタギールが時間をって言ってたっけ」
「であれば、午前中に訓練と新学期の準備を行い、午後からAWをしてはいかがですか?」
「うーん。そうしようか」
僕は早速とばかりに部屋を出て身支度をする。予定はいっぱいだけど朝食は摂らないと。共有スペースに拓郎はいなかった。拓郎に【ふぁみりー】のことを話さないとな。いずれバレるなら言っておかないと。僕は部屋を出た。
朝食後、その足で訓練場に向かった。久しぶりの訓練場だが変わりはない。4階に上がっていつもの部屋に入った。
まずは反応速度の訓練だ。いつものように腕を動かし続けた。2つとも久しぶりだったが以前よりも楽だった。これまでは終わったあとに疲労感があったが、今日はどちらかというと退屈な気分だ。
「若。リンカーを見てください。どうやらこの訓練は卒業のようです」
「ん?」
リンカーには黒川がこれまでの訓練結果を時系列順に並べてくれていた。今日の結果はこれまでと明らかに違っている。
「どういうこと?」
「わかりませんが、この訓練ではこれ以上の成果は見られないでしょう。矢澤コーチに訓練方法の変更を要求しましょう」
「次の訓練が終わったらまとめて報告して」
「かしこまりました」
マルチタスクはおなじみのカーチェイスだ。前はランチャーが関門だったけど今日はどうかな。
「相棒! 今日も頼むぜ!」
久しぶりに会う助手席の味方はいつものようにハイテンションだ。
慣れたハンドルさばきで敵から距離を取っていると例のセリフが聞こえてくる。
「ヘイ! ランチャーが来るぞ!」
やはり僕がおかしいのだろうか。不思議と周囲の確認ができている。初めてのときはランチャーを持った敵に慌てていたが、今は違う。全方位の確認をしながら狙いを定められないように動ける。
しかし、ランチャーを持った敵を仕留める方法がないな。そんなことを思ってると相棒がタイミングよく解決してくれる。
「相棒! 飛行場だ! 飛行場へ行け!」
「どこだ!」
画面上に飛行場までのルートが浮かび上がる。そのルートを見ながら車の運転をする。自由に動けていたときよりも目的地という負荷が掛かることで考えるとことが一気に増えた。
「相棒! 早く飛行場へ!」
助手席の相棒が悲鳴を上げる。
「ああ! 敵のヘリだ!」
ランチャーの次はヘリコプターが登場するようだ。僕は意を決して飛行場への最短ルートを取る。
「ヘイ! 相棒! その道はだめだ! 敵がいるぞ!」
知ってる。
「相棒ー!」
飛行場までのルートで待ち伏せていたランチャー持ちに攻撃され、大破した。
「はあ」
この訓練はまだ続きそうだ。
「お疲れ様です。若」
「んー」
「今日の結果を送っておきます」
「よろしく」
今日の訓練では反応速度とか周囲を把握する力の向上は感じたけど、急な状況の変化には対応できなかった。僕の次の課題はそこなのかもしれないね。
カーチェイスに夢中になっていたらすでに3時間も経っていた。
「部屋戻ろうか」
「先に昼食を取ることを勧めます」
僕は寮に戻った。
ーーーーーーー
昼食を食べて、自室へ。
「準備って言ってもやることある?」
「はい。宿題があります」
「宿題? そんなものあったっけ?」
「はい。夏休み中の活動報告を提出する必要があります」
「あー」
VR高校では夏休みに宿題は出ない。休みの期間を使って大いにAWを満喫するためだ。その代わりに、夏休み中の活動をまとめてレポートにしなければならない。これは僕たちのAW内での活動を知ることが主目的だ。報告があるからには何らかの成果が求められるため、それを文書で示すのだ。
「活動記録はまとめてありますので、体裁を整えてください」
「わかった。ARモード起動して」
僕はARグラスを掛けてARモードで作業した。リンカーの画面は小さいし、操作しづらいのだ。
「こんな感じでいいかな?」
「校閲ソフトを起動します…… 問題なさそうです。お疲れ様です」
「うん。ありがと」
黒川が活動記録をまとめてくれていたから想像以上に本格的な報告書になってしまった。活動報告を読んでまとめる作業だけでもかなりの時間を要した。窓から外を見るとすでに日が陰り出していた。
「これで準備は終わりです」
「よし。じゃあ、AWをやろう」
部屋を出て、VRルームへ向かった。
ーーーーーーー
僕は昨日のドレス姿でログインした。このまま過ごすために着替えなかったのだ。僕はステータスを確認する。
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スキル:再生(限定:核がなくなると再生しなくなる。核は一定時間で再生する)
猛毒(限定:ヒュドラの牙・隠密迷彩蛇の牙)
隠密(限定:隠密迷彩蛇のみ)
迷彩(限定:隠密迷彩蛇のみ)
忍び足
解体
魔力察知
魔力操作
気力操作
刺突
変装
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〔変装〕スキルが無事に追加されていた。それを見て昨日同様に〔変装〕する。最初は画像無しでやろうと思ったけど、うまく顔を作れなかった。やっぱり一回できたからってすぐにできるようになるわけはなかった。画像を出しながら鏡を見て〔変装〕する。鏡を見ながらの〔変装〕は昨日よりもすんなりとできた。これを自分ができる限り顔の魔力を減らしていく。ほんの少しだけ減ったが、大して減らなかった。もっと減らそうとすると色がぼやけてしまう。これが今の僕の限界なんだろう。
「はぁ」
ため息をついて自室を出た。カウンターに入ればセスタギールがグラスを磨いている。ホールには僕とセスタギール以外にいないようだ。
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