【13-05】〔刺突〕の仕組み




 ログイン後、すぐに賞金稼ぎギルドに向かった。

 気の静かもしれないけど、いつもよりも道に迷わなかったと思う。道中、オンの頭突きを無視しながら道を歩いていたから時間の感覚がなかっただけかもしれないけど。

 賞金ギルドは相変わらずだ。


「今日はどうした?」


 ディーラーが僕に問いかける。昨日の会話から考えると、このディーラーが昨日のディーラーと同一人物かはわからない。〔変装〕スキルを使っている別人かもしれない。そう考えると、ディーラーも優秀な賞金稼ぎなのかもしれないな。


「今日は〔属性変換〕について教えてほしいんだ」


 ディーラーは一瞬呆けたように表情を変えずに僕に言う。


「あんたは〔属性変換〕ができると聞いている」

「え?」


 アップデート後、ステータス上の表記が減った。だから、ステータスを見ること自体少なくなったけど、僕の記憶では〔属性変換〕のスキルは持っていないはずだ。




 =======



 スキル:再生(限定:核がなくなると再生しなくなる。核は一定時間で再生する)


     猛毒(限定:ヒュドラの牙・隠密迷彩蛇の牙)


     隠密(限定:隠密迷彩蛇のみ)


     迷彩(限定:隠密迷彩蛇のみ)


     忍び足


     解体


     魔力察知


     魔力操作


     気力操作


     刺突


 =======



 やはりスキル欄には書いてない。


「持ってないけど?」

「〔刺突〕スキルを持っているだろ?」


〔刺突〕は持っている。オーガを倒した時にも活躍したし、もはや僕の戦闘スタイルの根幹に位置するスキルだ。


「〔刺突〕が〔属性変換〕とどう関係するの?」


 ディーラーは納得したような表情をする。


「大蛇、〔属性変換〕スキルの効果を言ってみろ」


 属性変換。

 属性と聞いて思いつくことは、火属性や水属性だ。魔法系の職業をプレイヤーは自然に入手すると聞いている。そのことからも魔力を使って属性を付与する能力のことだと思う。


「魔力に属性を付与するスキル?」

「違う。〔属性変換〕はその名の通り、属性を変換するスキルだ」

「属性を変換って言って、魔力に属性をつけるんでしょ?」

「違う」


 僕は頭が混乱する。まるで頓智のようだ。木魚を叩けば数秒で答えが出るだろうか。いや、冷静になろう。瑠太よ、ここでいったん考え直そう。

 僕が黙るとディーラーも黙って僕の答えを待ってくれる。


 属性をつけるのではなく、変換するということだ。〔属性変換〕をするときはまず魔力を出して、そこに火とか水とか属性を持たせる。いや、これだと〔属性付与〕になるってことかな。変換ということは元の魔力も属性を持っているってことか。でも、そしたら何属性になるのだろう。


「元の魔力にも属性があるってこと?」

「正解だ。魔力の性質を変換するスキルが〔属性変換〕だ」


 なるほど。でも、僕がもう〔属性変換〕を持っているとはどういうことだ。いや、待って。そういえば、ディーラーは僕が〔属性変換〕を持っているとはいってなかったような。


「〔刺突〕には〔属性変換〕を使っているの?」

「そうだ。そこまで分かれば答えは出るだろう?」


 整理しよう。

〔刺突〕スキルには〔属性変換〕を使用する。

 では、ただの魔力っていう属性から刺突属性的な何かに変換しているってことかな。ただの魔力ってのがわからないけどいうなれば無属性的な何かか。それとも、個人ごとに属性が違うって可能性もあるか。


「〔刺突〕は魔力を刺突属性に変換するスキル」

「そうだ。さすが|王宮公認〔ロイヤル〕の称号を持つだけはある」


 マリアさんに〔刺突〕を教わったときのことを思い出すが、〔属性変換〕についてはこれっぽっちも教わっていない。魔力をまとって形を決めただけだ。その程度で属性の変換はできるってことなのかな。


「賞金稼ぎは基礎的なスキルを多用する」


 ディーラーが僕に教えてくれる。


「それは、どのような場面でも効果を発揮するのが基礎的なスキルだからだ。〔魔力操作〕や〔気力操作〕から始まり、〔属性変化〕のようなスキルを身に着けることで、応用力を学ぶ。あんたはまだその途上だ。しっかりと基礎から身に着けることだ」

「うん」


 僕はうなづいた。僕は色をつけようとしていた。でも、今の話を聞いて分かった。魔力の色を変えるのだ。

 腕に魔力を薄く流す。そして、その魔力の色を赤に変える。そう意識するだけで僕の魔力は色を変えた。真っ赤とは言えないけど、昨日の夜よりも間違いなく赤だ。


「〔変装〕を習得中だと聞いた。〔変装〕は色の変化を1つ1つ考えていてはうまくいかない。すでにある顔の再現をしてみろ。それだけで考えることが減る」


 顔を肌色に黒い目が合って眉があって、と考えると大変だということか。僕は腕の魔力を虹色にしてみた。色の順番はわからないから適当に色をつける。そしたら、何とか複数の色に変換できた。


「イメージが足らないな。変えるものをもっと明確に意識しろ」

「うん。コツは掴めたみたいだ」


 僕はうまくできそうだという確信を持つ。

 腕を見ながらであれば、虹もどき模様の腕をマーブル模様に変えることもできた。


「色の次は、すでに使える刺突以外の火や水といった属性や切断、衝撃といった属性への変換を試してみろ。向き不向きはあるがどれも使えるようにしておくと便利だ」

「分かった」


 僕は早く〔属性変換〕でいろいろと試してみたいと逸っている。今日はこのままギルドに戻って部屋で練習しよう。そうだ。どんな顔にするかも考えないといけないや。女装しないといけないし、いっそ女の人の顔にしよう。


「ありがと! また来るね!」


 僕が足早に賞金稼ぎギルドを離れようとするとディーラーが僕を止める。


「待て。折角来たんだからリストの更新をしていけ」

「リスト?」

「賞金首のリストだ」


 すっかり忘れていた。僕は賞金稼ぎギルドのカードを取り出した。


「これでいい。賞金稼ぎは自由な仕事だが、たまには仕事をしろ」

「はぁい」


 僕はうなだれながらも足早にカウンターから離れるという超絶技法によって最速でギルドの自室まで戻った。幸いにも迷子にならなかった。


 ギルドハウスでは暇そうなセスタギールの他にもブライアンさんがいた。


「おお、オロチ。そんなに急いでどうした?」

「〔属性変換〕のコツがわかっていろいろ試したいんです」


 僕はカウンターに入りながら答えた。


「〔属性変換〕か。まだできなかったのか」

「ブライアンさんはできるの?」


 できて当たり前のような回答が返ってきた。ディーラーが基礎的なスキルって言ってたしできて当たり前なのだろうか。


「〔魔力操作〕ができる選手級のプレイヤーはできるだろうな。前衛系のジョブでも〔属性変換〕を使って相手の弱点属性を突く場面は多いな。俺もカズも当然できる」


 そうなのか。僕はみんなができることに悔しいという感情は感じず、トッププレイヤーのブライアンさんやカズさんが当たり前にできるスキルを身につけられることに嬉しい気持ちになる。


「まあ、わからないことがあれば聞いてくれ」

「はい」


 本当にこのギルドに所属できたことは幸運なんだと思う。AWは本当に楽しい。でも、僕はこれでお金をもらうんだ。この幸運を次につなげよう。

 まずは〔属性変換〕だ。これをマスターして〔変装〕スキルをマスターしよう。


 僕は部屋に戻ってログアウトした。





 ーーーーーーー




 ログアウトして、身を起こす。

 ポケットに入れていたイヤホンをつけて、肘掛けから出てきたリンカーを取り出す。

 生徒証のときはコードの取り外しがあったけどリンカーは必要ないのだから不思議だ。


「黒川、どんな顔がいいかな?」


 黒川はAW内のことを把握している。だからこその質問だ。


「女性の顔がいいと思います。若の素顔を隠すのであれば、若の顔とは似つかない顔がいいでしょう」


 それは僕も思っていたことだ。似てない顔というのもいいかもしれない。その顔で『ふぁみりー』のメンバーとして行動すれば普段の顔で活動していても声をかけられたりしないかもしれない。


「どうしよう。誰かの顔を使うわけにはいかないし。なにかないかな?」

「私の方で作成しましょうか?」

「そんなことできるの?」


 はい。いくつかの人の顔から特徴を抽出して、合成しましょう。


「いくつかの顔ってどうするの?」

「若に選んでいただきます」


 僕が選ぶのか。僕はこの中性的な顔立ちでいじめられてた。それを考えるとあまりかっこいいとかかわいいみたいなのはめんどくさそうに思う。


「選ぶって言ってもどこから選ぼうか」

「こちらはどうでしょう。昨年の『世界の美女100人』です」

「美女である必要ある?」

「必要はありませんが、美女であることが話題になれば若と同一人物と思う者がでなくなるのでは」


 世界の美女100人か。黒川の話も一理ある。妥当なのかもしれない。他のサンプルもなさそうだし。


「じゃあ、それでお願い」

「かしこまりました」

「どうせなら絶世の美上にしてね」


 僕は黒川待ちになった。




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