【13-04】〔変装〕スキル習得に向けて
賞金稼ぎギルドではいつものように飲んだくれている人たちがテーブルを占領しているのに対してカウンターには誰も座っていない。
カウンターに付けばディーラーが当然のように水を差し出してきた。
「今日はなにかありましたか?」
「〔変装〕スキルを身に着けたいんだけど。あと〔変声〕スキルも」
「〔変装〕と〔変声〕ですか。教えられる人を紹介することはできますが」
「それでいいよ」
「わかりました」
ディーラーがカウンターの奥に入る。
賞金稼ぎギルドだとスキルも教えてもらえるのか。こんな調子でいろいろなスキルを身に着けられるのであれば賞金稼ぎギルドに入れたことがチートのような気がしてきた。
「では、こちらに」
ディーラーがカウンターに戻ると奥の部屋へと僕を案内した。
「私が教えましょう」
部屋に入るなりディーラーがそう言った。
僕は驚いた表情でうなづいた。
「ディーラーが教えてくれるんだ」
「ええ。ディーラーに必要なスキルですからね。それに教えることも許可されています」
「よろしく」
ディーラーは早速とばかりに話し出す。
「まずは〔変装〕スキルについて。これは簡単に言ってしまえば色の付いた魔力で体を顔や体を覆うことで変装するスキルです。そのため、自身の体より小さいものに変装することは出来ません。では、私の顔をよく見ていてください」
僕はディーラーの顔を注視する。するとディーラーの顔が溶け出して顔が変わった。それはドルヒの顔だった。
そう言えば、ディーラーの口調が前回あったディーラーと違う気がしていたのもこういうことか。おそらくだけどディーラーは皆同じ顔に変装してカウンターに立っているのか。
「何かわかりましたか?」
「いえ。何も」
突然顔が崩れたようにしか見えなかった。
「では、次は私の顔に集中して〔魔力察知〕をかけてください」
僕は言われた通りにディーラーの顔に集中する。たしかディーラーは魔力を使って変装するスキルだって言っていたから魔力を感知するところから始まるのだろう。
「ゆっくりやります」
ディーラーの顔が変わり始めた。
輪郭が変わり鼻が動き眼が動き口も動く。
それと同時に顔の表面を覆っている魔力が動いているのがわかる。
「何かわかりましたか?」
「魔力が動いていたことはわかったよ」
「重畳。では、やってみてください」
僕は魔力で顔を覆う。
「もっと薄く」
僕は覆う魔力を減らしていく。
「もっと」
もっと減らしてみる。ここまでくると操作が難しい。今日のはぐれオーガとの戦いでは全力で魔力を込めていたから感じなかったが、少量の魔力を操作することはとても難しいみたいだ。
「いいでしょう。次は魔力の性質を変化させて色を付けます。私の手を見てください」
ディーラーが自身の右手を僕に見せる。すると、次の瞬間ディーラーの手は真っ赤に変わり、真っ青に変わった。
「これが魔力を使った色の変化です。やり方はわかりましたか?」
一度見ただけではわからないよ。察知していた魔力に動きはなかった。
僕は首を横に振る。
「そうですか。そこまでは察知できませんか。今のはいわゆる魔力の属性変換です。魔法を使う者たちは今のテクニックを使って属性を付与します。そのスキルを〔属性変換〕と言います。〔変装〕スキルでは〔属性変換〕のスキルと同じことを行っていますが、スキルが必要なほど難しくはありません」
「どうやればいいのですか?」
「まずは色を変えてみましょう。手に魔力を集めて、その魔力に対して赤いイメージを持ってください。ああ、顔を覆っている魔力はそのままですよ」
僕は顔の魔力を維持しながら手に魔力を集める。そして、その魔力が赤くなるイメージを持ってみた。
しかし、魔力の色は何一つ変わらない。
「イメージが弱いですね」
僕はもっと強くイメージしてみるが色は変わらない。
「しっかりとイメージして下さい。貴方の腕は赤い。貴方の腕は赤い」
僕は頑張ってイメージをしているがどうも色に変化が起きない。
「仕方ありません。教えてすぐに出来なければ、まだ貴方の練度では属性変換が難しいということでしょう」
ディーラーがそう結論付けた。
僕はもっと鮮明にイメージする。しかし、魔力の色は変わらなかった。
「では、次に行きましょう。〔変声〕スキルは気力を使います。気力を使うことで喉を強化しつつ、喉の動きを変えて望む音を出すスキルなのだが、正直に言います。今の君にこのスキルを気力操作を使って取得することは出来ない。それぐらい難しいスキルです」
僕はそうなのかとして言えなかった。
「一応手本を見せましょう。私の気力に注目していいてください」
ディーラーはそういいながらも途中から徐々にドルヒの声へと変化していた。
「どうだ? 見えたか?」
そのディーラーの話し方はまさにドルヒそのものだった。
僕が見た限りでは気力が喉に集まっているようだが、喉の中を中心に集めているため、僕の察知能力でも少し気力が集まっているぐらいにしか認識できない。
「このスキルを練習するときは絶対に気力で喉を強化するんだ。そうでなければ喉にダメージを負ってしまいます」
いつの間にかディーラーに戻って僕に忠告した。
「わかりました」
「これで以上となります。まずは〔属性変換〕を磨くべきでしょうね。ああそうだ。先に教えた〔変装〕スキルの魔力操作を使えばこんなこともできます」
そういったディーラーの体が見る見るうちに大きくなり、2mほどはあるであろう益荒男に変化していた。
僕はぽっかりと口を開けたまま〔変装〕スキルの汎用性に気が付いてしまった。これを極めればきっと魔力の武器を作ることができると。
「ありがとう」
「いえ。では、戻りましょうか」
ディーラーが部屋を出た。僕は驚いて解いてしまった魔力を改めて顔に集めた。
「少なくともこれは維持できるようになっていよう」
僕は顔を魔力で覆いながらカウンターに戻った。
「いいですね。その調子です。しかし、まだ魔力の薄さが足りていませんね。それであれば魔力察知に長けた人に見破られてしまう」
「うん」
「それと、ここでは賞金稼ぎに必要そうなスキルの情報はいつでも伝えますので、うまくいかないようであればまた来てください」
これで授業は終わりの様だ。
僕はカウンターに置かれた水を飲み干した。
「わかった。また来るね」
僕は賞金稼ぎギルドを出た。目指すはギルドホーム。あそこにいる人たちなら〔属性変換〕のスキルを持っているかもしれない。仮に持っていなくてもギルドホームの自室で好きなだけ練習できるはずだ。
僕は早速地図を広げた。
ーーーーーーーーーーーーー
ギルドホームに着いた。もはやどれほどの間迷子になっていたのかは言うまい。
ギルドホーム内にはセスタギールがぽつんとカウンターに立っているだけだった。
「誰か客くるの?」
「そもそも店を開いていない」
なんでそこに立っているんだ。
「そっか」
僕はカウンターの席に座る。
「セスタギールは〔属性変換〕のスキルって持っている?」
「ああ。俺を誰だと思っている」
謀殺されかけた元騎士団の副団長だよね。
「教えてくれない?」
「......」
無言である。
「だめなの?」
「いや、教える必要はないだろう」
「え?」
セスタギールはカウンターでピカピカのグラスを磨き始めた。
僕はカウンターの奥に入って自室に向かった。
自室に入ると早速ベッドに腰かけて顔を魔力で覆ってみる。出来る限り薄くする。そして、手に魔力を集めて色を付けることを試みる。
ただそんなことは長くは続かない。
「飽きた」
僕はベッドに倒れこむ。
腕の魔力に色はつかないし、顔の魔力についてはそもそも見えない。
「どうしたものか」
そういえばと、はぐれオーガをを倒したときのことを思い出す。限界まで魔力と気力を込めたヒューは陽炎のように歪んで見えた。あれば魔力と気力を見たってことになるのではないだろうか。もし貸したら魔力の濃度が関係するのかもしれない。
僕は起き上がり、魔力を腕に集めた。
そして色を付ける。すると薄っすらと赤く見えた。そうか。今の僕だとほんの少ししか色が出ないんだ。だから、濃度を増やしてようやく色がついたのだ。
ディーラーは魔力を薄くするように言っていた。あれは、バレないための方法であって、色を付けるための助言ではなかったのか。
僕は腕の魔力を見ながらより赤をイメージする。やはり若干赤みがかる。しかし、魔力の量を減らしてみると色は見えなくなる。
「はあ」
僕はまたもベッドに倒れ込む。
結局、この日はこれ以上魔力に色を付けることはできなかった。
翌日、僕は黒川と作戦会議をしていた。
「〔属性変換〕ってどうすればいいんだろう?」
「調べたところ魔法系の職業に付くプレイヤーは自然と覚えるようです」
魔法系は属性変換が必須だからだろうか。
「魔法系以外にはいないのかな?」
「いるようですが取得方法は公開されていません」
やはりないのか。でも、セスタギールは騎士のはずだ。僕の知る限り騎士は魔法系の職業ではないはずだ。つまり、魔法系以外が〔属性変換〕を取得できるのは確実だし、運以外の方法があるはずだ。
「ディーラーがスキルについて教えると言いていたかと思いますが」
「でも、あの時しっかりと教えてくれなかったけど?」
「あのディーラーが教えてくれなかっただけでは? それに、あの時に若が聞いたのは〔属性変換〕ではなく〔変装〕の仕方では?」
「ああ」
たしかに。あの時の言葉からはそうともとれる。
「ディーラーに会ってみよう」
「若、そろそろ新学期の準備を」
そうだ.もう夏休みも終わるのだ.
「明日やろう」
「では,準備をしておきます」
とりあえず棚上げした.
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