【13-02】はぐれオーガ
ところ変わって、森。
僕は〔魔力察知〕と〔気配察知〕を同時に使って大きな気配を探した。
ここへ来るまでの道中でゴブリン含め複数のエネミーに遭遇したが、ヴィーゼの街のモンスターと強さに大きな違いは見えなかった。セスタギールが一撃で処理していたし、僕も複数で攻撃されても優に対処できた。
街からずっとTシャツのままだが、僕の察知では気力で体を覆っていることがわかる。もしかしたら、防御力を高める方法なのかもしれない。
このクエストが終わったら試してみようと思いながら歩を進める。それにしても、アプデが入ってからアバターが動かしやすくなっているのは間違いなさそうだ。そのためかこの探索行もピクニック気分になってきている。
そんな僕の心情を知らずにセスタギールはスタスタと進んでいく。
僕には王都周辺の土地勘はないし、そもそも地図はセスタギールに渡したままだ。
「どこにいるかわかっているの?」
僕はセスタギールに問う。
「すでにオーガの出没した地点に入っている」
セスタギールがなんとなしに言った。
いや、もっと早くに教えてよ。
「それ、教えてよ……」
僕は再度察知を試みるが、周囲に大きな気配はない。
「いなさそうだね」
「ああ、他の地点に行こう」
その後、僕たちははぐれオーガを探して森を探索するがオーガの痕跡すら見つけることが出来なかった。そうして4つ目のはぐれオーガの出没地点に近づいたころ。
「いるね」
「ああ」
僕の察知の端っこに大きな反応が引っかかった。これは魔力かな。
「俺とお前であればオーガであろうとも余裕で倒せる。一気に仕留めるぞ」
僕はセスタギールの提案に対して首を横に振る。
「いや、あれは僕だけでやるよ。今の僕の力量を知りたいから」
セスタギールが僕を見る。
「大丈夫か?」
セスタギールは僕を心配してくれているみたいだ。でも、このイベントは僕がこのはぐれオーガのイベントをスキップできる程度の実力を持っているかの判定に使えると思っているのだ。それに、このイベントはもともと負けイベントだ。負けても損失はないはず。
「もし負けそうになったら助けてよ」
僕はセスタギールの返答を聞かずにはぐれオーガの方へと進む。気配を消して、いつの間にか当たり前になった〔忍び足〕で近づく。
セスタギールはその場で止まっているので了承してくれたのだろう。
さて、ここからははぐれオーガを倒すための作戦を考えよう。僕の武器は尻尾たち。相手はおそらく力で押してくるタイプだろう。僕にとっては苦手なタイプだね。ヒューはいつものように保険だね。ドーとラーで噛みついて毒で侵していく。キーとルーは防御をしつつ〔刺突〕で反撃をする。オンはいつものように隠しながらオーガの眼を狙う。オンでも〔刺突〕を使えば眼球から脳まで一気に貫通できると思う。
それにしてもオーガは僕に気が付かない。もうオーガの後ろ3メートル近くまで来ている。つまり、僕の間合いだ。
オーガがいるのはあまり開けていない場所だ。何やら草むらを手に持ったこん棒でがさがさと掻き分けている。
僕はヒューを動かした。
ばれていないのであれば重畳だ。
温存せずにこのまま仕留めよう。
体中の魔力と気力を総動員した。ヒューの周囲には陽炎のように空間が歪んで見える。ヒューは一直線にオーガの心臓に到達した。
「ぐおぉおぉぉおおおおぉぉぉぉぉおお」
オーガは悲鳴のような叫声を上げて振り返る。
しかし、その時にはすでにヒューは僕の元まで帰ってきている。その口では何やら肉片をむしゃむしゃしている。オンがひそかにその肉を狙っている感覚があるが気のせいだろう。
僕はすかさずヒューとオン以外の尻尾に気力と魔力を振り分けてオーガの四肢の間接を狙った。振り向きざまだったためこん棒を持っている側の膝の関節は壊せなかったがそれ以外は砕いた感触を得た。
オーガは片膝をつく。僕は駆け出した。
今度はオンに魔力と気力を集中する。ヒューと同様に全力の〔刺突〕だ。
片膝をついて低くなった頭に対してオンの一撃は確実に右目をとらえてそのまま頭蓋を貫通した。僕はオンを手元に戻して崩れ落ちるオーガを見ていた。
確実に強くなっている。でも、ちょっと強くなりすぎではないだろうか。隙をつけたとはいえ、こんな簡単でいいのだろうか。それともはぐれオーガはこれほどまでに弱いのだろうか。
いや、僕の尻尾と〔刺突〕の相性がよすぎるのも確かだが。賞金稼ぎギルドに入れたのは本当に幸運だったかもしれない。
じっとオーガを見ている僕の後ろからセスタギールが近づいてくる。
「俺が見くびっていたようだな。ここまで一方的に倒せるとは」
僕はセスタギールを見た。
「このオーガってどれくらいの強さだったの?」
「そうだな。オーガの中では弱い部類になるだろう。しかし、オーガとしての力は十分に持っていたと思う」
「そっか」
僕のしっぽたちが啄むように食事しているのを止めて、メニューからオーガを収納した。
それにしても。何か忘れている気がする。
ーーーーーーーーーーーーー
僕とセスタギールは用のなくなった森から冒険者ギルドに戻ってきた。
またヒソヒソと僕を伺っている気配を感じるけどもう無視しよう。というか、これを気にしていたらまともに生活できなくなりそうだ。
そういえば、王都のギルドではどこに納品すればいいのだろう。
とりあえず聞いてみることにしよう。
「納品はどこですればいいの?」
受付に聞いた。
「こちらで確認いたします。ギルドカードを拝見します」
僕はギルドカードを渡した。
「では、こちらに」
そういって受付の奥に通された。奥と言っても受付の中に入っただけだ。受付の奥に大きなスペースがあり、そこで出せばいいようだ。ヴィーゼの街とは全く違う。隣を見ても同じように受付の奥で収穫物を出している人ばかりだ。
僕はメニューからはぐれオーガを取り出した。ドスンと鈍い音になったがメニューの仕様だから仕方がない。しかし、僕がオーガを取り出した場面をカウンターの周りで見ていたプレイヤーが驚いている様子が見えてしまった。失敗したかもしれない。
「依頼の達成を確認しました。迅速な対応ありがとうございます」
そういって、ギルドカードと報酬を渡される。袋が重いからそれなりの額はもらえたのだろうか。僕は早くここから離れたい一心で足早に退散しようとする。しかし、そううまくはいかないものだ。
「ギルドマスターがお会いしたいそうです。2階でお待ちです」
「え?」
一瞬の驚きの後納得した。こんな形でイベントが続くのかと。
僕たちは2階に向かうべく受付を離れた。
「大蛇、俺は先に戻っているぞ」
セスタギールが2階へ行こうとする僕の方に手を置いて言った。そして、顔を近づけて耳打ちする。
「ギルドマスターとは少なからず知己だからな」
なるほど。元騎士団の副団長だもんね。その方が面倒なことが起こらなさそうだ。
「わかった。先に戻ってて」
そして、セスタギールがいなくなると僕の行く手をさえぎる人がひーふーみーよーと現れる。
「なあ、あんた『ふぁみりー』のメンバーか?」
「すみません。話を聞かせてください」
「俺を『ふぁみりー』に入れてくれよ」
みたいな感じだ。そもそも僕にメンバーを勧誘する権限がないのだけどこのまま無視するのもよくないかな。でも、何も言えることもない。どうしようかと思案しているとヒューが外套から勢いよく顔を出す。声を掛けてきた人たちが後ずさった。
「すみません。人違いだと思います」
ふと口をついて出たのは韜晦だった。いや、でもこれが一番いい気がする。セスタギールが『ふぁみりー』のメンバーだったってことにしよう。
「いや、そんなことは」
あれ? だれも信じてくれない。あれ?
僕は完全に周囲を囲われてどうしようかと悩む。力ずくはもちろんだめだけど、なんか相手が確信しているみたいだし、これ何言っても通じないのでは? 困っている僕を助けたのは鋭く低く響く声だった。
「大蛇。早く来い」
その声は2階から聞こえてきた。2階を見てみれば階段の上に1人の偉丈夫が仁王立ちしていた。
「だれだ?」
「ギルマスか」
あれがギルドマスターらしい。
「呼ばれているので」
そう言って、僕は無理やり囲いを抜けた。
階段を上がると仁王立ちしたギルドマスターが無言でテーブルの1つに向かった。ここでそのまま話すようだ。
席に着けば早速とばかりにギルドマスターが話し出した。
「お前のことは聞いている。『ふぁみりー』のメンバーであると同時に冒険者と賞金稼ぎの両方で|王宮公認〔ロイヤル〕の称号を得た者がいると」
ギルドマスターは1つ間をおいてつづけた。
「はぐれオーガを討伐したと聞いた。|王宮公認〔ロイヤル〕のことを聞いたときは力のない奴が俺たちの頭を超えたのかと思っていたが、一定の力はあるのだろう」
あー。面子的に問題があったってことかな。うーん。僕にはどうしようもないかな。
「賞金稼ぎの出番があればお前に一番に知らせよう。期待しているぞ」
ギルドマスターが席を立つ。
あれ? これだけ? 拍子抜けではあるが、なんか認めてくれたみたいだし一件落着なのかな。いや、これはあれか。もしもはぐれオーガを倒せなければ通常ルートと同様にギルドマスターからクエストを押し付けられていたのかもしれない。はぐれオーガを倒したからスキップしたのかもしれない。
とりあえずこれで話は終わったと思ってよさそうだ。ギルドマスターは受付の奥に引っ込んでしまったし。
さて、僕はアイテムボックスから行きで補充した肉を取り出して尻尾たちに与えた. ちゃんと6つに分けてあるから奪い合いは起きなそうだ。さっきからおなかをオンが何かと頭突いていたからね。
むしゃむしゃと音を聞きながら次のことを考えよう。次、そう。どうやってこの冒険者ギルドを出るかだ。後、どうやってギルドホームまで戻るかだね。
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