【12-08】

 瑠太をはじめとした、ギルド【ふぁみりー】の全員が門を出たころ王妃の部屋には一人の男がいた。


「ひさしいですね。セスタギール」

「ハッ」


 跪き、頭を垂れるセスタギール。


「私はあなたが無実であることを確信しています」

「ありがたき幸せ」

「しかし、あなたが無実である証拠を出すことができないこともわかっています」

「ハッ」


 彼らの会話は主従関係にあるからこその淡々としたものであった。しかし、王妃の顔には笑顔はない。先の会話を見ていたメイドにしかわからないだろう。先ほどまでの冒険者との会話で見せたあの笑顔は本物であったのか。はたまた、同一人物であるのだろうか。そう疑問を持たせるほどに、表情の欠落した女性がそこにいた。


「いずれ騎士団に戻します。しかし、すぐにではありません。わかりますね?」

「ハッ」


 セスタギールには、何かを告げる権限は与えられていない。そもそも、王族に直答することなど恐れ多いものなのだ。セスタギールは緊張で冷や汗を全身から感じながらひたすらに跪いている。


「ですから、今一度姿を隠しなさい」

「ハッ」


 またあのスラムに戻るのだ。セスタギールの野心はこの騒動で半ば折れていた。野心を抱いていても、彼は彼なりに国に尽くし、結果を出してきた。確かに失態を犯した。しかし、売国奴としてののしられるほどのことはしていない。それに、あのスパイは自分が逃がしたものではない。であれば、だれが逃がしたのであるか。勝手に逃げたのであろうか。否。誰かが逃がしたに違いない。であるとすれば、騎士団にはまだ裏切り者がいる。


「そうね。ちょうどいいところがあります」


 王妃様が続ける。


「あのギルドに潜り込みなさい。新しくできたギルドとして賞金稼ぎが加入しているギルドはあれだけ。その賞金稼ぎの彼には先ほど王族公認ロイヤルの称号を渡しました。いざというときに彼を経由すれば、あなたに指示を出すこともできるでしょう」


 王族公認ロイヤルの称号は実に強力だ。オペニングにおいては貴族であろうとも王族公認ロイヤルを持つものをないがしろにはできない。そして、与えられた職業によって王族公認ロイヤルは意味が変わる。

 賞金稼ぎにに与えられる王族公認ロイヤルの意味は、国内のすべてにおける捜査権の付与。すなわち、賞金首を追うときに限り、彼らは騎士と同じ権限を持ち、貴族であろうと従わなければならない。もし、従わずに賞金首をかばうようであれば、貴族ごと処理しても許される。それが王族公認ロイヤル賞金稼ぎバウンティハンターだ。


「あなたの身分も騎士に戻しておきます。当分は私付きの騎士としてあのギルドに潜入しなさい」

「御意に」


「では、行きなさい。定期的に私の手のものがあなたのもとに行きます。その者に報告しなさい。合言葉は『---』です。復唱しなさい」

「『---』」

「では、行きなさい」


 セスタギールは立ち上がり部屋を出る。


 部屋に残された一人の女性。彼女の姿はうすらうすら。彼女の姿は掻き消えた。




ーーーーーーー




 ギルドホームに戻ってきた僕たちは遅れてきたブライアンさんと合流していた。


「ほー。そんなことがあったのか」

「肝心な時にいないわね。あなた」

「すまないな。子供がと遊んでいたんだ」


 話を聞いていると、ブライアンさんはすでに結婚していて子供もいるようだ。子煩悩なのか一度始めると雪崩のように子供の話を始めたが数秒でカズさんに止められる。


「ブライアンの子供の話は置いておいて、今は今後の話をするよ」


 ギルドホームには今のところ五人が膝を突き合わせるようにテーブルはなく、カウンターを挟んでミーティングを始めた。


「闘技大会の件は独断で悪いのだけれど、無効に任せることにしたよ。僕たちとしては大会を主催することではなく、仲間を集めることが重要だからね」

「しかし、そうなると、選手たちのデータを集めるための効率は多少下がりますね」

「うん。でも、規模自体が小さくなると母数が減ってしますから結果的には同じじゃないかなと思ったんだ」

「そうね。正直大会の運営なんて面倒くさかったし、よかったんじゃないの?」

「お前も大概だな」

「なにかしら? ブライアン?」

「あ? 俺の子供の話が聞きたいってか?」

「……いえ。いいわ」


 ブライアンさんの子供の話ってそんなにつまらないのだろうか。


「で、ここで問題が起きるわけです」


 問題? 今僕たちが抱えているもんだって人材不足ぐらいしかないのでは。


「やることがなくなりましたね」


 エドさんがつぶやき、僕以外がため息をつく。なるほど。暇になるってことか。


「とりあえずは内装をどうにかするとか。こまごまとしたことをやっていきましょう」


 子狼さんがそんなことを言うけれど、たぶん彼女は何もしないんだろうな、と僕は確信した。

 僕としては、この後賞金稼ぎギルドに行って報告して、靴を買いに行きたい。あと冒険者ギルドにも行っておいたほうがいいのかな。二階に上がれるようになってるみたいだし、探検してみたいな。あとはレベル上げかな。

 レベル制のゲームはレベルが命。ゲームによっては、レベルがカンストして初めてスタートラインに立てるようなものもある。レベルを上げねば。もう少しでステータスの制限が外れるはずなのだ。最近ステータス確認してないからわからないけど。


「じゃあ、各自解散で。何かあったらギルドチャットに流してね。流れて困る内容はギルドの掲示板にね」


 そう、カズさんが締めて、話し合いは終わった。

 各々が動き出す中。エドさんが僕に話しかけてきた。


「オロチ君。私が見た限りまだ装備がそろってないようだけど、何かこだわりがあるのですか?」

「いえ。そんなことはないんですけど、いいのが見つからなくて」


 この前見た街を散策した時もこれというものを見つけられなかったのだ。


「であれば、ここに行ってみるといいかもしれません。もしかしたら、いいものが見つかるかも」


 そう言って、エドさんが僕に一枚の簡単な地図を渡してくれた。


「行ってみます」

「ええ。もしお金が足りなければ、行ってくださいね。ちゃんと利子は少なめにしておきますから」


 絶対少なくないだろうな思った僕は、今後エドさんからお金を借りないで済むようにゲーム内通貨を集めることも目標に入れた。

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