【12-06】
腰の剣に手を当てるセスタギール。
それに呼応するように僕は自然に腰を落とす。
隠れ家に連れてってくれはさすがにつっこみすぎたか。しかし、どうしたものか。このままセスタギールと戦闘になればおそらく、いや、確実に死に戻りする。またここに来ればいいわけだが、また彼と遭遇できるとは限らない。だからと言って、今この状況を打開できる手札が僕にはない。せめて、ここは反撃せずに無抵抗にキルされて敵意がないことを示すしかないかな。
僕は落としていた腰を上げて、両手を上げて静かに上げた。僕には尻尾があるから手を上げても意味はないけどね。ポーズとしてはやはりこれかなと思う。
尻尾たちにもセスタギールからの攻撃は見逃すように意志を伝達する。
明らかに戦意を消す僕にセスタギールは警戒を強めた。
うん。暗殺者の奇襲に見えるのかもしれない。油断させてぐさりって最早定石だよね。
しかし、警戒をするだけで剣を抜いていないセスタギールに僕は再度交渉をすることにした。
「聞いてくださっ……!!」
背後から聞こえたドンッ! という鈍い重音と共に僕の体を正面へと弾く強い衝撃が僕の身を襲った。
一瞬の驚愕、そして、僕が尻尾の|自動防御〈オートガード〉が発動したことに気づく。慌てて気配を探るが書ン面にいるセスタギール以外に僕の背後に気配はない。遠距離攻撃か僕が気配を察知できない敵というわけだ。
僕は一気に体を変転させて背後を向く。僕の視界に二人の攻撃者らしき人が目に入る。相変わらず気配はない。
「ちょっ……」
僕が推定攻撃者らに声を掛けようと口を開くも言葉となる前に推定攻撃者らの攻撃が開始される。
仕方なく応戦するが、正直僕が対応できるぎりぎりの速度を二人の攻撃者が止めどなく隙もなく攻撃してくる。何とか攻撃をさばいていくが防戦一方。対応できなかった攻撃で僕の傷は増える一方。傷が増えれば出血過多の判定が入って死に至ることもAW
ではある。変なところで凝っているのはいつものことだけど、今は本当に蛇足に思える。
軽快な金属音が僕の背後から聞こえる。気配で相変わらずセスタギールしか確認できないが、おそらく僕を攻撃している二人の仲間がいるのだろう。明らかに剣戟の音が複数重なっている。目の前の二人以上の襲撃者が居るのだろう。
僕は考える。今は正直セスタギールのこと考える余裕はない。応戦するので手いっぱいだ。セスタギールの方に後退することも頭によぎるがセスタギールと共闘できる保証がない現状あと一歩の決心がつかない。
僕の決心はつかなかったが、セスタギールは決断したようだ。
セスタギールが僕の方に走り始める。その速度は僕から見ても早くない。襲撃者をいなしながら僕の方に走ってくる。
僕はそれを感じてついついセスタギールに気を取られてしまう。隙を作った僕に攻撃者二人はここぞとばかりに猛攻を始めるが、僕の|自動防御〈オートガード〉はそんなに簡単には破れない。僕が他のことに気を取られていても僕を守ってくれるのだ。
僕に近づいたセスタギールは僕に一瞥くれるとそのまま僕が来た方向、素材屋のテリトリーの外へ向かって走る。そして、僕に怒鳴りつけるように声を出す。
「ついてこい!」
僕は咄嗟に判断する。ここで襲撃者たちの相手をするよりはセスタギールに付いていった方がよさそうだ。
僕は全尻尾で僕に攻撃を続ける二人を一人ずつ素早く適当に吹き飛ばしてからセスタギールの後を追った。
適当過ぎたのか吹き飛ばした二人はすぐに僕を追ってくるが、セスタギールを襲っていた襲撃者と合流している。これで別口でそれぞれ狙われたという可能性がなくなった。あるとは思えなかったけど一応安心する。
さて、僕は足が遅い。アップデートで個々のステータスの数値がなくなったことから、少しは変わったかなと思いたいものだが、僕は相も変わらず足が遅い。さらに言えば、アプデ前よりも遅くなっている気がする。
セスタギールとの差は開く一方だ。セスタギールの速さを考えれば振り切っていてもおかしくないと思うがどうにか付いていけてるから僕に気を使ってくれているのかもしれない。
僕たちはスラム街を抜けた。
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AWの王都におけるスラム街はある境界線で区切られている。その境を超えればスラム街を出たと判断される。すなわち、今僕たちが剣を抜いてだれかを切れば街の衛兵や騎士がわんさかやってくるというわけだ。ゲーム的と言えばゲーム的だ。
ここまでくれば安心だと思う僕とは違い、セスタギールはそのまま走り続ける。
今セスタギールを逃せば、次の潜伏場所が分かるまで動くことが出来ないし、潜伏場所が見つかる保証自体もない。つまり、僕は今セスタギールを逃すわけにはいかないというわけだ。では、セスタギールはこれからどこへ行くのだろうか。
街に入ったことで移動速度は早歩き程度の速度になる。すこし余裕が出来た僕はセスタギールの身になって考えてみた。セスタギールは暗殺者からネットワーク狙われている。だからスラム街に身を隠していた。前を歩くセスタギールは当てもなく歩いている感じがしない。どこへ向かっているのか。
まず考えられるのは隠れ家。しかし、騎士だったセスタギールが隠れ家なんて持っているだろうか。いや無い、と思う。
隠れ家でないとすれば、誰かの家か。しかし、セスタギールの騎士時代の話から彼をかばえる人が居るとは思えない。
「おい」
セスタギールの身になって考えても分からないな。
「安全な場所はあるか? そこまで連れて行こう。そのかわり俺を追うのはやめろ」
セスタギールの問いに僕は即答しそうになるが、既のところで考える。これはチャンスだと。
彼は行く当てがないのだと僕は思った。でなければ、安全な場所まで一人で行けばいいだけだ。僕がまた見つけられる場所。つまり、あの素材屋のテリトリーのみがセスタギールにとっての隠れ家だったのだ。
「わかった。無事送り届けてくれれば追うのをやめるよ」
そう言って僕は歩き出す。僕は慎重にされど有無を言わせないように行動する。
「行こう」
セスタギールを伴って。
「わかった。契約成立だ」
さあ、ゆこう! いざ、王城へ!
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