【12-03】



 ログイン。僕はまずクランメニューからメンバー用の掲示板を確認した。メンバーへの知らせはない。僕はメニューを閉じた。


 さて、僕はこの後、賞金稼ぎギルドに行く。そのために僕はギルドを出るのだが、こういう時は挨拶をしたほうがいいのだろうか。するとしたら、行ってきますかな。でも、なにか話していたら話を遮ることになる。そもそも今誰がギルドにいるのかもわからない。うーむ。悩ましい。

 視点を変えてみよう。僕が挨拶をしていかなかった時。あれ、オロチ君はどこだろう、となるかもしれない。そうなれば意思疎通能力がないと思われるかもしれない。しかし、話を遮ってまで外出を報告する必要もないと思う。それに何か用があればいつでも連絡出来る。あれ、オロチ君はどこだろう、そうだ連絡してみよう、になる。気にすることもないか。もし報告したとして、あっそうみたいな反応が返ってきたら悲しくなりそうだ。

 僕はいきなり増えた自分よりも歳の上の人との接し方がわからずにいた。


 とりあえず厨房を通って酒場スペースに向かうとそこには誰もいなかった。カズさんもエドさんもいなかったのだ。これ幸いと僕は早歩きでクランを出た。





ーーーーーーーー





 所変わって、賞金稼ぎギルド。

 僕は賞金稼ぎギルドに来ていた。王都の街中で迷ったことはもはや言うまでもないよね。

昨日と同じように酒を煽る呑んべいたちを尻目にカウンターに座った。


「いらっしゃい。要件は?」

「騎士団の裏切り者って賞金首いる?」


 フランクでいいって言われたから敬語は使わなかった。今日のディーラーは昨日とは違う人だ。


「待ってな」


 そして、しばらく待つと冒険者ギルドで僕の案内をしてくれた男の人が店の奥からディーラーと一緒に現れた。


「お前か」

「お前の担当だろう。初仕事は世話役が付く。お前も知っているはずだ」

「俺は案内をしただけだが?」

「今手が空いているだろう?」

「……確かに手は空いているが」

「であれば、問題ないな?」


 ディーラーと彼が連れてきた男の話の内容的に初めての仕事には世話役が付くらしい。これって賞金稼ぎのチュートリアルってことだよね。多分。現に男の人は僕を冒険者ギルドからここに連れてきてくれた人だ。昨日よりも無愛想な感じはない。装いは昨日と変わらず簡素な服だ。


「わかった」

「それでいい。で、騎士団の裏切り者だな?」


 男とディーラーの話は付いたようで僕に話題の矛先が移る。


「はい」

「騎士団の裏切り者だと? やつはリストにないはずだ」

「リストにない賞金首の情報を掴んでくるとは有望じゃないか」

「白々しい。お前らはなぜこいつがセスタギールを知っているか知っているんだろう?」

「ああ。知っているとも。それをお前に話す必要がないことも知っている」

「ちっ。覚えておけ。昨日はあんなことを言ったが、ディーラーは賞金稼ぎの味方だが全ての情報を教えてくれるわけではない」


 男が苦々しい顔で吐き捨てる。彼はリストにない騎士団の裏切り者のことを知っていたようだ。彼曰くリストに乗っていない賞金首。そのことを知っているだけで彼の賞金稼ぎとしての腕が高いと思わされる。

 僕は頷く。このディーラーだけでなく賞金稼ぎギルドとして僕の情報を持っているということだろう。王宮での会話の内容も知っているということは王城内に賞金稼ぎギルドのスパイがいるわけだ。いや、リークって可能性もあるか。でも、スパイがいる可能性を考慮したほうがいいのかな。下手なことは言えないな。


「セスタギールは元第二騎士団の副団長だった男だ」


 案内役の男曰く、セスタギールは貴族の出で、優れた武才を発揮して若くして第二騎士団の副団長に抜擢されたのだそうだ。しかし、彼のような武才を持っているものが彼だけというわけはなく、彼の出世はそこで止まってしまった。彼の上に立つ者は彼と同じようになにかの才に秀でた英傑たちだからだ。普通に考えれば時とともに上に登れるのだが、彼は不満だった。事あるごとに功を急ぎ、上下ともに禍根を残しながら実績を積んでいった。その結果、次第に王国内で彼を疎んじる風潮が生まれる。単純に指示を聞かない駒はいらないのだ。多少のやんちゃの域を超えた彼は宮廷内での立場をなくしていった。そして、事件が起きた。


 ある日、第二騎士団総出でとある任務に携わっていた時のこと。自国に潜入したと思われる他国の密偵を捕縛する任務だ。そこで、彼は重大なミスを犯した。捕縛に成功した捕虜を逃してしまったのだそうだ。しかも、その捕虜はすでに王国の重大な機密を盗んでいた。セスタギールはこれらから他国に通ずる反逆者として処理された。

 しかし、さすがと言うべきかセスタギールは王国で有数の実力者であったために、セスタギールの捕縛に失敗したのだそうだ。なんでも自らの危機を察知して姿をくらませたのだそうだ。


「セスタギールは確かに嫌われ者だったが孤独ではなかった。彼自身は正義漢で少なからず慕われていた。独断が多くともその言動は騎士団の副団長にふさわしいものだった。当然彼を擁護する声もあっただろうに国の上層部の決断は早かった。つまり、そういうことだろう」

「つまり?」


 どういうことだ。擁護する声を無視して彼は反逆者とされた。それは確定的な証拠があったからではないのか。なかった場合はどうなる。それっぽいから反逆者にした。この場合は本物の反逆者が反逆者として処罰されなくなる。本物の反逆者が見つかったからセスタギールは無罪でしたなんて理屈は通らない。でも、秘密裏の処理では内外に示しがつかないよね。

 しかし、意味深な言い方をするということはなにかしらの理由があるわけで。うーん。国自体にデメリットがないパターンを探そう。国にデメリットがないパターンは狂言。いや、嘘か。これなら国自体にデメリットがないのかもしれない。でも、こんなひどい嘘ありえないよね。だって、あからさますぎて政敵に突かれる弱点になる。それに、早さの理由と相反する。決断が早く実行も早いとすればそれは予定調和と言い換えることができる。反対の声が上がらなかったか無視しても問題ないほど小さなものだったかだ。


「わかったか?」


 急に黙り込んで思考を始めた僕を待っていたように男が僕に聞く。それにしても、彼の名前はなんだろう。


「わからない」

「まだまだだな」


 男は無表情で言う。僕が未熟なんてことは百も承知でしょうに。しかし、答えはなんだろう。推論を重ねただけでも彼を探す上で重要な情報に思える。正確な情報が欲しい。そもそも彼が本当に反逆者であれば国内にいないよね。これ達成できるのかな。


「なぜセスタギールを追うのかは聞かない。だが、俺が指導するからには俺の指示には従ってもらう。いいな?」

「はい」


 僕はこの一連の流れがチュートリアルだと勝手に確信しているから否はない。流されるだけだ。

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