【11-11】
これから王城に向かうみたいだ。どうしよう。とりあえず察知スキルは隣に置いておこう。操作スキルで全力で気配を消そうと決意する。僕は気配と一緒に魔力も抑えた。〔気配隠蔽〕と同じ要領で魔力も操作した。察知スキルと違って処理する情報がないからこっちの方が楽みたいだ。
「昨日も思ったが〔気力操作〕は持ってるんだな」
「はい」
ブライアンさんは〔気力操作〕を知ってるのか。僕が今、気力を操作したって分かるんだね。ということは、察知スキルは今も使っている訳だ。
「どうやって習得したの?」
小狼さんに習得場所を聞かれる。答えたくないな。でも、いや、うーん。
「賞金稼ぎギルドです」
結局、答えた。マリアさんのことを言わずに賞金稼ぎギルドで教えてもらえると少しぼかしたけど。同じギルドにはい言ってて所属をぼかし続けるのは無理だ。いずればれるなら早い方がいい。
「賞金稼ぎギルドね。真似できないわ」
小狼さんは溜息をつく。
「あそこは自分から入れないって聞くもんね」
賞金稼ぎギルドって自分から入れないんだ。初耳です。賞金稼ぎギルドの場所を探し当てれば入れてくれるのかと思ってた。
僕らは何気なく会話しているけど、階段を降り始めてから階下ではざわめきというよりどよめきが起きている。昨日のことは既に掲示板に書かれていたからもしかしたら下にいる人の中には情報を集めるためにここで張っていた人もいるかもしれない。彼らにしてみれば、ここ数日でのビッグニュースになるのだろう。
「対人戦闘を前提にしたギルドで犯罪に手を染めないギルドはどこもそうよね」
「何か条件があるんだろ。俺たちだって他の奴らからしたらうらやまれるようなユニークなイベントをこなしてるだろ」
「そうね」
ブライアンさんの言葉。別に僕は特別じゃない。この三人のような有力プレイヤーには、僕よりもすごいイベントを引き当てた人がいるはずだ。そう考えれば、僕以外の賞金稼ぎプレイヤーがいるっていう予想も当たっているはず。
ギルドを出て街を歩くけどその後ろに人がゾロゾロと付いて来ている。やめてほしい。アプデ後で新しいイベントの情報が出回ってないから少しでも情報がほしいのかもしれないけど迷惑だよ。僕以外の三人は意に介さず談笑しているけど僕は無言だ。時折返事をするけど基本無言。それで王城までたどり着いた。三人と何を反せばいいのかという問題もあるけど、それ以上にこの状況が嫌だ。
王城に近づけば徐々に周りの建物も高級な外観になってくる。玄関には門番が立つ家が多い。銅像が立っていたり門に家紋が彫られていたり、明らかに貴族っぽい感じだ。貴族、それか、名族みたいな人の家になるのかな。ここまで来る頃には後ろを歩く人たちは少なくなっていた。明らかにイベントに向かう動きに見えるだろうけど自分が参加できると思えなかったのかもしれない。普通に考えて、僕らがどこかの家に入っても彼らは入れないからね。
王城はとても大きい。王都は背の高い建物が多いから遠くからは見えなかったけど、近づくに連れてその威風を目で感じられるようになる。これ作った人大変だっただろうな。主にデータの打ち込みで。
巨大な城を囲む城壁は近くで見れば万里の長城のように端が見えない。城壁の外には広く深い堀。それを渡すように架けられた橋は車が六台は優に並べられる幅だ。これ上げられるのか疑問に思う。
下げられた長い跳ね橋を渡ればそこで僕らは警備兵に止められる。警備兵というよりも騎士かな。ギルドカードの提示を求められて僕も提出した。騎士がギルドカードの情報を記録すると返却され城へと通された。案内役として騎士四人が僕らを囲っている。よく見れば、それは僕らを護衛しているのではなく僕らから他者を護衛している様子だ。
「こんな簡単に入れるんですね」
「まあね」
「ストーリーで一回来ると入れるようになるのよ」
またストーリーだ。僕も必ずやろう。でも、こんなにストーリーが重要な鍵を握っている様子なのにおまけ程度に見られていたのは何故だろう。アプデ前はあまり王城に入る必要があるイベントが少なかったのかもしれない。それとも見つかってなかっただけか。みんなが隠してたって可能性もあるね。
騎士に案内されて歩いていると膝丈の黒い半ズボンにストッキングのようなものを着用した青年が僕らを待っていた。変わった服装だ。
「お待ちしておりました。ここからは私がご案内します」
それだけ騎士の人たちに言って僕たちの先頭に立って歩き出す。一番大きな城の横を通り、別に建つ小さめの宮殿に入っていく。宮の中ではメイドさんたちが忙しなく仕事をこなしている。僕たちが目に入ると仕事を止めて、一礼する。そして、通り過ぎるとまた仕事を再開した。僕には彼女たちの気配を感じられる。しかし、それらは常に一定で極めて安定しているようにも感じる。言い換えれば、完全にコントロールされているように感じる。
バトルメイドとか言う奴だろうか。それとも、メイドだからだろうか。
宮殿の中は高そうな壺が並べてあるわけでも甲冑が置かれているわけでもない。絨毯は深みのある茶系の色が映えていて、壁も暗い暖色でまとめられている。高そうな壺だけでは置かれていないが、花が飾られているのは何度か見た。
壁は無地ではなく全体を通して花や木、根や蔦という草木の模様が描かれている。
「こちらです」
前を歩く青年に付いて行けば、ある一室の扉の前で燕尾服をきた男性が立っているのが見えた。
「お客人をお連れしました」
「ご苦労」
短く会話した二人。青年が僕たちの方を向いた。
「では、私はこれで失礼いたします」
それだけ言って、青年は来た通路を戻る。変わるように執事が僕たちに言った。
「主人がお待ちです」
僕たちを一人一人確認するように目線を動かした執事。彼は僕を見るとカズさんたちを見て言う。
「彼は?」
「うちのメンバーだよ」
カズさんの答えを聞いて執事はうなづく。
「ギルドカードを拝見」
執事が僕にカードを見せるように言う。僕は素直にカードを渡した。
「拝見しました。賞金稼ぎとは顔が広いですね」
僕のギルドカードをちらりと一瞥しただけで執事は僕が賞金稼ぎであることを言い当てる。
執事が扉をノックする。扉には華美な装飾の付いたドアノッカーが付いている。ペキッて折れてしまいそうで僕は使いたくないな。
扉が少し開き、中からメイド服を着た女性が顔を出して執事の顔を確認してから扉を閉めた。
「どうぞ」
彼が扉を開ける。
扉は両開き。ドアノッカーと同じように扉自体にも荘厳な装飾が施されている。壁の装飾と同じように草木の装飾だが、扉の中央には大輪の花が咲き誇っている。金属で出来ているであろう扉は軽やかに音もなく開いた。
廊下から見える部屋の中は僕が見たことのある部屋だった。
中世の貴族が使っていそうな部屋。大きなクローゼットに大きな姿見、天幕付きのベッドに、高級なテーブルと椅子。そのすべてに華美な装飾が付いている。
あの時は分からなかったけど、どれも長年使用された痕跡が傷や凹みとなって僕の目に入る。部屋の中にはティーカップでお茶を飲むあの貴婦人。
「妃殿下。お客人が参られました」
執事が貴婦人に向かって頭を下げている。あれ。妃殿下って。王妃様じゃね。
「お久しぶりですね」
貴婦人、改め、王妃とカズさんたちが話をしている。なにやら取引をしているみたいだ。それにしても、王妃というだけあって洗練された仕草だ。なんというか無駄がない。カズさんたちは気にならないのだろうか。僕は緊張してか全然話を聞いていなかった。
「では、彼にも試練を出しましょう」
彼と言われてすぐには反応できなかった。数秒遅れて僕のことだと気づく。
「彼にはある賞金首を追ってもらいましょう」
僕が賞金首を追う、と。いやいや。無理ですよ。これを条件に入れられてしまうとギルド設立から遠のいてしまう。
なんとか拒否したいところだけど王妃に対して話していいのだろうか。よく小説で「直答を許す」って王様が言っているし。ダメな可能性もあるよね。
僕が内心あたふたしているのを知らずか三人は話を進めてしまう。
「誰を追えばいいんだ?」
「それは彼にだけ教えます」
ブライアンさんが聞くが、王妃は答えない。王妃はメイドに差し出された紙になにやら書き込んでペンと紙をメイドに預けた。
「どうするの? カズ」
「達成不可能な条件は出ないはずだよ。だから、ここは受けるのが正解だと思う」
「問題はこいつでも達成できるかどうかだな」
「それは私たちが協力すればいいだけだわ」
「それにこの流れはあれだろ?」
「うん。もしかしたら最短スキップかもね」
三人がボソボソと相談している。チャンスだ。三人になら話し掛けてもいいはずだ。
「いや、まっ……」
「受けましょう」
待ってー。
「ふふ。よかったわ。では、朗報を待っているわね」
王妃がいつのまにかメイドが新しく注いだ紅茶に口を付ける。
「では、許可の方、よろしくお願いします」
「ええ。数日後には許可を出します。その時にまた使いを送ります」
あれ。許可は出るのか。じゃあ、僕の試練とやらはなんなんだ。
「では」
「お送りして」
「かしこまりました」
ずっと仁王立ち沈黙という石像のような仕事をしていた執事は素早く答えて扉を開いた。
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執事の案内で跳ね橋の辺りまで戻ってきた。
「これを」
執事が僕に紙を渡してくる。二つ折りにされた紙だ。
「ここに名前が書かれています。その者を追ってください」
僕は紙をもらって開こうとする。それを、執事が止める。
「それは一人の時に見てください」
一人の時、今はダメってことだね。僕はアイテムボックスに紙をしまった。
そこから執事に見送られて王城を出た。
「これで一安心ね」
「活動の拠点は見つかってんだろう?」
「うん。昨日エドから見つかったって報告あったよ」
「メンバーはどうするんだ? 他の候補居たか?
「私はいいのが見つからなかったわ」
「ああ、俺もだ」
「それに付いては考えがあるよ」
「考え?」
「オーディションでもするの?」
「PvPのイベントを開くってのはどうかな?」
三人が重要な話をしている横で僕は大いに困惑していた。アイテムボックスにしまった紙になにが書かれているのか。人名だろうけど、達成できるのか。そして、なぜ、王妃の体から気配も魔力も感じなかったのか。
僕は困惑していた。
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