【11-10】
迷子になった。
ここどこだろう。王都広すぎるよ。数年前では考えられないレベルのデータ量だよ。
最初は大通りを巡っていれば冒険者ギルドはなくとも地図に書かれた場所を見つけられると思ったのだ。しかし、手がかりがなさすぎてそれも見つからない。
仕方なく冒険者っぽい人の後を追うこと四回目。うち二回は宿へ。一回は自宅。今、四人目の尾行中。
王都の街はさっぱりだけど忍足と察知系スキルの練度が上がってる気がするよ。
あ、この人も自宅らしき家に入った。玄関で妻と娘の歓迎を受けている。ぐぬぬ。
僕は気を取り直して新しい冒険者を探す。ちょうど周囲を見渡せばそれっぽい人を発見した。男だ。武具防具だけでなく大きな手荷物を持っている。あれはもしかすると野営の道具かもしれない。思えば、これまでの四人は装備以外手ぶらだった。もし後日の僕が今の考えを書いていたらこういうだろう「アイテムボックスあるやん」と。でも、失念してたんだから仕方ないよね。
彼の後を追うこと数分。とうとう僕は冒険者ギルドにたどり着いた。僕はやり遂げたのだ。この偉業に僕自身を称えようではないか!
僕は意気揚々と冒険者ギルドに入った。そして、肩を叩かれる。
「俺に何か?」
僕の肩を叩いたのは男。僕がつけていた男だった。
「特になにも?」
僕はとぼけた。だって、本当になにもないもん。
「そうか」
男は気のせいだったと去っていく。彼の顔はよく見れば覚えのあるような顔をしているような。全体的に濃い顔に歳を経た渋みが出ている。男がギルドの人混みをかき分けて入る姿を見てから僕も二階への階段に向かう。
僕が昨日と同じように階段を登ろうとすると階段のそばにいた男の人に止められる。ギルドの職員の制服を着ていることから冒険者ギルドの職員だと分かる。
「ギルドカードを拝見」
僕はギルドカードを渡す。やっぱり上に行くには条件があるのかな。昨日あれだけ騒いでいたのに上まで来た人はいなかった。そして、今の誰何。上がれなかったと考えられる。
「申し訳ありません。貴方では上に行けません」
職員はそう言って僕にギルドカードを返した。昨日は行けたけど彼の言葉から考えれば昨日の僕は上に行く条件を満たしていたことになる。うん。カズさんだね。おそらくは上に行ける冒険者と一緒であればいけるとかだろう。
「分かりました」
僕はそれだけ言って階段を離れた。そんな僕を見て残念そうな顔をしている人が数人目に入った。なぜ残念そうなんだろう。
僕はメニューを開いて時間を確認した。時間的には余裕があるほどではないけど待ち合わせの時間には早い。
僕は階段付近の壁に背中を合わせる形で立つ。ここで待っていれば三人のうち誰かが通った時に声をかけられる。もしも三人が通らなかったら待ち合わせ時間にフレンドチャットしよう。
そう決めた僕はぼんやりと立ちながらギルドの中を観察した。察知系スキルの同時使用は最初ほど苦労せずに使えるようになっている。すでに無意識でできる忍び足は除くとして、察知系だけに集中すれば気力も魔力も同じレベルで察知できると思う。それでも、気力の方が楽だから脳の使用率で言えば魔力八の気力二って感じかな。まだ戦闘中に使えるレベルではないかな。
冒険者ギルドには魔力と気力も両方に反応する冒険者がほとんどだ。しかし、中には片方だけの冒険者もいる。彼らはどちらかの力に精通しているということだね。決して少ないとは言えない数だ。彼らと戦闘するためには察知が重要ってことだね。早い段階でこのスキルを知れたの運が良かったんだろうな。僕、本当にAWに関しては運がいいんだよなー。どこかでしっぺ返しが来ないといいけど。
やがてざわめく冒険者ギルド。昨日と同じだ。僕は見過ごさないように階段前とざわめきの中心に意識を向ける。ざわめきの中心はどうやら受付に向かったようだ。依頼を受けるのだろうか。しかし、依頼の達成だろうか。
しばらくしても特に僕が求めていた反応はなく、受付で用を成した誰かは冒険者ギルドを出て行った。まあ、有名人なんていっぱいいるからね。
待ち合わせ時間の数分前。またもざわめく。今度のざわめきは徐々に階段の方に向かっているみたいだ。そして、階段を登り始める。僕と同じように階段を登れない人たちが階段の下で止められている。だから、一段二段と登る人の姿が見える。丸っこいフォルムとぴったり似合うケモミミだ。カズさんはわかりやすいね。
僕はメニューに目を落としてフレンドチャットを開く。
さて、カズさんがあのまま登るのは良しとして僕が登る方法だ。昨日みたいにカズさんが下まで来てしまうとまた騒がれる。しかし、僕だけでは登れない。うーむ。僕がメニューを見て悩んでいるとざわめきの音が変わる。僕が目を上げれば目の前にカズさんが見える。ゆっくりと歩いて僕の前に立つ。
「あれ? 登らないの?」
これ僕に言ってるよね。というか、よく気づいたよね。
「登れませんでした」
「あれ? あ、そうか。じゃあ、一緒に登ろう」
僕は昨日に続いて彼の後ろを歩くことになった。
「ストーリーは進めた?」
「まだです。はぐれオーガもやってません」
AWのストーリーのことだよね。まだだ。はぐれオーガの依頼も断ったし。
「進めておくといいよ。二階に上がらるようになる近道だから」
ストーリーだけでは無理だけど最短距離ではあるってことか。明日ははぐれオーガやろう。
「ギルドの許可は取れそうだよ。アプデで更新されたシステムがまだイマイチわからないけど明日にでも格上げだけは出来る」
ギルドってそんなにる簡単に作れるものなのだろうか。まだアプデ後一週間ほどだけどAWでは三週間。誰も見つけられなかったギルドの許可をカズさんが見つけたってことになるけど。
「これもストーリーをクリアしてた特権だね」
ストーリーっておまけ扱いだったはずなのに、僕の中ではいきなり重要性が増してきている。オーガ倒せるといいな。
僕たちは空いているテーブルを占拠する。そのあとすぐに小狼さんは来た。しかし、ブライアンさんは少し遅れてきた。二人はそうなることがわかっていたのか特に怒ることもなく会話を始める。
「じゃあ、会議を始めようか」
「あいつらはまだ来ないのか?」
「興味ないってさ」
「こだわりもないでしょうからほっときましょう」
あいつらっていうのは僕の他にいるっていうメンバーのことだよね。手早くクランメニューの名簿を確認するけど、四人しか名前がないからまだ入っていないんだね。
「ギルドは立ち上げ準備は完了したよ」
「そうか。予想通りだったか?」
「うん。概ね正解だったね。外れてた条件もそこまで差はなかったよ」
「じゃあ、始められるわね」
僕は頷いておいた。
「最後の仕上げのためにこれから王城いくよ」
王城。
「王城?」
僕は反射的に聞き返していた。
「うん。僕たちが予想していた通り、ギルドの許可は国から降りるみたいでね。条件を満たしているクランが活動したい国に許可を求める仕組みなんだよ」
「現代社会と対して変わらないのよ。仕組み自体はね」
小狼さんの言葉で分かる。ギルドも会社みたいな組織の一つってことだね。補助金とか降りるのかな。
「俺たちがアプデ後最初のギルドになる訳だ。また目立っちまうな」
「嬉しいんでしょ?」
「まあな」
「ゲームで最初のなにかを手に入れるのはトップを走る特権だからね。有名税だよ」
カズさんが立ち上がり、ブライアンと小狼さんも立ち上がる。僕も立ち上がるけど、僕も一緒に行くのかな。
「全員で行くんですか?」
「うん。決まっているメンバーはみんな来るように言われたから」
「あ? じゃあ、あいつらも呼んだのか?」
「いや、彼らはまだクランに入ってないから」
「クランがギルドに格上げするって考えれば、今はクランに所属しているメンバーになるわね」
「そゆこと」
今は四人ってことだね。うん。僕も行くんだね。
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